おかしいですって

 ご存知とは思いますが、とうとう、お隣で戦争が始まってしまいました。勘弁してほしい。

 こちらへ直接の被害はないとはいえ、皆さんそれぞれ心配事があると思います。今の内に生活に余裕を持っておいたほうがいいかもしれません。


 以前書いた通り、魔術師は悪魔の対処に追われることになりそうです。もっとも、まだ予測の上の話であり、誰も経験していないことなので、本格的に備えている魔術師は少数ですが。

 他の魔術師への忠告も兼ねて言っておくと、悪魔討伐の依頼・指令は必ず来ます。普段は悪魔討伐を避けていて、今回も「騒いでいる連中がいるけどどうせ来ない」と思っている人は、特に注意した方がいいでしょう。


 まあ、どうせ行けと言われたら行かなきゃいけないんだから、こんなこと書いても、あんまり意味ないかしら。準備不足のまま、悪魔の前に引きずり出されることにはなっても知ったことではありませんが。

 もちろん、私は一通りの準備を終えています。ついでに、見通しの甘さ故にてんやわんやしている魔術師さんたちをせせら笑いながら飲む用の酒も、ギルド前の酒場に置いてもらってあります。ちょっと奮発しました。


 何なら、既に数体、流れてきた悪魔が確認されているようです。早くない?

 今は騎士隊が対処してくれていますが、始まった直後でこれなら、ギルドに仕事が回ってくるのも時間の問題です。


 冒険者ギルドは、魔術師よりも一足先に大忙しの様子。ある魔物が大量に、悪魔に追い立てられる形で流れ込んできたらしいです。ギルドではちょっとした騒ぎになっていましたね。

 この辺りではあまり生息していない魔物なので、ほとんどの冒険者にとっては慣れない相手。魔物の名前は、スライムと言います。


 一応私は、この目でスライムを見る機会がありました。出身地が結構西の方なので。

 外見の説明は難しいのですが、ちょっと固形っぽいぶよぶよの水の塊を想像してもらえればいいです。生き物かどうかも怪しい。


 聞いた話ですが、実際スライムは生物かどうか怪しいそうです。けど人に被害を出すのは確かだし、魔力を持っているし、得体が知れないから魔物でいいか、ということで「魔物」として扱われています。

 いい加減、この雑すぎる「魔物」という分類を改めるべきだろう……。というのは、魔術師では定番の愚痴です。いや本当に、仕事していて困ることがあるんですよ。


 スライムは、そもそも刃が通りにくい。切断できても、しばらくすると切られた体のそれぞれが、別のスライムとして動きだすという、気味の悪い生態をしています。あんまり小さく切ってやるとそのまま動かなくなりますが(死んでいる、ってことでいいの?)。


 ちなみに魔術師ならば、切ったりせずとも直接破裂させることができます。生き物のクセに何故か滅茶苦茶魔素を持っているので、魔法解除するみたいに扱ってやると、その場でパン!です。余談ですが、悪魔もこの要領で倒します。


 しかし、ここまで書いてみて改めて思いましたが、やっぱりスライムは生き物じゃありませんよ。おかしいですって、やっぱり。

 とは言ってみるものの、わざわざお偉い学者さんに文句言うほど困っているわけでもなく……。これを読んでいるそこのあなた、代わりに言いに行ってきてくれませんか?

 (エスメラ)

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