護衛なんて大っ嫌い
先日、商人さんの護衛依頼を受けて、昨日に帰ってきました。よく眠れたので疲れは残っていません。
護衛の仕事は、往復両方の護衛を受けることで、依頼主と一緒に帰ってくるのが一般的です。もちろん、依頼主の用事が済むまでは向こうで滞在することになりますし、滞在費は自分で払わねばなりません(その分報酬に色をつけてくれるものですが)。
ですが、私は時間を取られるのが面倒なので、片道の護衛だけ引き受けて、到着したら転移で帰ってくることが多いです。
馴染みのない土地で暇を持て余すのって、落ち着かないのよねえ。帰ってもダラダラしているだけなんだけど。
こういうとき、転移は習得しておいて良かったなあとしみじみ思います。難しい術式だけど、とっても便利。
人体に直接作用する魔術は難易度が高い、という話は前にしましたが、転移もこの例に漏れません。私も今は慣れているのでぱっぱと使用できるんですけど、初めのうちは準備に三十分ぐらい使いましたねえ。
ちなみに、転移について「服とかはどうやって移動させてるの?」と聞かれることがよくあります。これの答えはごく単純で、「服も一緒に転移させている」です。
なので、服を指定し忘れていて転移したら素っ裸、という失敗は、魔術師にとってはよくある笑い話です。よっぽど焦っていたのか、裸で魔術師ギルドに転移してきた人もいましたねえ。結構な熟練者でしたが、いやはや魔術に焦りは禁物であります。
名誉のために言っておくと、私はこの手の失敗はしたことありません。本当ですよ?部屋の床ごと転移したことはありますが。
さてさて護衛の話ですが、あれは正直、なかなか退屈なのです。依頼主だってよっぽどの理由がなければ、安全な道を、安全な時間に通ることを選択しますから。魔物やらならず者やら、早々出てきません。
もちろん、だからと言って油断してお喋りなんて二流のすること。常に警戒して気を張ってはいますが、緊張を保って備えているからこそ、余計に強く、退屈を感じるというものです。
以上の理由により、私は護衛依頼は好きではありません。それでも何故、今回護衛を引き受けたかと言うと、依頼主の方が有名で裕福な商人様であったからに他なりません。
もっとも、報酬は仕事の種類ごとに、ギルドがある程度の規格を決めています。お金持ちからの依頼だから報酬いっぱい、というわけにはいきません。
しかし、依頼主が報酬とは別の「お礼の印」を渡すことも、決して少なくはないのです。金欠だった私は、単独で受けられそうだったこともあって、躊躇いなく引き受けました。
そして目的地到着後、依頼主様が何やら平べったい箱を下さるではないですか。やったあ、期待通り。もちろん、その場で中身を見るような無作法は致しません。依頼主様と別れてから、胸を躍らせて開封しました。
すると中に入っていたのは、絵でした。綺麗な絵です。しかし、私にはこの絵にどれほどの価値があるかなど、見当もつきません。
どこの高名な画家様か、と思ってわざわざ戻って依頼主様に伺うと「今年十になる息子が以前描いたものだが、よく出来ているだろう」とおっしゃるではありませんか。
その場で燃やしてやろうかと考えましたが、何とか思いとどまりました。えらい。
とはいえ我慢の限界だったので、さっさと転移で帰って、すぐに焼き尽くしましたが。こういうものは、燃やすと気分が晴れやかになりますね。
(エスメラ)
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