花より団子 世界一の美少女が選んだのがぽっちゃりの僕だなんて
アールケイ
キミに恋をして
それはなんてことない日常。
それは普遍的な連続性の出来事。
学校一のイケメンと言われた男がそこにいた。そして、その男の目の前にいたのが世界一の美少女。
誰もが羨み、誰もが妬み、誰もが嫉妬し、誰もが好いてしまう、そんな美少女がそこにいた。可愛さ、可憐さ、そんな彼女の容姿に、時折見せる妖艶さが人を
それは誰であっても同じであった。その男もまた、これから告白するところなのだから。
もし彼が振られたら、きっとこの学校で彼女と付き合うものはいないのだろう。
それほどまでに、彼は優良物件であり、彼女も彼を選ぶのだろうと思っていた。
「好きです、付き合ってください」
「ごめんなさい」
彼が一生分の勇気を振り絞って出したそんな告白を、なんてことないように即答で拒む。彼でなければ、これも普通のことだった。
これで、何度目なのだろうと。
「私、実は好きな人がいるんです。だから、ごめんなさい! 告白は嬉しいのですが、私があなたの気持ちに応えることはできません」
「そっか。これからは友達として仲良くしてくれると嬉しい」
「はい」
男だけはそのことを知っていたのか、それでもよかったのか、そこまで気落ちすることなく、その結果を受け入れた。
まさに、なんてことない数分で、また一人彼女の犠牲者が増えたのだった。
◆◆◆
また教室に一人。
そこに友達と呼べる人間なんていない。それでも好きな女の子はいた。
ぽっちゃりの体形の僕に、告白するなんてできそうにはないけど。それでも密かに、ちょっぴりだけこの恋に期待だけしている。
天文学的な確率であるかも知れないけど。
「よぉ! なにしてんだ? うん……?」
そうして、何人かの男が僕に絡んでくる。もう慣れた。自分にそれだけを言い聞かせて、じっと次の言葉を待つ。
「あっ、もしかして
「こんなとっから? きもちわりぃー」
話しかけてきたのとは別のがそう言い、またいつもが始まる。
僕が高校に入学してから今日まで、それはずっとだ。これもまた、何度と繰り返されるいつもだ。なんてことない。僕はいつもそう思う。
ただ、ふと考えてしまうことがある。いつまで続くのだろうと。
「まぁまぁ、そう言ってやんなって。お前らも好きだろ?」
「
「そうだよ」
ニヤリとしたような表情でいつもとは違うそんなやりとりを始める。
なんで、いつもとは違うのだろう。どうしていつもとは違うことするんだろう。
そうした思考とともに、自分がパニックの渦に落ちていくのがわかる。そんなことを、なにもわからないままに分かってしまう。
「だったらあんまり言っちゃだめじゃねぇか。視線がそこにいくのも自然ってもんだ」
「それもそっすね」
「でもな、俺らはちゃんと彼女に告白してるし、遠くから見守るぐらいいいと思うんだよ」
「そっすね!」
「友達として」
不自然な間とともに、こちらに視線を向けニヤニヤする彼ら。
嫌な予感がしても、もう遅いのだということも理解する。理解してしまう。
「たまに見る分にはいいけどよ、お前いつも見てるよな」
「……ないです」
「あん?」
勇気を出した一声も、クラスの中の喧騒の前では無に等しかった。
「なんて言ったんだ? ハッキリもう一度言ってみ?」
その言葉にすら萎縮してしまうほどの圧を感じる。これが、格差かと、自分で納得する。
それでも、これ以上なにかされないために、自衛のために口を開くしかない。
「……見てないです」
「いや、見てんだろ。授業中とか休み時間とか、暇さえあれば見てんじゃねぇか!」
「はい」
「お前、なにウソついてんだ?」
「ごめんなさい」
「謝るくらいなら最初からウソついてんじゃねぇよ」
結局、開いた口が持ってきたのは災いだけだった。
今さら後悔して仕方がないと分かっていても、後悔してしまう。後悔とはそういうものだから。いつもそれは事後にある。前悔なんて芸当できるならしてみたい。
「とにかくだ、そんなに好きならコクってこいってこっだ」
「いえ、自分は……」
「もう、あんまり友達のこといじめちゃダメですよ?」
「
「うーん……、そうですかね? 一昨日も私、注意にしにきたと思うんですけど……」
「ありゃ、そうだったか」
「そうですよー。そういうことをするのは好ましくないですよ?」
「わりぃわりぃ」
「謝るのは私ではなく──」
そう言って不満そうな彼女は僕の方を見る。かわいい。分かっていたことなのに、そう思わずにはいられない。まさに、天性の才能が与える可愛さ。
そんな彼女に誰もが落とされ、堕とされ、墜ちていくのだろう。それも幸せの絶頂の中、フラれるのだ。
それでも彼女はみんなと仲良くしてくれる。
だからみんな勘違いをしてしまう。自分だけは特別なんだって。そうして、また一人が犠牲になるのだ。
「
彼は不服そうにそう言う。
彼女に嫌われないために、彼も必死なのだろう。文字通り。
「そうです! みなさん友達なんだから仲良くしてください。私もその方が嬉しいです!」
「そっか、そうだな」
そこで一呼吸置いた彼はしっかりと腰から頭を下げ、こう言った。
「悪かった。少しむしゃくしゃしてたんだ、許してくれ」
彼に続いて他の人たちも謝る。
そうして、いつも通り終わると思った。
「そうだ、
「なんですか?」
「
「そうなんですか?」
そう言って彼女は僕を見る。もう終わったと思ってただけに、油断してただけに、目の前が真っ白になっていく。心臓の鼓動も破裂するのではないかというほど早くなる。
どうして、どうして……。
そんな感情の答えを、現状を作り出した張本人が、なんてことないような様子で隣を通っていく。そして彼は、すれ違いざまに「お詫びの印だ。ちゃんと彼女にコクれよ、男なら」そう言ったのだ。
僕が告白? そんなの、無理だ。どうせ叶うはずがない。
それでも現実は、時間は待ってはくれない。
思わず吐き気から喉の奥からなにかがこみ上げてくる。ここから逃げ出してしまいたい。どうにかここから脱したい。
そんな気持ちが体を支配する。
「
けど、その時はきてしまう。彼女は僕の様子を伺ってか、優しく話しかけてくれる。
「はっ、はい。
「ふふ、面白いね。私は
「存じております」
「? ……それもそっか」
一瞬思考する彼女の姿ですら、僕は彼女をかわいいと思ってしまった。
少し緊張が和らいだのがわかる。
「それで、お話でしたよね? なんですか?」
彼女のとびっきりの笑顔が眩しくて、僕は口をパクパクとすることしかできない。
天子。
まさに、彼女にピッタリの言葉だ。あのときだってそうだった。
入学してすぐのとき。僕は自分の容姿でからかわれていた。けど、それを止めてくれたのが彼女だった。
いつも、いつだって彼女は僕を守ってくれる。
だから、好きになってしまったんだ。分不相応にも。
秘めるだけと、心で思ってるだけと思っていた。けど、それはもう壊された。
「ふふっ」
なにを思ったのか、感じたのか、彼女は楽しそうに微笑むと、
「先に校舎裏で待っててください。私もお話があるんです」
手を顔の前で合わせて少し恥ずかしそうにする彼女の表情に、俺は思わず興奮した。あまりの可愛さにただ悶えることしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます