TCGに興味がない初心者の私が異世界で知らずに幸運(リアルラック)を発揮して《レアカード》を集めて旅をする。

水定ゆう

プロローグ

第1話 TCGが分からない初心者

「ふはぁー」


 白峰真昼しらみねまひるは大きな欠伸を掻いてしまった。

 目を擦りながら、机に頬杖を付いていた。


(眠い……昨日夜更かしちゃったからかな?)


 真昼にしては珍しかった。

 普段から夜も二十三時には寝るようにしていたからだ。


 だけど最寒はなかなか眠れないでいた。

 別に家の事情とかではなく、単純に友達に言われていたからだ。


「どうしたのー、真昼。何だか眠そうだけど」

「うん。ちょっとね」


 そんな真昼に声を掛けてきたのは、寝不足の原因を作った友達だった。

 今日も元気いっぱいで、愛らしい笑みを浮かべていた。

 名前は灰谷天はいたにそら。クラスだけではなく、日本中で人気者な真昼の小さい頃からの親友だった。


「真昼、そんな顔してたらせっかくの可愛い顔が台無しだよ?」

「天に言われたくないよ。この間もトレンドに載ってたでしょ?」

「あはは、見てたんだ」

「うん。SNSを使ってたら、少なくとも天の事は出てくるもん」


 天は毎日忙しそうだった。

 昔から社交的だったけど、今では真昼のすぐそばに居るので手の届かないところにいる気がして仕方なかった。


「やっぱり有名人になっちゃってるよねー! そうだよねー! えへへ、ちょっと嬉しいな」


 天は照れていた。頭を掻いていた。

 丁寧に整えられた髪が無造作に扱われていた。

 多分ファンが見たら目を回してしまうはずだ。


「ところでさ、真昼は覚えてくれた?」

「覚えるって?」

「とぼけないでよ。真昼にも覚えて欲しいって言ったでしょ? ほら、アレとか」


 天は指を指した。

 そこにはクラスメイトがいて、何やら机の上に広げていた。


「ここでこのカードを使って……どうよこのコンボ!」

「うーん、それ効率悪くない?」

「しかも雑誌に載ってたやつの劣化じゃね? 赤で破壊以外のコンボとか無理だって」


 何やら五人くらい集まって話し込んでいた。

 何の話だろうかと、真昼は蚊帳の外で見ていた。

 天はその様子に食い付いた。


「ねっ、流行ってるでしょ!」

「う、うん。流行ってるね、リンクル☆マジカル。だっけ?」


 もの凄く歯切れが悪かった。

 聞き齧った言葉を並べて、何となく話を合わせていた。


 それこそ真昼は全くと言っていい日ほど知らなかった。

 テレビCMやネットで目にする程度で、遊んだことなんて一度もないのだ。


「真昼って遅れてるよね」

「酷い言い方だね。そんなに流行ってるの?」

「もちろん。近年稀に見るヒットTCGだよ! 大体原作が無いと転けたり、続編が出ないのに、アニメ化してないにもかかわらずここまで売れるのも珍しいって評判なんだよ!」

「こ、酷評が凄いね。えーっと、そのTCGっていうのは何?」

 

 完全に話が噛み合わなくなり始めた。

 天は頭を抑えながら、「うーん」と唸り声を上げる始末だった。


「もう、ちゃんとルール動画観た? 公式で上がってるよね!」

「う、うーん観たんだけどイマイチピンとこなくて」


 ここ一ヶ月ずーっと動画を観てきた。

 ルールも何度も読み返してみた。

 だけど天は最近部活や芸能活動で忙しそうで相手をしてくれないから、一人でルールを覚えるのは大変だった。


 そんな訳で真昼は未だにイマイチ理解していなかった。

 頭を悩ませ、目の下に隈を作る手前まで来ていた。


「やっぱり分かんないよ」

「あはは。まあそう言わないでよ。今度一緒に非公認大会でよ!」

「非公認の大会なんだ」

「そっちの方が賞品が豪華なんだよ! お金は払わないといけないけど」

「へ、へぇー」


 全然ピンと来なかった。

 真昼にはまだまだ早すぎた話だった。


 天から言われてた話だ。

 だけどさっぱりな真昼にとっては憂鬱以外の何物でもなかった。


「そうじゃなくても一緒に大会出ようよ。世界大会、確かシングル戦じゃなくてチーム戦もあるんだから。今から始めても間に合うと思うんだよね」

「ま、間に合うの?」

「うんうん。私もめちゃくちゃ上手いわけじゃないけど、それでも予選突破くらいは環境Tier1デッキを使えばさ」

「Tier1?」


 もう何が何だかさっぱりだった。

 真昼はこの手のことには全くと言っていいほど興味がなく、全然流行りに乗れていなかったのでした。



※ カードゲーム自体をする作品ではありませんので、ルールなどが記載されませんが冒険モノなので問題ございません。

 一応登場したカードは付いての、サラッとした説明が出ますが、「へぇー」と言った具合に見ていただけたら幸いです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る