第1話②
途中で電車を乗りついて、気がつけば……。
「おっきな事務所」
「まあ、クリス以外にも人気の芸能人いっぱいこの事務所にはいるしね」
「そうなんだ?」
よく大手事務所だ大手事務所だとは聞いていたけれど……。
「クリス以外は興味ない感じ? クリスが困ってたら何が何でも助けたい?」
「もちろん」
私は当然クリス中心に生きてるもん。
「さ、中に」
「いいの?」
「僕は顔パスだから」
「ええええ」
何で!? ああ。やっぱり皐月君も芸能人の卵なのかな。
そうだよね。こんなにも美少年だもん。
可愛らしい感じとかっこいい感じがいい感じのバランスで混ざって、すごい綺麗――って、コラ。私何皐月君見つめてるんだ。
「わ」
って。さっき有名な女優さんが通ってた!! 有名なドラマや映画のポスターとかもあちこちにあるけれど、そこに出てる人もこの事務所にいるのな? 凄いなあ。一番はクリスだけど。
「クリスを呼んでくる。僕はちょっと用事で抜けるけど、マネージャーがついててくれるから。このお姉さんがマネージャー」
「こんにちはマネージャーです。よろしくね」
皐月君が見た方向には、長くてふわふわの髪の可愛らしいお姉さんが立っていた。ちょっとだけ小柄かな。黒いスーツはあまり似合ってない。でも女の子らしくていいなぁ、……はあ。
「は、はあ。よろしくお願いします?」
今日しか私とマネージャーさんはきっと会わないだろうに、何でよろしく? 謎。マネージャーさんは少し困った顔をしている。
「じゃあ、僕、行くからよろしくね。マネージャー」
「はいはい」
そもそも、皐月君とマネージャーさんの関係って何。それも謎。
「今からあなたにクリスの単独ライブを見せてあげるわね」
「!? 本当ですかマネージャーさん!! なんで!?」
「理由は気にしないで。小太郎は終わったら戻ってくるから、ついでにガールズトークでもするといいわ」
「うわあああああ、夢見たい、でも私こんな格好で」
クリスのライブに行く時はさすがにもっとオシャレしていくのに……地味ではあるけれど。まあ、主役はクリスだし。
「大丈夫。気にしなくていいのよ。えっと……後藤純夏ちゃん?」
「え、私の名前を知って」
「小太郎がすごく気を配れる優しいクラスメイトがいるって言ってたから」
「!?」
え、皐月君が私の事をそんな風に話してたの!?
うわああああ。恥ずかしいよぉおお。でも、嬉しい。見ていてくれたんだ……!
「さあ。クリスから部屋に入ってって連絡が来たわよ」
「ひゃっ、緊張で吐きそう」
生クリス生クリス……!! うわああ。
「クリスはあなたを歓迎するから、大丈夫」
「ええ……こんな私を?」
「あの子はファンの子が大好きだから」
「そういえば、確かに」
クリスは自分のファンを家族のように大切にしてるもんね。
事務所に一階から二階へエレベーターで上がり、奥の部屋に案内される。
「クリスー」
マネージャーさんがノックすると。
「はあい」
「!? 生クリスボイス」
可愛い!!! ライブよりも声がかなり近い! あわわ。
「純夏ちゃん、入るわよ」
「え!?」
私は驚く隙もなくマネージャーさんに強引に部屋に入れられてしまった。そして誰かにキャッチされる。長い飴色の髪の毛が、視界に入り顔を上げると。
「ぎゃあああああああ!? クリス!?」
「あはは、クリスだよー。純夏ちゃん」
わ。わわ。目の前に。推しが。クリスが。笑顔で私の名前を読んで……!?
「クリスが純夏ちゃんって! 私の事を名前で呼んだ!!」
「すーみーかーちゃんー」
「わーーーーーー」
頭の中がわたあめになりそうだ。 ダメ、ダメ。気絶しそう。もう泣きそう。いや、もう泣いてる。号泣。
「もうー泣かないでよ純夏ちゃん」
「だって、推しが、推しが目の前に」
「あたしの事好き?」
宝石のような赤みのある瞳で、クリスは私を見つめる。ゆっくりとツインテールの長い金髪が揺れる。
そんなクリスから、私は視線を逸らせない。無理。
「好きです。世界で一番夢中で好きです」
このまま私、幸せすぎてとろけて消えるんじゃないかなぁ。
はあ。鼻血出そう。
「どんな所が?」
「自分を持ってて、背が高いのに誰よりも可憐で可愛くて、強くて明るいとことか、ううううう。絞れない。とにかくいっぱい!」
クリスの良いところなんて書き出したり話し出したら、絶対大学ノート一冊でも足りないよ!!
「純夏ちゃんだって背が高いじゃない」
「ただ高いだけです。クリスとは大違い」
「なれるよ。純夏ちゃんだって私みたいに」
「なれな「なれるって言ったらなれるの、推しの言葉を否定しないで」」
急に怖い顔になるクリス。ひえ。
「はい……ごめんなさい」
「謝れる子は好き。だから、今すぐ歌を歌うね。衣装じゃなくて、こんな普通のワンピースでごめんだけど」
丸い袖の、かわいい襟付きのレトロな花柄のロングワンピース。クリスって、私服もかわいいんだあ。靴も丸みがあって、十分に衣装みたいだよ。
「ちょっと踊るから離れてね」
そして。私の返事を待たないままに、この普通の事務所にある部屋はまるで天国の中のようになったのだった。
「凄かった」
私は大泣きしながら腰を抜かしていた。もう、鼻水まで出そうだよ。最悪。いや、クリスの歌とダンスは最高だけど。
「大丈夫? 純夏ちゃん」
フルフルと首を横に振るしかできない私。
「あたしになりたい?」
今度は首をってに振るしかない私。
なれるなら、なりたいに決まってる。
すると、なぜか満足げにクリスは微笑んで言った。
「じゃあ、なってよ。あたしのかわりに『クリス』にね」
と。
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