第25話 それで合格をきいた

 そのあとどうなったかと言えば、エウドラが一瞬光に包まれた気がしただけ。 「むっ、『なにをする』」と、おこったエウドラがパイオの桃銀頭ももぎんあたまをポコポコ、こぶしをあげてたたくこと、たたくこと。


 その騒ぎを横目にパイオの連れの護衛士が書状を出してきた。


 ん!  この花押かおうは確かプレイオネ星下のもの。


 開封すると、なんと・・・




 パイオが僕を襲っていた一味いちみ首魁しゅかいであったことのわび状だった。

 小説は事実より奇なり。


 「それでせいかはこのしもべめにいったいどうせよとのおかんがえでしょうか」


 『まんつ驚いた、あだりめに6歳のわらしだすか、書状どご読むだけでなくそう切り返してきなさるとは』

 「書状がわび状であれば、煮るなり焼くなり、星姫パイオさまの不始末の御処罰をなさればよろしいかと、それで星下の御心みこころをお察しなされませ・・・それでは確かに引き渡しました」


 そう言うと女護衛士は深く一礼してマントをひるがえし、小舟ボートからりて去って行った。


 しまった、こちらこそ驚きのあまり、内容を知っているらしいから星下の側近中そっきんちゅうの側近ではと思うけど、うっかり素でかえしてしまった。


 でも僕、僕もこの子、苦手。 淫魔として返り討ちする? でも苦手なものは煮ようが焼こうが喰いたくもない。


 まずい、まずい、桃銀頭のこの子はまずい、ほんとうにまずい。 




 そう思ううちに、ぼくは気がついてしまった。 


 身分がもの言うこの世界、下のものが上のものの罰を決めるなど、サテラ常識大先生にきくまでもない、ありえない。


 星姫を処罰できると言うことは、今や僕は星姫たちより身分上の権力者。

 それで、星下の血族のエウドラの配と言うことは・・・


 とんでもないことになっている。 どうしよ、どうしよ、どうしよ。


 僕は血が引いた白面で、星下のわび状をサテラにまわした。 手がぷるぷるふるえていたかもしれない。


 書状を読んだサテラは、

 「・・・姫さま、姫様読んでは駄目です・・・駄目ですってば」


 そう言われれば、エウドラがますます読まずにすませることはないのに、サテラもよほど気が動転したか。

『姉星姫の裏切り、できれば知らせたくない・・・それより星下さまがしもべのラナイにわび状、ありえない・・・でもそれ結局、私に、第2星妃をお許しになると言うことよね」


 そうですよね、サテラが気がつかないはずもない。



 「・・・ラナイはわらわが配、妾が背の君、それを宮爵ぐーしゃく呼ばわりするとは、許せない」


 えっ、そこ。 エウドラが怒るのはそこなんだ。


 「それにパイオ姉星姫にやられるラナイではない。 淫魔は実は仮の姿」


 「姫様、それ以上は」


 エウドラは啖呵たんかをきった。

 「ええい、止めてくれるなサテラ、ラナイの真の姿は霊薬体質・・・他に一人とてない、かけがえのなくとうと神子かみこ。 国体神話の大柱おおばしら


 神子?! そうなの?  そう言えば、何か大きな存在に何かつぎもどされた?覚えがあるような気さえしてきた・・・


 「パイオさま、ラナイ宮中伯は貴方あなたさまのおかげで、星下を継ぐ星公子におなりあそばされたのです」


 「えっ、そうすっか」と横できいていたリウリイがひとごとのようにぽつり。


 リウリイよ、お前さんも巻き込まれで第3星妃あたり候補・・・



 「エウドラちゃん、何言われているのか、お姉ちゃんにはさっぱり、さっぱりだよぅ」


 そうこう言いあっている間に、投射のカウントダウンの読み上げがはじまった。


 【あと30】

 なにこのカオス。

 どうしよ、どうしよ、どうしよ。


 あせる僕はパイオに恩赦おんしゃを与え、事態収拾をはかることを思いついた。 


 【あと20】

 「パイオおねえちゃん、ぼくをおそうの、もうしちゃだめだからね。 いたいからほんとにいたいから、こんどしたら、もうおこるからね」


 「わたしのせいで淫魔が国盗くにとりなの。 ぷっ、わたしを好きにできないへたれが。 まあいいよ、わたしにあんたを手折たおさせてくれるなら、あんたの何番目でもなってあげるよぅ」

 【あと10】

霊薬体質だか神子だかなんだか知らないけど、死なない甲斐性かいしょうあるなら何度でも楽しめるし、わたしと相性あいしょう群抜ぐんばつ。 それいい、上等だよぅ、本当かどうか、お試ししていいよね、エウドラちゃん」

 【あと5】

 とんでもないこと言ってるよ、この子。 いいわけないでしょ。 

 もういや、同舟どうしゅういや、小舟ボートおりたい。 

 【0 投射】

 小舟ボートおりたい。 

 小舟ボートおりたい。





 ・・・う~ん、ええとなんだっけ、

 ・・・う~ん、ええとなんだっけ、

 ・・・う~ん、ええとなんだっけ、そうだ、星下の謀りごとでアカデミア・コンプレクス遊学なら、所払いは口実こうじつ、無学な孤児にはくをつけるもまあ口実、他国に後継のお披露目ひろめあたりも目論もくろまれてる?


 んん? それは今考えることじゃない。それより、ここまっくら、ここはどこ、僕らはどこに投射された。


 それに 小舟ボートもはどこ。 乗っていた小舟はどこ。  


 濃密な闇で不確かだが、足もとが甲板かんぱんではないのがわかる。  時差でここは夜?  星明かり見えないけど、それは昼間の明るいキュレーネからなのですぐには目が暗さになれないせいだろうか? 


 風はない。 ぬるい空気はよどんでどこか変で、不快だった。


 つぎつぎ、ごほごほ、咳き込みが始まり、それが4人分で、見えないなかでもわかった、皆そろっているようだった。


 だが、エウドラが焼かれるのどで、

 「なんでごい瘴気しょうき

 そのしゃがれた声をきいて、ぼくは霊薬体質にかけたたがはずしにかかった。 


 緊急事態だ、濃い瘴気なら、出力を容赦ようしゃしてはいられない。 

 

 エウドラが嗄れ声を喉から絞り出す。

 「許ず、びな光るラナイにだぎづげ」


 けれど、15歳14歳12歳それに9歳に、思いっきりいっせい、6歳が抱きつかれられたらどうなるか。


 「ぎゃー」

 悲鳴。

 誰の?

 押しつぶされる僕の・・・、息が出来ない、苦しい、苦・・・

 誰かが首に強くしがみついてきて、ゴキッ!、僕はいやなそれで合格をきいた。

 

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