第13話 エウドラちゃんが

 「エウドラちゃんがおとこの子と痴話げんか始めた」とコローニス。

 「あのお転婆エウドラがねえ・・・」とパイシュレー。

 「ふうん、この子のどこがいいのかなあ」とパイオー。

 「どーでもいい、小さい子供だわ」とクレエイヤ。

  エウドラの言葉でヒュアデスの姉妹のいろんな目の色が僕に向いた。 なんか居たたまれない、できるものなら絶対逃げる。

 

 「いえ、どーでもよくわないわ、クレア。 お母様そうでしょう」

 「なんのことですか、パイシュレ」

 「ヘリオナーペ宮の宮則ぐうそく、男出入り禁止の件です。 妾は17歳、コロニも15歳、いつまでもそれではニュムペーとしてつろうございます」


 「それはそなたたちが男運悪く名もうしなわれた姉妹の二の足を踏むことをおそれたためにさだめた宮則です」

 「ですがエウドラはたびたびへリオナーペから出奔をくり返して、よわい9歳にしてニュムペーのさがにめざめたのですわ。 もはやエウドラより歳上の妾らに制限を課するは理がとおりません」


 「ではどのようにするのがのぞみなのかしら」

 「お母様にお目通りしてお許しいただけた相手なら、よろしいのでは」


 「・・・パイシュレ、そなたはまだ策がたりません。 交渉ごとははじめから落とし所をだしてはなりません。 とはいえ、今回は予定調和に従い、願いに準じましょう」

 「わぁぉ、妹たちききました。 やりました、やりましたわ、有り難う、有り難うございます、お母様」

 

 「ふん、で、そこのラナイとやらは合格なの?」

 「クレアの目は節穴ふしあなではないでしょう。 このとしをしてこの母に魅了されたふうをよそおい、膝をついて見上げる、そのたまらないあざとさ。 そなたもそれを少しは感じているはず。 エウドラもそうですが、非凡さは意味をもちます。 ユニークで有能ならばなおのこと、ゆえに合格とします。 異論があるなら、母の目にかなう男をつかまえていらっしゃい」


 「えっ、そうなのか、ラナイ、お母様に魅了されたと妾をだましたのか」

 「いや、その、あの」


 「ねえ、エウドーラー、その子、妾に貸しなさい」

 「いや。 クレアねえは返さない常習犯」

 「クレアちゃんとちがって妾達には貸してくれても大丈夫よ」

 「ぜったいにいや、わたしだけの眷属けんぞくにする」

 

 『・・・非凡なラナイ、人気者ね。 そなたはどういう存在なの? 鏡は今だ教えてくれない。 けれど、魔潟の落とし子は何たるかしら・・・このままにげなら星五つ、けれどそなたがいれば星七つに・・・きっときっとだわ、きっと、きっと、とりもどせる』  

 あれ、なんだ、誰も声を出してないのに、訳されてきこえたものがある、なんだ、これ・・・プレイオネ星下が僕みつめているけど・・・



 「お母様? 謁見の時刻がせまってますわ。 今回、妾らが呼ばれた用件はお済みでしょうから、妾らの姿も終わりにする頃合いです」

 「・・・そうねパイシュレ、そなたらの外出も日中なら護衛士同行を必須に許します。 喜びなさい、浮かれすぎず、二度とこの母を嘆かせることにならないように」


 エウドラ以外の4人のヒュアデスの姉妹のそれぞれの姿が壁際にならぶ侍女とともにカーテシーして、すっときえさっていった。

 彼女らが実体ではなかったとはすごいぞこの世界、 高精細な3D映像通信!・・・ 


 「唖然あぜんとする度合いがずいぶんと軽いわね、ラナイ」

 「かがみと、たぶん、てんまどにみえるしかけ?」

 「へーえ、ほんとうに、実際に、賢いのね。 初見でふたつみぬいたとこくるのね、大物ね」

 「そう、ラナイは本物で大物。 だからできる、ほんとうに魔潟でひろったから」

 「わかっているわエウドラ、妾の可愛い末の魔女、そなたが接続領域の瘴気しょうきのなかから、平服のその子づれであらわれた帰還鏡像をみて、どれだけほっとし同時に驚いたことか・・・ ラナイ、そなたの出魔潟しゅつまがたに妾のこの目がとどいていたからには覚悟かくごなさい・・・」


 この部屋の鏡は映像情報端末でもあるのか、それで早々に僕のことを知ったと教えてくれたわけだ。 僕を味方(みかた)と認めるから、鏡の秘密を隠さない、だから裏切りは許さない、覚悟せよですか。 はー、胃が重い。


 野良の孤児偽装はそうすると決めた前から破綻していたのか。

 それでも僕情報の拡散は別のところからだろう。 あの採集キャンプ地からしてあやしい。


 ”本物の権謀術数は死にゲーなの”と、サテラが言っていた。

 エウドラが何度もヘリオナーペから抜け出せ、大禍なく無事生還できたのだとしたら、前回まではなんらかの暗黙の合意が敵味方双方にあったとしてもおかしくない。 


 泳がされても自信過多のエウドラなら、密(ひそ)かに監視がつこうが無視していたのだろうか。 それでもわずらわしい監視が及ばないからと、魔潟に出るようになった。 


 そしてエウドラは僕を見つけた、切り札にできると信じて僕の手をつかんだ・・・



 「・・・それと謁見の前にこれだけは言っておきます。 気乗りしないようですがラナイ、エウドラの謁見の要望に応じたのはそなたのためでもある。 

 エウドラの心痛をのぞまないのは妾と同じはず・・・ 

 すぐには検証できない嘘と事実を混合します。 あからさまな嘘は愚策ですが、それでも早計させて判断をこちらに利あるよう誘導できるやもしれません」       

 「わかってる、妾の面倒はまだ大丈夫。けむに巻いたのも気づかせない。 情報の遅延もつかえる」

 「まあこの子ったら、調子づいて。ニュムペーがみなこれほどなら、やらかしの後始末は大変なことになるわ。 そう思わないこと、ラナイ。 そなたたちには期待しますが、おのれに巻かれぬようにね」

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