しおりと繋がる文具縁
めぐむ
第一章
第1話
文房具なら、比較的簡単に買ってもらえたから。
興味の発端なんてのは、単純なものだ。そして、それがそのまま沼への入り口になっていることだって、そんなに特異なことじゃない。
万年筆は大人な感じがして憧れた。高くてとても手が出ないと思っていたそれが、意外に安価な値段のものもある。手に入れてしまったら、そこから転がるように文房具が気になってしまった。
学生でも手を伸ばせる万年筆のことを知ったのは、動画からだ。文房具とか、手帳とか。そういうものをまとめた動画は、色々と上がっている。オススメ商品だとか使い方だとか、手帳のデコレーションとか。見ていると興味が湧いてわくわくする。そうして沼への道は舗装されていた。
けれど、いくら文房具なら両親の財布の紐も緩いと言ったって、限度はある。高校になるばかりの俺に、自由にできるお金はそうなくて、欲しいものを手に入れるのは難しい。
そもそも、俺の住んでいる町は中途半端な田舎町だった。ド田舎ってほどじゃないけれど、車がないとスムーズに生活ができない。
全国チェーンの文房具店なんてなくて、あっても学生が困らない程度の文房具店だ。品揃えは悪い。隣町に出れば大きな文房具店もあったが、交通費がかかるわけで、そう何度も通うこともできなかった。
ウインドウショッピング欲すらも、うまく消化できない。そんなものだから、動画を見る時間はぐんぐん伸びた。
そうすることで、見る動画の幅は広がっていく。手帳デコにもたどり着いた。手帳なんて、たどり着くまでそんなに興味はなかったはずだ。だが、色々なものを見るにつれて、面白そうに思えてきた。
とはいえ、俺はデコできるようなイラストや文字を描いてきていない。やってみよう、と意気込んですぐにノートに描いてみたりしたが、とても見られたもんじゃなかった。悲しくなったほどだ。
それで諦めた、とも言えるし、手帳を持っていなかったから、とも言える。いくつかの動画を経由して、ヌルさんという方の動画を見るまで、俺は手帳への興味を失っていた。
買おうという気持ちにもならない。学生にそれほどの用事がなかったというのもあるし、少しの用事はスマホで事足りる。好き好んで手帳に書き出す、というのに魅力を感じなかった。
けれど、ヌルさんの手帳術はなんだかとても楽しそうだったのだ。
ヌルさんの動画は、手元カメラで音楽と字幕で進行する。十分程度の動画は見やすい。お気に入りの文房具を紹介したり、手帳の書き方を紹介したり、たまに手帳カバーなどの軽いアレンジでDIYのような動画を上げている。
そのどれもが見やすくて、楽しい。そして、紹介する内容から察するに同世代のようだった。高価な文房具を紹介することは滅多になくて、お手頃な価格帯のものや、百均のものを紹介してくれている。
だからこそ、俺にも手が出せそうで突き動かされるのだ。手の届く範囲を紹介されると、自分もできるような気がするものらしい。
しかし、手帳はないし、技術もない。手帳を買うことも考えたが、既にゴールデンウィークを過ぎてしまった。片田舎の文房具店には、もう手帳はほとんど残っていないし、残っていても何とも色気のないものばかりだ。
どれでもいい、と適当に選ぶとモチベーションが続きそうにない。俺はそういうのに影響を受けるほうだ。
ないならば、とバレットジャーナルというものについて調べてみたりした。ヌルさんがやっていた、というのがそれを候補に挙げた理由だ。
だが、如何せんノートも普通のA4の大学ノートしか持っていない。もちろん、ノートは何でもいいとのことだったが、独自に紙面を配置する能力がなかった。見本が欲しい。
バレットジャーナルの定番はA5サイズであるらしく、大学ノートで再現すると不足ばかりが残った。そうなると、どうせなら見合うノートが欲しいという気持ちになる。
しかし、そんなノートは売っていないのだ。百均にサイズ感のいいリングノートがあったが、裏移りをしてしまった。
これは、慣れないペンさばきで、二重三重と線を重ねて引いてしまったのが悪かったのだろう。それは分かったが、だからってそう簡単に慣れやしない。今はそのノートを一冊ダメにするつもりで、試してみているところだ。
ヌルさんの動画を手本にして、試行錯誤している。だが、いまいちピンとこないままだ。何より、いくら動画で同志と思えるものがいるとしても、一人で黙々とやっているのに限界を感じる。
文房具について語れる相手がいればなぁと思いながら、俺は今日も上がったばかりのヌルさんのしおり作成動画を再生した。
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