第4話:接近
あれから、どれくらいの日々を過ごしただろうか。
もうすっかり、僕の中には当たり前かのように彼女が棲んでいる。
それを僕が当たり前なこととして理解してしまっているせいもあるかもしれないけれど、彼女の意志で特別目立った行動を取ることはなかったが、僕に話しかけてくる回数は日に日に増えていった。
遠慮なんて概念が彼女の中にあるかどうか知らないが、最初は数日に一度くらいしか僕に話しかけてくることはなかったが、日を追うごとにその頻度が増えていった。
僕に興味を持ったからなのか、あるいは機械のプログラムのせいなのかわからなかったが、僕のことについて何でも聞いてきた。
これまでしてきた勉強やスポーツのこと、子供の頃の様子、家族のことなど、彼女にとってどうでもいいような情報まで、ただひたすらに質問をしてくるといった感じだった。
でもわざわざ聞いてくるということは、僕の記憶にまではアクセスできないんだろうと思うと、少しホッとした気持ちもあった。
最初は興味を持ってくれているかのようで心地良かったが、いつも質問ばかりされていてはどうも気持ち悪かった。僕のことはあれこれ知っているくせに、僕からしたら彼女のことを全然知らなかったからだ。
ある時、僕から彼女に問いかけてみることにした。
「ねぇ、どうして君は、僕のことばかり聞くの?」
『知りたいから、あなたのこと』
……知りたい?
「そんなに聞いても楽しくないでしょ? あ、楽しいとかわからないか。えぇと、君のことを教えてよ。何て聞いていいか、うまく言えないんだけど……」
すると、彼女は情報を羅列するかのように、あれこれ教えてくれた。というよりも、説明してくれたという方が正しいかもしれない。
彼女の説明によると、彼女は現在のタイプの第三モデルで、これまでも何度か試行実験がされてきたらしい。そしてそれ以前のプロトタイプもあったが、自律型ではなく、既定のプログラム下で情報処理が行われる機械装置だったという。
そんな彼女たちの「情報」を聞いているうちに、どうしても聞いてみたいことが脳裏をよぎった。
「じゃあ君は、何をしたいの?」
『それは、プロジェクトを遂行すること』
彼女には、意志のようなものを感じられるし、自律的に物事を判断できている。これまで見てきた中で、たしかにそうだと思った。
だから、聞いてみたくなった。
「そうじゃなくて。君の、意志を聞きたい」
『意志?』
「そう、君は僕に何でも聞いてくるし、それに、食べ物を食べたり、服を着たり、他にも人間らしい行動をしていた。そんな普通の情報をインプットする必要なんてないわけだし、人間の真似をする必要もないよね? 意味も無くそんな行動を取っているのって変じゃないかな?」
いつもなら、反応はすぐに返ってくる。でも今回は、少しばかり無音の時が流れた。
『……それは、わかりません。私たちはただ、プログラムを実行しているだけですから』
自律型とはいえ、しっくりこなかった。
意地が悪いと思いつつも、彼女自身の糸口を掴めた気がして、僕はもう少し彼女に迫った。
「プログラムっていうのはわかるけど、意味の無い命令を達成する必要ってあるのかな。やっぱり、君に意志があるの?」
……しばらく経っても、彼女からの返答は返って来なかった。時計を見ると、ちょうど一時を回ったところだった。
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