第2話
それ以上なにも思いつかない。
そもそもこれは現実なのか。
授業中にうたた寝をしてみている夢じゃないのか。
その時声がした。
何人かの声、ざわめき。
するととうやの目が見えるようになった。
そこはさっきと同じ、体育館のような建物の中。
さっきと違うのは、そこにたくさんの人がいたことだ。
ざっと見たところ、四、五十人くらいだろうか。
年齢はバラバラで、下は中学生くらいに見える女の子、上は五十代と思える男性だ。
四十代、三十代、二十代、十代に見える男女の集まりだ。
男性の方が女性よりも明らかに多かった。
そしてみんな周りをきょろきょろと見まわし、お互いの顔を見合っていた。
数人の話し声が聞こえた。
「なんだここは」
「いつのまに」
「さっきまで家にいたのに」
「いったいどうなっているんだ」
とうやの考えていることと変わらない。
口に出すか出さないかの違いだ。
とうやがそんな人々を眺めていると、とうやと同じくらいの年齢で、セーラー服を着た女の子が話しかけてきた。
「あのう、ここはどこなんですか。私、さっきまで学校にいたんですけど。気がついたらここに」
とうやは答えた。
「俺もだ。学校で授業を受けていたのに。少し前、目の前が真っ白になった。それで目が見えるようになったらここにいた。俺一人で。その間、身体が移動した感覚はまるでなかったんだが。次に目の前が真っ暗になって、また見えるようになったら、人がたくさんいた。今がそうだ」
動揺している割には、とうやはわかりやすく言った。
女の子が興奮気味に言った。
「私もまるで同じです。教室で目の前が真っ白になって、気づいたらここに一人でいて、次に目の前が真っ暗になって、目が見えたら人がたくさんいて……」
「そうか」
ただ不思議なことは、不思議なことだらけだが、この女の子が高校からここに来た時、最初一人だったと言ったことだ。
とうやも最初一人だった。
二人の人間が同じ場所に来たと言うのに、二人とも一人だった時があると言うのが、どうもよくわからない。
それ以上に、学校から一瞬でこんなところに、とうやの住む町に存在しないような建物に来たということの方が、もっと訳が分からないのだが。
気づけばまわりの人たちも、近くの人と何事かを話し合っている。
この女の子と同じく、自分の異様な状況のことを聞いているのだろう。
しかし全員の顔の上に見える不安の色で、誰もなにもわかっていないことがとうやにわかった。
みんなとうややこの女の子と同じ状況なのだ。
しばらくすると、話し声が聞こえなくなった。
相変わらずあたりを見まわしている者、床を見つめている者、頭を抱えている者様々だが、口を開く者はいなくなった。
話すことがなくなったのだ。
この考えられないような状況の中で、自分のまわりにいるのは見知らぬ人ばかり。
世間話がはずむはずもない。みんな黙って座ったままだ。大きな動きをする人はいない。
――それにしても……。
とうやは考えた。
ここは一体どこなんだ。
どうやったら学校に帰れるんだ。
で、誰が一体こんなことをしたのか。
しかし誰かがやったとしても、一体どんな方法を使ったと言うのか。
とうやの視界を奪い、短時間というかほんの数秒でこんなところに連れて来るなんて。
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