第3話 いつもの日常2

 湊は珠希と別れた後、2-1と書かれた教室に向けて一人で歩みを進める。湊の通う学校は110年の歴史があり、一学年240人、つまり全校で700人を超える男女比が完全に一対一の普通科高校。そして、偏差値は県においては中の上くらいである。要するに自称進学校の名にふさわしい条件を完全にそろえている。しかし、学校側は決してそれを認めないし、それを言おうものなら教育指導の先生と、この学校の男女比と同じ一対一での楽しいお話が待っているだろう。そんなこととは無縁の湊がひっそりと歩いている廊下は、壁や床そして柱までにもしっかりキッチリと白く塗装されていて、統一感を感じさせてくれるのはいいが、やはり110年の歴史があると校舎も歴戦の傷を隠せなくなる。ゆえに、白く透き通る綺麗な肌にポツンとあるニキビのように、黒く黄ばんだシミや落ちることのない汚れは歴史を感じさせる。湊の通うこの時間はもうすでに多くの人が登校していてある程度気を使わないと肩がぶつかりそうになるくらいには人とすれ違う。ヤンキー学校だったら朝から喧嘩祭りであろう。その間に湊は友達と呼べる者に声をかけられることのないまま、ただ一人で空気と同じようにすれ違う人を避けながら、しまいには一人ボッチであいさつしてくれる人もなしに教室まで到着する。そう、いつもと同じように…………。


 教室に入っても状況は何の変化もなくただ一人、3列目の3番目という可もなく不可もない席に座る。他にやることがないので、教科書を机の中にゆっくりとしまう時間が続く。その最中に湊の妄想は捗る。「このような状況ではすることは限られてくる。想像してみてほしい、よその町の高校の入学式の日のことを。周りは誰も知らない人々で、ある程度グループが完成している中、自分には話し相手がおらずボーと周りを眺めるしかできない状況。こんな絶望的な状況で太刀打ちできるコミュニケーション能力はこの世界の辞書には載っていない。だから、窓の景色を眺めて一人でも寂しくないですよアピールをし続けて、周りの話を聞くだけ聞いて一人会話するしかないだろう。」そしてすべての教科書をしまい終わると、湊のすぐ近くにいる女子から順番に一つ結び、二つ結び、三つ結び?女子三人のグループの声がひと際耳の中に飛び込んできたので、湊は自分の中で勝手にミッションを作り遂行する。「そう、野にそびえ立つ大樹のように堂々とすることで、僕はこの教室の綺麗な空気になる。」という、矛盾していることを自覚しているが、このくらいのテンションでないとこの状況では寂しさという試練を超えられないため仕方ないだろう。そしてここで気づく、湊の席は教室のど真ん中、つまり景色を楽しんでますよという強がりができないことに。「し、しまった~~、くっ、こうなったら、天井のシミを数えるふりでもするか。大丈夫、授業中に誰もが通る道だ。」ツッコミのいない中でボケる勇士はあっぱれであるが、はたから見るとただの変人であった。本人はボケの方が好きらしいが、ツッコミもしっかりできる湊の白眉であるコミュニケーション能力を使になれば、友達がいないという話は変わるであろうに………………。そんな思考をよそに女の子たちは結びの数が少ない順に議論を始める。


 「ねぇ、昨日テレビで見たんだけど、ドッペルゲンガーっているらしいよ」


 「えっ、嘘出会うと殺される的なやつ?」


 「そうそう、顔から、体まで瓜二つな存在ね」


 そういえば僕も昨日見たよ、割って入りたい気持ち必死に抑える湊。


 「まあ、そんなことはどうでもよくて、今日転校生が来るらしいよ」


 一つ結びの発言に度肝を抜かされる湊、「いくら何でも話が繋がってなさすぎじゃね」


 「聞いた聞いた、確かトイプードルみたいなかわいらしい女の子らしいよ」


 ああ、ここはスルーする感じなのね。


 「違うよ、柴犬みたいな優しい感じのイケメンな男の子だよ」


 湊は今朝珠希の言っていたことを思い出す。「確か女の子って言ってたけど、情報が対立してるし、なにより犬で例えるの流行ってるの?今どきの子は謎が多いな」と自分も今どきの子であることは棚に上げているのはさておき、彼女たちの議論は止まらない。一つ結びのターン。


 「いや、フランスから来た留学生がいい」


 湊は天井を向いていた顔を勢い下げて、寸前のところで振り向くのを中止する。「男か女かの話だったのに急に本人所在地の話になった。しかも、願望だし。さっきから話が繋がってなさすぎるというか、雑すぎるというか」続けて、二、三、一結びの順に畳みかける。


 「フランスか~、中々いいね。私的にはドイツかな」


 湊は食らいつく「確かにドイツでもいいと思うけど、君たちは本当に話がぶっ飛んだことへのツッコミしないんだね」


 「どっちでもいいけど、どんな感じの顔が好き。犬で例えて」


 続く連撃、湊は対応に遅れる「いや、興味ないのかよ、しかも、例えるの犬、前提な……」


 「もちろん、シベリアンハスキーさ」


 いつの間にか湊の中で、相手のボケをいかに裁ききるかの意地との戦いになっていた。「勿論て何、勿論て……それに君たちは順番でないと発言できないの?ドラ〇エかよ」かなり押され気味の湊をお馴染みの予鈴と少しばかりテンションの高いクラス担任の掛け声が助けてくれる。


 「みなさ~ん、席についてくださいっ」


 湊は周囲を見て一考する。「もしかしたらみんな転校生が来るのを知っているのだろうか。いつも以上に、席に着くのが早い」そんな思考をよそに先生は言葉を続ける。


 「今日は皆さんに転校生を紹介します。入ってきてください見玉 美月みたま みつきさん」


 湊は先生の言葉に度肝を抜く。「なしていきなりネタバレをする、普通は自己紹介の時に名前を知ってうぉーてなる流れだろうが」世界は多数決が正義なのである。だから周りのみんなは誰も気にしている様子がないので、湊は顔に出して先生に訴えることもできないで、もがいていると、教室の黒板側の扉が壊れそうな勢いでバタンと開く。その様子はさながら小学生の不機嫌な時の扉の開け方を想起させる。「もしかして、扉の開け方をご存じない?もっと優しくでも開きますよ?」そして、扉の向こうから入ってくる少女は緊張しているのか、どうも動きがカタコトでぎこちなく感じさせる足取りのまま教卓の隣に立ち自己紹介を始める。


 「わたしのなまえは、みたま みつきです。よろしくおねがいします」


 教団に立つ少女はかわいいというよりは、綺麗だった。天然水のように白く透き取るような白い肌にしっかりと整った顔立ちをより際立たせるかのように、寸分の狂いのないまっすぐな眉毛と山のごとく聳え立つかのような高い鼻。そして、何より男の注目を集めるのがルージュのように紅い唇ではなく、顔から少しばかり視線を落とした先にある巨大な膨らみからは高校生の域を超えるものを感じさせる。一番特徴的なのが、肩くらいまである茶色い髪の毛を顔の右側で一つにまとめてあるサイドテールである。「なぜだろう、彼女からは幼さを感じるのは……あと、平仮名だけは読みづらいな」


「では、見玉さんは、あそこの4列目3番目の席に座ってください」


 湊は自分の隣を見るやいなや、その席を凝視してしまう。「なんで隣の席が空いてるの?普通一番とか後ろだよねぇ。それにラブコメだったら、完全に運命じゃん」多少のアニメを嗜む湊は少しばかりテンションを上げる。転校初日で隣の席という話しかけるのには絶好のタイミングは友達のいない湊は非常にチャンスのはずだが、自ら積極的に話しかけにいかない。いや、話しかけるのに躊躇いがあるかのように…………。「しかし、男の性といっていい。かわいい子が自分の近くを移動していると、どうしても自然と目で追ってしまう。そう、これは仕方がないことなのだ」と、興味津々で彼女の顔を再度確認すると、今朝一緒に登校してきたの美少女がいた。「まさか、さっきの髪留め三姉妹の言っていたことは本当だったのか……………………。」


 「ドッペルゲンガーだ~~~~~」


 その後の授業には全く性が入らなかった湊であった。


 
















 

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