偽者の調査
なかなかしぶといですねえ。
あっ、ちょっと悪役っぽかったですね、あれから三週間が経とうとしているのですが、ソフィアさんが未だに自分の正体を明かそうとしません。ちなみにヨハンさん以外は全員正体に気付いていて、気を使いつつさり気なく本人に自白させようと話題の誘導を試みている状況です。
「ソフィアさんって気品がありますよねー、実はどこかの王族だったりして?」
「よく言われるんですよー」
こんな感じの不毛な会話がこの三週間で三桁回数は繰り返されています。もう聞く方もネタが切れてきてどんどん直接的な表現になりつつありますが、ソフィアさんもアルベルさんも平然と受け流しています。
むしろ、こちらが気を使う必要が無いのではと思い始めてきました。この人ならはっきり皇帝陛下と呼びかけてもスルーしそうな気がします。
「もう大丈夫そうだし、サラディンさん達の方を見てみましょうかね」
私はカイラスの方に映像を切り替えました。気を抜いたところでトラブルが……なんて言わないでくださいね? タヌキさんがいればどうにかしてくれると信じてますからね?
さて、カイラスです。ログを見る限り、この三週間で偽者に遭遇はしていないようですね。向こうからの定時報告では、到着前にはギルドの冒険者が向かったのを察知したらしく地下に潜って活動しているそうです。開拓チームの受け入れ準備は順調のようですが、偽者が募った野良冒険者は開拓と称して森を破壊しているとか。そちらは我々の管轄ではないので国の警備兵に対処してもらうことにしました。
それにしてもこれは、内通者がいるか私のように遠隔地から情報を得られる術者がいる可能性が高いですね。いずれにしても厄介なことです。
「サラディンさん、偽者の居場所が分かりましたよ」
おっと、噂をすればと言いますか、絶妙なタイミングでコタロウさんが偽者の潜伏場所を突き止めたようです。今彼等がいる場所はカイラスの宿屋にある酒場ですね。酒場に集まるのは冒険者の習性のようなものです。
「そうだな……焦って攻めても取り逃がすだけだ。情報を騎士団に伝えて潜伏場所を囲むべきだな。コタロウはしばらく監視を続けてくれ」
サラディンさんはさすがに慎重ですね。こちらの戦力があとマリーモさんだけという状況で勇んで捕まえに行っても逃げられるか、最悪返り討ちにあう危険がありますからね。
……まあ、いざとなったら私がなんとかするんですけどね。モミアーゲさんもさり気なく準備していますし。
「ピンチになってくれないと私の出番がありませんねぇ」
背後からどことなく残念そうなモミアーゲさんの声が聞こえてきますが、緊急時の対処要員は出番がない方がいいのです。
「そうそう、イケメン博士が応援に来てくれたのよー」
イケメン博士? マリーモさんがサラディンさんとコタロウさんに声をかけました。誰が応援に――と、そこに現れたのは場違いな白衣を着た眼鏡の男性です。
「隣国の皇帝になりすましている人物がいると聞きましてね」
コウメイさん!?
なぜモンスターにしか興味の無いコウメイさんがこんなところにいるのでしょう?
「実は、姿を変えるモンスターについての報告書というものを発見しまして。遥か東の海を越えた先、魔族と呼ばれる危険な種族の支配する大陸を旅して、唯一生還した探検家マルズライトの持ち帰った情報です」
探検家マルズライト。まだ各国が開拓を始める前の時代に世界中を旅して回った伝説の人物です。彼の報告によると遥か東にこことは別の大陸が存在し、そこには魔族が住んでいるという話でした。
コウメイさんの話では姿を変える能力を持つモンスターについて報告している文書があったそうで、簡単に言えば皇帝陛下の偽者はそのモンスターではないかということです。
「それは強いのかしらー?」
マリーモさんの質問に、コウメイさんは眼鏡をクイッとして答えます。これはいつもの余裕たっぷりなコウメイさんです。そんなに恐れる必要もなさそうですね。
「戦闘力は皆無ですね。姿を変えて人を騙すだけのモンスターです。ただ……」
あら?
「このモンスター『ミミック』の変身能力は他の生物から身を守るための能力です。自分から他の生物に迷惑をかけることはしません。ですが、しばしば強力な魔族が飼いならして、騙されたエルフを捕獲するために利用しているそうです。つまり背後に魔族がいる可能性が高いでしょう。あと変身する時に相手の能力をコピーするので、もし皇帝と従者に化けているのなら騎士と聖職者を相手にすることになりますね」
めちゃくちゃ厄介じゃないですか! コウメイさんは妙に嬉しそうだし……まあ珍しいモンスターに伝説の存在である魔族もいるとなったら興奮するのも無理はないですが。
「分かった、騎士団と連携して襲撃しよう。ギルドマスターにも報告しておく」
その後、サラディンさんはフォンデールとソフィーナ両国から集まった選りすぐりの騎士達と作戦を練り、偽者の潜伏場所を一気に襲撃する手はずを整えました。コタロウさん、マリーモさん、コウメイさんもこの襲撃に加わります。コウメイさんはミミックを捕まえたいそうですが、まだ偽者がミミックと決まったわけじゃないですからね?
あと、本来の指令は開拓の方ですからね。無理する必要はないんですよ。一応報告してきたサラディンさんには伝えましたが、コウメイさんはこういう時ちょっと冷静さを失う傾向にありますからね、心配です。
そして作戦決行の日になりました。
そうそう、ソフィアさんの様子も確認しておかないと……ログをチェックしましょう。
『ヨハン離脱』
そっちですかーー!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます