第46話 かんさつにっき ~その1~

 ティナおねえちゃん……いっちゃった……。


「改めまして、おチビさん。私は、特務隊の隊長のレナードと言います。クロヒョウの獣人です」


 きゅうにはなしかけられてビックリした。しらないひと、ちょっとこわい。クライヴのうしろにかくれておこう。


「ふむ、間違いなく獣人族の子供ですね。随分と幼いようで」

「しばらく様子を見たが、人化じんかどころか言葉も話せないようだ。一応こっちの言っている事は理解してるようだが……」


 だって、じんかするのもはなすのもむずかしいんだもん。ちちうえもははうえもおおきくなったらできるっていってたもん。


「本当ですね。この顔は何か反論していますね」


 ほら。はなせなくてもすこしはつうじるもん。


 でも、あのやさしいヒト──ティナおねえちゃんとは、おはなししたいなぁ。それでね、いっぱいあたまをなでてもらうの。


 あとはね、なまえでよんでもらいたい。『ことらちゃん』ってよばれるのはきらいじゃないよ。でもやっぱり、ちちうえとははうえがつけてくれたなまえでよんでほしい。


「そういえば、ここ最近変な声を出すようになったな」

「変な声?」

「ティナがこいつと話してみたいって言ったから、練習でも始めたんじゃないか」


 うわ、ばれてた!


 いつもティナおねえちゃんばっかりみてるのに、いつみられたんだろう。むむむ、ゆだんできない…。


 こいつ──クライヴは、あっというまにわるいヒトをやっつけたんだ。オオカミってトラよりちいさいのにすごくつよいんだね。ちちうえとどっちがつよいかな。


「とりあえず、捜索願の出ている獣人族の子供がいないか確認してみましょう」

「捕縛した犯人から何か新しい情報はないのか?」

「残念ながらないですね。やはりこの子を捕まえた実行犯でないと分からなそうです」


 くろいかみのひと──えーと、クロヒョウのレナードだっけ。クライヴとむずかしいおはなしはじめっちゃった。むぅ、つまんない。


 そうだ。せっかくだからおへやのたんけんしてみよう。


ふんふんふんふん。


 もりのなかとはちがうにおい。みたことないものがいっぱい。


ふんふんふんふん。


 わぁ! このふかふかのじめんおもしろーい。あれ、でもつめがひっかかる。


んっ? きのにおいがする。


 でもへんなかたち。はっぱもない。きじゃないのかな? ちょっとかじってみよう。


「おや、机を噛んではいけませんよ」

「ギャウ!」


 たんけんにむちゅうで、ちかくにいたのきづかなかった。


「やはりトラは警戒心が強いですね」

「同じネコ科なのにな。隊長も獣化すればネコ科同士、距離が縮まるんじゃないか?」

「私は妻の前でしか獣化しないと決めているんです」

「ちっ、惚気かよ」


 うーん、もういいこにしてたからおわりでもいいかな? はやくティナおねえちゃんのとこいきたいんだけど。


「ガゥ! ガゥー!(ねぇねぇ、ティナおねえちゃんのとこにいってもいい?)」

「んっ? どうした?」

「グウゥ!(つまんない)」

「何が言いたいかさっぱり分らん。やっぱ言葉が話せないと不便だな」

「お腹でも空いたのでしょうか?」


 むぅ、はなしがつうじない。


 それならじぶんでなんとかするからいいもん。ここからはいってきたからここからでれるんだよ。ちゃんとしってるもんね。


「……ドアの前に移動しましたね。何をしているんでしょう?」

「あれは誰かがドアを開けた瞬間を狙って、出ていこうとしてるんだ。ウチでもそうやって脱走していた」

「なるほど。中々に賢いですね」


 はーやく、あっかないかなー。


 ティナおねえちゃんのところにもどったらおひざにのせてもらうんだ。ちゃんとおはなしきいたからほめてくれるかな。


 あっ、だれかちかづいてきた。


「おや、タイミングよくドアが開きそうですよ」

「…………あいつ、誰だか気付いてないのか」


 ガチャ。


 よし、いまだっ──わっ! わわっ!


「うふふ、捕まえたぁ~」


 こ、このこえは……いやーーっ!!


 こ、こわいヒトだ! ちゅうしゃとかいうすっごくいたいのをしてくるヒトだ!


「ギャウ! グルルルッ!」

「あらあらぁ、今日も元気そうねぇ。どれどれ、脈よし。心音も……問題なさそうね」

「ガウッ! ウゥー!」


 はなせー。さわるなー。うわーん、こわいよー。


「……フィズに対しての警戒心が凄まじいですね」

「初日に問答無用で注射を打たれたからな。要注意人物に認定されたらしい」

「なるほど。怯えるトラ……ある意味珍しい光景です」


 みてないでたすけてよー!


 ハッ、そうか。あさのけんしんとかいうやつ、きょうはまだだった。ないとおもってたのにー。


「キュウン……クゥン」

「鳴いてもだめよぉ。目も……異常ないわね」

「クゥーン……クゥン……」

「どこも異常ないようねぇ。でも、念のため薬──」

「ガウッ! ギャウ! ギャウー!」


 いやだー! くすりいやー!


「体のためなのよぉ。はい、ちゃんと飲みなさい」

「グゥ……ングッ! …………ゴクン」

「良く出来ましたぁ」


 うぅ、むりやりのますなんてひどい。くちふさいでむりやりのませた。ひどい。


 うえぇ…にがい…。もりでたべたくさよりにがいよぉ…。


「泣き叫ぶ幼獣にも容赦しないとは……」

「あらぁ、副隊長ってばひどい言い方ねぇ。栄養剤なんだから嫌でも飲んでもらわなきゃ」

「見た目では大分元気そうですが?」

「隊長までひどいわぁ。元気そうに見えても、栄養失調気味だったのよ。まぁでも、ご飯も普通に食べてるみたいだから、そろそろ栄養剤もいらないかしらぁ」


 ほ、ほんと? もうにがいののまなくていいの?


「……この瞳に負けないとは、フィズのメンタルは鋼鉄製ですね」

「患者を治す方が優先だものぉ。鳴こうが喚こうが容赦はしないわぁ」

「お前……言い方ってもんがあるだろ……」


 も、もしかして……これからこいつもいっしょにくらすの? いやだ、こわい。こわすぎる。


 あいつはようちゅういだ! ティナおねえちゃんをまもらなきゃ!


 それでつぎはぜったいにつかまらないんだから!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る