第17話

「ねぇ瑠璃ちゃん、さっそく製造用機材をそろえるから、まずは京陽のお店にアイスクリームを置いてみない?」

「えっ!やったー!ありがとうございます」

「あと、昨日のチョコようかんとチョコ大福を定番商品にしましょう」


Lupinus の営業が終わったあと、青王様のところへ行き、京陽のお店の名前のことを話した。

「藤か。いい名前だね。看板には藤の花の絵も描いて華やかにしよう」

「よかった。これでお店の名前は決まりですね!」

私たちが顔を合わせて「よかった」とうなずき合っていると、

「店番をしてくれる妖がもうすぐ来るよ。狐の妖だけど遙とは関係ないから安心していい...あ、来た来た。紹介するよ。二人は兄弟で、兄のほまれと妹の寿ひさだ」

「はじめまして!五尾の狐の誉です。よろしくお願いいたします!」

「は、はじめまして、あの...三尾の狐の寿です」

誉は明るくてハキハキと話し、寿は内気な感じで誉の一歩後ろで小さくなっている。

「はじめまして、岩星穂香です。二人とも、これからよろしくね」

誉はにこにこ笑顔だけど、寿は緊張しているのか硬い表情をしている。この調子で接客なんてできるのか、ちょっと心配...


「いくつかお菓子を持ってきたの。こんな時間だけどみんなでお茶にしましょう」

「紅茶も淹れますね」

青王様も、誉も寿も期待に満ちたキラキラな瞳でこちらを見つめてくる。これで寿の緊張が解けてくれるといいんだけど。


「チョコレートっておいしい!カカオってこんな味だったんだ!お兄ちゃんが食べてるのはなに?」

「これはチョコ大福だって。お餅が柔らかくて中のチョコもとろとろで甘くておいしいよ。寿も食べてごらん」

寿の緊張はどこへ行ったのか、表情は一変し兄弟仲良く笑顔でお菓子を食べている。

「人間で言うと誉は大学生ぐらい、寿は中学生ぐらいかな。特に寿は幼く感じるけど結構しっかりしているから、誉をフォローしつつ店をうまくまわすだろう」

「二人仲がよさそうですね。きっと楽しく店番をしてくれそうだから安心して任せられます」

「あっ。そういえば店の警護には誰が来るんですか?」

「ああ、それなら城の警護をしている鬼たちの中から日替わりで一人ずつ行かせようと思う。店の入り口に立たせるとさすがに威圧感がすごいだろうから、二階に待機させるよ」

鬼が警護してくれるなんて、本当に心強いな。オーナーや遙が来ることはないだろうけれど、やっぱりちょっと不安だったから本当にありがたい。


「穂香さん、瑠璃さん、お菓子とってもおいしかったです!お客さんにもぼくたちがしっかりおすすめします!」

「しっかり味を覚えて、お客様のご希望に合わせておすすめしてね」

「はい、がんばります!」

「わたしもがんばります!」

二人とも力強く返事をしてくれた。寿の緊張も解けたようで一安心だ。


「開店日だが、穂香たちの準備が間に合いそうなら来月の始めでどうだろう」

「大丈夫だと思います。開店早々在庫切れしないように準備しますね」

「誉と寿も大丈夫かな?」

「はい、ぼくたちはいつでも大丈夫です」

「では、店の備品で必要なものをおしえてもらえれば、数日中にこちらでそろえておくよ」

「はい、わかりました」

明日、改めて打ち合わせをすることにして、今日はこれで解散となった。


翌日の営業終了後王城に集合した私たちは、まず試食会をすることにした。

ケーキや焼き菓子、クッキーにボンボンショコラなどなど。たくさんの種類を試食できるようにどれも一口サイズにカットしたり小さく作ってある。

「すごい!昨日は和菓子だけだったけど、こんなにたくさんの種類があるんですか?」

「昨日はお茶菓子にするのに少しだけ持ってきたの。商品はほかにもたくさんあるけれど、一度に全部試食するのは大変だから数日後にもう一度試食会しましょう。全部試食してみて、その中からお店に出す商品を誉と寿に選んでもらうわね」

「私たちが選んでいいんですか?」

「妖の国のお店なんだから、二人が選んだほうが妖の好みがわかるでしょ」

二人は「それもそうだね」と言いながら「あれがおいしい!」「これが好き!」と楽しそうに選んでいた。


「青王様、お店で必要なものですが、 Lupinus の店内と同じようなレイアウトにしたいと思うので、ケーキの冷蔵ケースと焼き菓子を並べる棚、あとはアイスクリームの冷凍ケースが欲しいです。ラッピングの材料は私が準備しますね」

「わかった。 Lupinus と同じものを用意するよ。それと、看板のデザインはわたしに任せてもらえるかな。穂香にも絶対に気に入ってもらえる看板をつくるから」

「はい。楽しみにしていますね」


「あれ?瑠璃ちゃんが見当たらない...」

「先ほどまでそこにいたけれど...お茶でも淹れに行ったのかな」

いつの間にか瑠璃がいなくなっていたけれど、私は明日の仕込みもあるので今日は帰ると青王様にことわり、一人で Lupinus へ戻った。


「あ、瑠璃ちゃん、先に戻ってたの?」

「すみません。あんまり遅くなると仕込みが間に合わなくなっちゃうと思ったんですけど、青王様とお話しされていたので黙って戻ってきちゃいました」

「そうだったのね。ありがとう、助かるわ」

「わたしのほうはもう終わりますけど、なにかお手伝いありますか?」

「大丈夫よ。今日はもう休んで」

「はい。それじゃあお疲れさまでした」

瑠璃の動きがいつもよりなんだかゆっくりで、こころなしか顔が赤いような気がしたけれど...

「私も仕込みしたら今日はもう休もうかな」


翌日、ちょっと寝坊してしまい、急いで厨房へ行くとまだ瑠璃は来ていなかった。

「瑠璃ちゃん、どうしたんだろう」

その時、厨房のドアをノックする青王様が見えた。

「おはようございます。どうかしましたか?」

「おはよう。実は瑠璃が熱を出してしまって...でもどうしても店に行こうとするから、わたしが穂香に話に行くと言ってなんとか寝かせてきたんだ」

「えっ...わざわざありがとうございます。瑠璃ちゃん、頑張りすぎちゃったのかな...」

「ああ、ちょっと疲れが出たんだろう。でもすぐによくなると思うよ」

青王様は「心配しなくていい」と言ってくれた。瑠璃のことはもちろん心配だけど、まずは今日の分の商品はどうしよう。私一人ではいつもの量を作るのは難しい。

「穂香。今日はわたしにチョコレートを作らせてもらえないかな。この前教えてもらったボンボンショコラならできると思うから」

「でも、商品として出すには結構な量が必要ですから」

青王様は「それでも、少しでも手伝わせてほしい」と言ってお願いされてしまった。

「んー...それではお願いします。この前とても綺麗に作ってくださったので、同じように作っていただければ大丈夫です。形とフィリングの組み合わせはここに書いてある通りにしてくださいね」

私はレシピを渡し材料を用意して、あとはお任せすることにした。


「瑠璃ちゃんがほとんどの仕込みをしておいてくれて助かった...」

いつもケーキや焼き菓子は瑠璃に任せていて、私はほとんど作らない。いくら瑠璃が準備をした生地でも、焼き加減が違えば味や食感も変わってしまう。

お客様をがっかりさせてしまわないように、どうかうまく焼けますように...

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