第15話

「青王様、おはようございます」

「おはよう、よく来たね。それではさっそく商店街に行こうか」

「わたしはお留守番していますね」

「え、瑠璃ちゃんは行かないの?なんで?」

「ふふ、お二人でのんびり楽しんできてくださいね。あ、これ持って行ってください」

瑠璃はお茶が入った水筒二つとクッキーを差し出し「いってらっしゃーい」と手を振る。


王城を出て、カカオの森の中を歩き始めてそろそろ一時間ほど経つ。

「ふぅ...青王様、カカオの森ってどれだけ広いんですか?」

「出口まであと一時間はかからないと思うけれど、ちょっと疲れたかな?少し休憩しようか」

あと一時間はかからないって...それってまだ一時間近くかかるってことよね。

「はぁ、冷たくておいしい」

瑠璃が冷たいお茶とおやつを持たせてくれた理由がよくわかった。

「お手伝いにきてくれる妖たちは、いつもこんなに歩いてきているんですか?」

「いや。それぞれ飛ぶことができたり走るのが速かったり、中には瞬間移動ができる妖もいる。わたしだって飛ぶことも瞬間移動もできる。穂香だって懐中時計を使えば移動できるだろう」

「そ、それならどうして今日は歩いて移動しているんですか?瞬間移動すればいいのに」

「瞬間移動はできるけど、ちょっと苦手でかなりの力を使ってしまうんだ。それに、せっかく穂香と...」

青王様はもごもごとどんどん声が小さくなっていく。それにちょっと耳が赤いような...

「それなら懐中時計でもいいのに。商店街って言えば行けるんですよね?」

「まぁそれはそうなんだが...せっかくだから森の中をのんびり散歩するのもいいじゃないか」

「わかりました。そういえばたまに妖を見かけますけど、ここは王城の敷地の中なんですよね?」

「そうだよ。でもみんながゆっくり過ごせるように解放しているんだ。さて、そろそろ行こうか」


カラフルなカカオポットを眺めながら歩いていると、高いレンガの塀が見えてきた。よく見ると大きな鉄の門があり、門番らしき妖が数人立っている。

こんなに広い森だけどちゃんと全体が塀で囲まれているらしい。


門番の一人が「青王様、いってらっしゃいませ!そちらのお嬢さんもお気をつけて」とお見送りをしてくれる。

そういえばいつも護衛とか誰も一緒じゃないけど、青王様って王様なのに普段から一人で出歩いているのかな...


「うわぁ、賑わっていますね!」

「ここはいつも活気があって、見て歩くだけで楽しいんだよ」

「あれ?なんだかあっちこっちに井戸がありますね」

「京陽は綺麗な水が豊富に湧いているんだ。井戸は自由に使い放題だよ」

確かにみんな鍋や桶に水を汲んでいる。水が豊富って...そういえば青王様は雨を操ってカカオを守ってくれているけれど、

「青王様は何の妖なんですか?まさかカッパではないですよね...」

「カッパではないけど水にまつわる妖だよ」

カッパじゃないけど水関係...なんだろう?

「まぁそのうちわかるよ」

青王様はいつになってもなにも教えてくれない。そんなに言いづらい秘密があるんだろうか。


「え?きゃー!」

「穂香!!」

お店を覗いたりキョロキョロしながら歩いていると、突然なにかに腕を掴まれ細い路地に引き込まれてしまった。

あんなに賑やかだったのに、ここはなにも音がしない真っ白な空間。なにが起きているのかわからずただボーッと立ち尽くしていると、目の前に「ボッ」と黄色い炎が現れた。

「っ...!」

恐怖で声も出せない。「青王様!助けて!」と心の中で叫ぶ。きっとペンダントが私の居場所を教えてくれているはず。

すると黄色い炎は人の形に姿を変えた。もふもふの耳と尻尾がついているけど...あれは...狐?

「人間の女。俺の嫁になれ」

「は?!え...あ、あの...」

「俺さ、人間の世界に行きたいんだよ。でも自分の力では行けなくてさ。なにか手段はないかと思ってたら森の中でおまえを見つけたんだ。人間のおまえを嫁にすればずっと向こうにいられるだろ」

「早く連れて行け」と腕を引っ張られ、もうどうしたらいいのかわからない。

「青王様早く来て!」と心の中で叫びながら必死に抵抗するけど、どうしても振りほどくことができない。青王様、早く助けて...

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