死んでいくにもお金がいります

カフェ千世子

序 裁判所からお手紙が来た

 5月のある日。不在通知が届いていた。差出人はさいたま地方裁判所。まったく身に覚えがなく、詐欺か何かを疑う。

 受け取ってみれば、賃貸マンションの持ち主が債権を支払えなくなったので、私の賃料が差押になったというものだった。

 不動産経営の難しさをこんなことで知ったのだった。


 6月後半。

 その日、私はサイゼリヤの株を買おうか、それとも貯金をするべきかと思いながら家に帰ってきた。

 サイゼリヤ株の株主優待目当てである。サイゼリヤ株は数年前より価格が随分下がっていた。長期保有目的なので、株価は右肩上がりに上がって欲しい。このコロナ禍で株価は妙に不安定になり、さらにウクライナ情勢で輸入食品の価格にも影響。素直に買う気になれなかった。


 マンションのエントランスに入って、一階の全部屋の玄関に同じ色の封筒が刺さっているのが見えた。

 はっと気づいた。慌てて、自分の部屋に帰る。やはり私の部屋の玄関にも同じ封筒が刺さってる。

 見れば、神戸地方裁判所からの通知だ。


 この物件は、競売にかけられるらしい。私は、もう巻き込まれたくないと引っ越しを決めた。


 引っ越しを決めた途端、エアコンが壊れた。暑さから逃げるように慌てて物件を決めた。

 住んでたのは家電付き物件だったので、冷蔵庫と洗濯機は新たに買った。引っ越し社は家電も一緒に注文できるとこにした。

 AUの通信障害に巻き込まれたりしつつ、どうにか引っ越した。


 引っ越し代、家電代、家具など10万以上の出費。

 今年は投資に金を回している余裕はないな、貯金しなきゃと思ったのだった。

 そして、こんなに出費が出るようなことはもうないだろうと思っていたのだ。

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