第16話 酒


〈ーー???視点〉


「他の入口は一度閉じさせたのじゃ。それでどうするのだ? この者に決めるのか?」


「面白い者だとは思う。そうだな、ここで一度試練を与えて様子を見ようでは無いか。既に種は撒いておるゆえな。」


「その事じゃが、流石に厳しいのでは無いか? まだ数十年後なら可能性はあると思うのじゃが・・・」


「時間が無いのはわかっているだろう? そもそもこの程度の試練を乗り越えられぬ者で無ければ意味が無いだろう?」


「そうじゃな。この者が試練を乗り越えたのならば、その時は儂が直々に鍛えてやるのも面白そうじゃな。」


「程々にしておけよ! それなら我は試練の最終調整に入ろう。」



◆◇◆◇◆◇



【ーー条件を満たしました。ユニークスキル『小さな世界エンダール』の[セーフティハウス]が[セーフティヴィレッジ]へと進化しました。】


以前から家の規模は越えていたし、最近はアイリスが色々と開拓してくれているのでこの進化も頷ける。


「バラゴス、樽の準備は大丈夫か?」


「ククク、大量に用意したから問題ないぞ!」


バラゴスの後方には巨大な樽が多く積まされている。一体いくつ準備してあるんだよ!?


俺達二人は酒造りをしていた。急に何故と思う者も居るだろう。それは3日前に[セーフティヴィレッジ]に進化した事で《魔石交換システム》に〈酒造りの書-マスター編〉が更新されたのが始まりだった。それを見たバラゴスは興奮して交換を希望してきた。他にも初級編、中級編、上級編とあり、アイリスに確認したところマスター編が全てを兼ね備えていると教えてくれたので交換した。結構高かったけど、最近純度の高い魔石を入手出来ているので問題はなかった。


実を言うと俺もお酒は大好きだ。だからバラゴスの提案に賛成した。アイリスは俺が乗り気なので最優先で〈酒造蔵〉を多数増設して準備を進めてくれた。そして、俺達の目の前にはエンダール産の果実や作物が多く並んでいた。


バラゴスも凄い勢いで、酒造りに必要な道具を作成して準備を済ませている。


「まずは比較的簡単なワイン、次に焼酎、日本酒と仕込んで行こう。焼酎が出来たら果実酒に手をかける感じだな。」


ウッドゴーレムに酒造りの工程を覚えさせながら酒を仕込んでいく。〈酒造り-マスター編〉を見ながら丁寧に工程を進める。


「その間に蒸留器を準備しておこう。」


バラゴスは大型蒸留器の試作中だった。


「キョウスケ様、ついでに醤油や味噌などの調味料も造りたいのですが宜しいでしょうか?」


ここでアイリスから提案が上がる。《魔石交換システム》で交換出来るけど、種類は一つしか無いんだよ。色々な種類があっても良いと思うんだよね。


「良いね♪ アイリス、許可しよう! ついでにここの広大な土地を農園と果樹園に使ってしまおう。種類も多く増やして、俺達で色々造るのも面白そうだ。」


強くなる事も大事だけど、気分転換に色々試すことも大事だと思う。


ー-酒造りを初めて3日が経った。


「勿体ない気もするが、酒造り用に〈異空間倉庫〉を設置しないか?」


「異空間倉庫をですか?」


「異空間倉庫は時間経過、環境を設定出来るよね? だから環境を変えながら酒を造って色々と試作を試したり、時間経過を調整してあっという間に酒が出来たり、熟成も直ぐに出来ないかな? と思ってね。」


「主は天才じゃな! まずは、その方法で酒が出来るか試したいのう。」


「それが上手く行くようでしたら調味料にも生かせそうですね。」



・・・・・・



「上手くいったのぅ…」


「本当ですね…」


「これはヤバいな! 収穫が増えてきたら、異空間倉庫の増設を考えても良さそうだ。」


3人で本を確認しながら、工程を進めていった。時間のかかる発酵時間は異空間倉庫に運び、時間を進めながら時間を短縮した。そのお陰で1日で造った酒が樽に入れられ異空間倉庫に並べられていた。


「エンダール産のお酒…第一号だな。記念に何樽かは保管して、残りは夕食時に出そう。味見しながら意見を出し合うのも良いな。酒造りの責任者をバラゴスに任せるけど良いか?」


「任せてくれ! 儂が適任じゃ!!」


凄いやる気だ。バラゴスに任せておけば問題無いだろうな。ただ…


「バラゴス、武器の方も忘れるなよ。」


「・・・了解じゃ!」


その間は…絶対忘れていただろう!


夕食はなるべく全員で取ることにしている。食事はアイリスが準備して、今日からバラゴスが酒を準備することになった。決まりとして、ダンジョン探索の前日は酒を控えることにしている。


「最初と比べると、食卓が華やかになったな。それに今日から酒がつくなんて、以前を思えば考えられないことだ。」


「酒は大事じゃ! もっと旨い酒を造ってみせるから待っておるのだな!」


「楽しみにしている。それと肉、卵も《魔石交換システム》に頼らずに入手したいところだな。」


肉や卵といったエンダールで手に入らない物は全て《魔石交換システム》で入手している。ただ、肉の種類とかは選べるんだけど、毎回全く同じなんだよ! 部位とか選択出来れば良いのに…それを言うのは贅沢かな?


「それでしたら何とかなるかもしれません。もう少し開拓が進みましたら《牧場》《養鶏所》などが追加されるはずですから。」


「そうなれば乳製品などもエンダールで造れそうだな。」


「楽しみですね。」


その後も夕食は楽しく過ぎていった。久しぶりの酒は凄く美味しかった…

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