第8話 行方不明


ーー恭介がダンジョンでスライムと戦っているころ…



三浦ミウラ明美アケミー視点ー〉


私には今気になっている男性がいます。会社の同僚で誰にでも優しく、下心無しに私に接してくれる男性です。自慢では無いですが私は可愛い部類に入っていると思います。会社の男性からはいつも厭らしい目で見られ、終いには同僚からも嫌がらせされることもあります。そんなある日、その気になっている男性が忽然と居なくなりました。


「工藤くん、少し良いかしら?」


「どうしたんすか? 明美さん?」


「恭介君のことよ。流石に3日も無断欠席なんておかしいと思うのよ。」


あの真面目な恭介君が3日も無断欠席するなんて絶対に可笑しいわ。何か事件に巻き込まれていなければ良いのだけど…


「そうっすよね! 課長には何度も可笑しいって言ってるんすよ! なのに若いときは色々あるもんだって、取り合ってくれないんすよ。アパートにも帰っていないようですし…携帯も繋がらないんです。絶対に可笑しいっすよね!」


私と同じ考えのようね。


「そうよね? 私も信じられないもの。だから、私から恭介君のご家族に連絡してみるわね。」


「明美さん、お願いするっす。」


そうと決まれば、会社の名簿から連絡先を調べないとですね。



立花タチバナカエデー視点ー〉



「父さん? 大事な話って何ですか?」


夕食後に父から集まるよう伝えられていたので、全員がリビングに集まったタイミングで切り出した。学校から帰ってきてから、父と母の様子が可笑しかった。隣に座る妹の華蓮も何かを察しているのか静かだった。


「そうだな…単刀直入に言うと恭介が行方不明らしい。」


ーー予想外のことで一瞬呆けてしまった。


「兄さんが!? 「お兄ちゃんが!?」」


妹の華蓮と声が重なる。


「あぁ…今日、恭介が勤めている会社から連絡があったんだが、恭介が一週間前から会社を無断欠席しているようなのだ。同僚の方が携帯に連絡してくれたんだが繋がらない。私も連絡したんだけど駄目だった。同僚の方がアパートも確認してくれたらしいのだが、帰ってきた形跡が無いらしい。同僚の方も恭介が無断欠席なんて考えられないとも言っていた。そうなると恭介に何かが起きた可能性がある。それで父さんは明日からしばらく恭介のところに行ってこようと思う。」


兄さんに何かあったのなら、今すぐ私も駆けつけたい!


「私も行きます!」


「私も!!」


私と華蓮も同行を願い出るが・・・


「楓と華蓮は学校があるだろう? それにいつまでかかるかわからないから駄目だ。逐一母さんに連絡するから家で待っていなさい。」


ーー兄さんとは3年近くあっていませんが、頻繁に連絡は取り合っていました。そう言えば一週間前から連絡が来ていません。


現実見がありません……あの兄さんが行方不明なんて…


ーー翌日の朝早くに父は家を出ていった。


学校へ行っても兄さんのことが気になり何も手につかない。気づけばいつの間にか授業は終わっていた。友人も心配して声をかけていたようだけど、一切頭に入ってはこなかった。


ーー兄さんが正式に行方不明となりました。同僚の方の情報で、兄さんが旅行に出かけたことがわかった。父が部屋を捜索したところ旅行のパンフレットが見つかり印がついた場所を回った。そして…兄さんの車が発見された。


近くの旅館の方も兄さんを覚えていて、楽しそうに登山路の事を聞いていたようです。そして兄さんは登山に向かうと告げて居なくなったことがわかりました。


その登山路は景色も良く子供連れの登山客に人気がある場所でした。何でも子供でも安全に登山が出来るからだとか。そんな場所だからか、登山中に迷子になる事など考えずらかった。でも・・・兄さんの足取りは其処で途絶えていた。


警察も登山路を数日捜索していたようだけど、探す場所が少ない事から捜索は直ぐに打ち切りになった。私も休日に捜索の手伝いに加わったけど、遭難する可能性も事故に合う可能性も低いと思えるような場所でした。


兄さんのニュースは連日取り上げられていたが、数日もしないうちに世間から忘れさられていった。


私は何度目かになるだろう涙を流し、兄さんの無事を祈った。


・・・・・


ある日、父さんから兄さんの隠しごとを聞かされた。


「この機会に楓と華蓮には伝えておこう。ここ数年恭介が私達を避けていた理由を…」


兄さんがよそよそしくなった日を私は未だに覚えている。最初は私達を嫌いになったのだと思っていたけどそうでは無かった。就職先もわざわざ遠くの場所に決めたようですし、何より私と華蓮に対して距離をとっていた。理由はわかりませんでしたけど、凄くショックを受けたことは今もハッキリと覚えています。華蓮はあんなに兄さんにベッタリだったのに、急に距離を置かれて、密かに泣いていたのを私は知っています。


「母さんにも相談して決めたんだが、お前達にも知って欲しくてな。恭介は望まぬだろうが…話しておきたい。そうだな……恭介は私達の本当の子供では無いんだ。」


・・・・・・


「「えっ!??」」



兄さんと私が血が繋がっていない……


衝撃的な事実にフリーズしてしまった。そして、納得してしまった・・・


「恭介はな・・・私達の友人の子なんだ。それを私達が引き取った。恭介には伝えていたんだが…そのせいか、家を出て行ってしまった。まぁ~恭介の事だから一度私達から離れて気持ちの整理をしたかったんだろうと思う。恭介が今回旅行に向かったのは私達に旅行のプレゼントの為の下見だったらしい。同僚の方が恭介が嬉しそうに話しているのを聞いていたみたいだ。ようやく・・・気持ちの整理が出来たんだと思う。」


父さんに陰がかかる。


「ーー納得しました。兄さんが急によそよそしくなったので、何かあったのは気づいていましたが…そうですか・・・私達は本当の兄妹では無いのですね。」


なら! 諦める必要は無いですね♪


「楓? 何で嬉しそうなんだ?」


「そっか・・・お兄ちゃんと血が繋がっていないのか。」


「華蓮まで?」


「フフフ、二人は昔から恭介が大好きだったわね。」


「えっ!? そうなのか!」


父さんは頭を抱えているけど、私は兄さん以外の男性に全く魅力を感じられなかった。兄妹だから無理だと思っていたけど、チャンスはありそうですね。隣で同じような事を考えている華蓮を見ながら、兄さんの無事を祈ったのだった。




ーー早く帰って来て下さいね。兄さん・・・

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