第17話 結界
魔法師団のマーサが家にやってきた。門のところで応対したシアンさん。その後にはリリィさんもいる。この家にちょくちょく来るマーサとワッツはお手伝いさん夫婦とも顔見知りになっていた。
「ブライアンさんは庭にいらっしゃいます。こちらへ。そして静かにしてご覧ください」
そう言った彼の後をついて庭の方に行くと、庭にある大きな木の根元に腰を下ろして背中を木に預け、両足を地面に伸ばしてうたた寝をしているブライアンがいた。
座って寝ている彼の周りには多くの妖精がブライアンの体のどこかに座って同じ様に休んでいる。肩にはフィルが乗っており、頭にも伸ばした足にもそしてお腹にも妖精達がブライアンの体の上で一休みしていた。
妖精達に囲まれて昼寝をしている彼を見たマーサ。
「妖精達にすごく好かれているのね。羨ましいくらい」
「本当でございます。朝はどこかで魔法の鍛錬をされている様ですが午後の早い時間はああして妖精と一緒にお昼寝をされていますよ。私共も毎日あのお姿を見て癒されております」
しばらくじっと見ているとフィルがブライアンの頬を小さなでつねって彼を起こした。それで目が覚めたブライアンが庭に入ってきたマーサの姿を見つける。
「やぁマーサ。久しぶり」
その場から立ち上がったブライアンが庭を歩いて近づいてきた。
「妖精に好かれてるのね」
「まぁね」
庭にあるテーブルを勧めるとリリィさんが皿にもったペリカを持ってきた。それをテーブルい置いたあとで紅茶でよろしいですか?と聞いてきた。マーサがお願いしますと言う。フィルはもうペリカの実に釘付けになっている。妖精達も集まってきた。
「魔法の鍛錬をしているの?」
妖精に囲まれてご満悦といった表情のマーサが言った。
「時間はあるからね。毎日人がいない田舎の平原に飛んで魔法を撃ってる。フィルに言わせると威力がまた上がっているらしい」
そうだよな?と肩に乗っているフィルに顔を向けるとそうそうとばかりに頷くフィル。口の周りが実で真っ赤だ。
紅茶を持ってきたリリィさんから手拭いをもらうとそれでフィルの口の周りを拭いてやる。世話のかかる女王様だ。
「それでいつ頃から国境沿いを見て回る予定?」
「ぼちぼち行こうかなと思ってる。どうだろう、来週くらいからになるかな」
「来週か。それって出発を遅らせる事はできる?」
「もちろんできるけど、どうしたんだ?」
マーサによると来週魔法師団の演習があるらしい。王都から北に進んだ場所で師団として鍛錬をするという。
「演習は定期的にやってるの。個々の鍛錬はここでもできるけど魔法師団として動くことも必要だから」
それで今までは師団の演習といっても万が一の事を考えて師団の半分だけが演習に出てあとの半分は王都の防衛を担当していたらしい。
師団長がブライアンが王都にいてくれるのであれば最悪の事態でも十分に対応ができるので魔法師団全員で演習に行こうと言ってるの。
『その言葉は正解ね。もしもの時はブライアンと妖精で王都に結界を張るから大丈夫よ』
「おいおい、王都って滅茶苦茶広いぞ」
『平気よ。ブライアンの魔力を分けてもらえれば私たちで十分できる』
ブライアンが今のやりとりをマーサに伝えるとびっくりした表情になる。
「妖精達で王都全体に結界が張れるの?」
『当然よ』
そう言って肩の上で胸を張るフィル。その仕草で言いたいことは伝わった様だ。
「じゃあお願いしてもいいかしら、週明けから2泊3日の予定なの」
全然問題ない。任せなさいと自分の腕で自分の胸を叩くフィル。ブライアンも頼むぞとペリカの実を1つ渡す。ありがとと受け取って小さな口に実を運ぶフィル。
「その演習は過去からやっていたのかい?」
「今までは年に1回だけね。でもここにきて色々ときな臭い状況になってきたのでこれからは頻度を上げてしっかりと連携を深めておこうという考えなの」
望む望まないに関わらず戦争という流れに向かっている大陸各国。しっかりと準備をしておくことが重要だというのはブライアンも理解している。
「わかった。魔法師団の留守の間は任せておいてくれ」
「ありがとう。戻ってきたら顔をだすわ」
「それにしても妖精ってのは凄いんだな」
マーサが帰っていったあとで庭のテーブルに座り直したブライアン。
『正直言うとブライアンがいないと無理なんだけどね。前も言ったけど人が多い街ってのは魔力が少なくて妖精が生活するには厳しい場所なの。森ならいくらでも結界は張れるよ。ブライアンが私と全く同じ波長の魔力を持ってるから出来るんだけどね』
最初に聞いた説明だ。フィルはブライアンと魔力の波長が同じなのでブライアンの少しの魔力で大量の魔力を得ることができ、それを妖精達に分け与えている。その有り余る魔力を使えば王都に結界を張る程度の事は全然問題がないらしい。
「じゃあたまには俺のことも褒めてくれよな」
『褒めてるじゃない、マイマスター』
そう言って乗っているブライアンの肩をトントンと叩くフィル。
「本当に調子のいい女王様だ」
マーサが魔法師団の詰め所に戻って団長のマシューにブライアンとの話の内容を伝えると、王都全体に結界が張れるのであれば国王陛下もご安心されるだろうとマーサと2人で王城に顔を出した。
「なるほど。万が一の時にはブライアンと妖精達で王都全体に強力な結界を張って防御できるということだな」
「いかにも」
「マーサよ。お主達が演習から戻ってきたら一度ブライアンを余の前に呼んでくれぬか。自分で結界の張られた王都を見てみたいのだ」
「畏まりました。私も非常に興味があります故、演習より戻り次第ブライアンと共に王城に参上いたします」
演習から戻ってきた魔法師団。マシューとマーサに連れられて王城に顔を出したブライアンは国王陛下のいる前でフィルに命じると透明な分厚い膜が王都全体を包みこんだ。
国王陛下はもちろん、その場にいたケビン宰相以下全員がその結界を見て驚く。
「これほどの結界であればいかな魔法使いの魔法、強力な武器であっても全てを弾き返すでしょう」
張られた結界を見ていたマシュー師団長が国王陛下に説明をする。隣ではマーサも同じ様に頷いていた。
『当たり前じゃないの。何分かり切った事を言ってるのよ。ブライアンと私達妖精が組んだら無敵なのよ』
とご機嫌斜めだ。
「妖精が何か言っておるがどうしたのだ?」
妖精の様子を見ていた国王陛下がブライアンに聞いてきた。ブライアンはフィルに命じて結界を解除するとその場に跪き、
「恐れながら、フィルと妖精達からみればこれくらいは容易いことであり自慢にもならないと申しております」
「なるほど。これくらいは自慢にならないか」
そう言って声を出して笑った国王。その後で
「もっとも妖精達もブライアンの魔力をもらっておるからこそ出来るのであろう」
『そうそう。この人わかってるじゃない』
国王陛下の言葉にその通りと手を叩いて褒める仕草をするフィル。不敬罪にならないのかと心配するブライアン。
「なるほど。フィル殿、もしもの時は頼むぞ」
『任せておきなさい』
国王陛下の言葉に胸とトントン叩いて任せろというフィル。ブライアンは冷や汗が止まらなかった。
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