第10話 オーストラリアの危機 6

 超越者の1人、ニーナさんが両腕を失ったレベル3と対峙する。


「【疾風】もオーストラリアに駆けつけてくれた!」


「超越者が2人揃ったぞ!勝てる!勝てるよ!」


「レベル3も両腕がない!それならニーナさんの敵じゃないはず!」


 周りの契約者たちも、ニーナさんが駆けつけてくれたことに歓喜する。


(ふぅ、ニーナさんがいればレベル3のことを考えなくて済むな)


 俺はレベル3のことが気がかりでデビルとの戦いに集中できなかった。


 しかし、ニーナさんが現れたことで周りのことを気にする必要がなくなる。


「ほう、アイツもなかなか強いな。お前といいアイツといい、中には強い奴もいるんだな」


 デビルの興味を引いたのか、俺との距離を取り、攻撃を中断して俺に聞いてくる。


「あぁ、妖精の力に身体が上手く馴染んだ人間は妖精の力を存分に発揮でき、強い契約者となる。それが俺やニーナさんだ」


 超越者と言ってもわからないと思い、簡単に説明する。


「なるほど。つまり契約者の中にはお前みたいに強い契約者が何人かいるってことか」


「そうだ。俺みたいに妖精の力を上手く使う契約者を『超越者』と言ってる。それが世界に7人いる」


「へぇ、超越者か」


 そう呟いて、何やら考え事をし始める。


 俺が不思議に思っていると、ニーナさんが遠くの方から話しかけてくる。


「よう!【迅雷】!会うのは初めてだな」


「ニーナさん!助けていただきありがとうございます!」


 俺とニーナさんは超越者同士だが、今まで直接会ったことがない。


 ただ、SNSやニュースで何度も目にしたことがあるため、名前と顔は知っている。


 年齢は俺と同じ20歳と若く、緑色の髪を腰まで伸ばした美少女。


【疾風】の異名でわかると思うが、ニーナさんは風を操ることができる。


「レベル3はアタシが片付けおくから、【迅雷】はデビルを頼む!『世界最強の契約者』なら、アタシの加勢なんかいらねーだろ?」


「はい!このデビルは俺に任せてください!だから、レベル3と他のデーモンを頼みます!」


「任されたぜ!」


 そう言ってニーナさんはレベル3に攻撃を仕掛ける。


(ニーナさんなら手負いのレベル3に負けることはないだろう。なら、俺はデビルの戦いに集中するか)


「なんだ、作戦会議は終わったのか?」


「わざわざ待っててくれたんだな」


「お前に聞きたいことがあったからな。聞けずに死んでもらうと困るし」


「そりゃどーも」


(俺もデビルに聞きたいことがあったから質問タイムに付き合ってやるか)


「お前は妖精族の姫を知ってるか?」


『っ!やはり姫様を狙って!』

  

 デビルの発言にレスティアが反応する。


 しかし、現在のレスティアは武器となっており、レスティアの声は俺にしか聞こえない。


 レスティアは知ってそうだが、俺は初耳だ。


「知らないな」


「そうか。じゃあ、人間じゃなくて妖精族に聞かないとダメか」


「おい!なぜ妖精族の姫様を狙う!」


「あ?それは知らん。あの方が捕らえてこいって言ったからだ」


「つまり、お前たちがこの星に襲来してくるのは妖精族の姫様を捕らえるためだと?」


「そうだ。だから契約者って奴を殺して、一時的に顕在化した妖精族に場所を聞いてるんだ。まぁ、今日聞いた妖精族は皆、口を割らなかったから殺したがな」


「くっ!」


『みんな……うぅ……』


 デビルの発言にレスティアの声が震える。


「お前らは許さない……」


「あ?」


「お前らは絶対、俺が殺すっ!」


「はっ!やってみろよ!そう言ってきた奴はみんな俺が殺してきた!ほらっ!どっからでもかかってこいよ!お前もその1人にしてやる!」


 デビルが俺に向かって挑発してくる。


雷閃らいせん


 俺は全身に雷を纏い、デビルへ突っ込む。


「うぉっ!はやいな!」


 5秒で約50体のデーモンを片付けた俺のスピードについてこれず、デビルの両翼を攻撃し、翼を使えなくする。


(俺の姿を見失った瞬間、心臓と頚動脈はしっかり守られた!)


 デビルに心臓や頚動脈があるかは不明だが、しっかりと守られたため、この一撃で殺すことは難しくなり、両翼へ攻撃を行う。


 突然、翼が使えなくなり、バランスを崩してデビルが落下する。


(好機っ!)


「レスティー真明流、二の型〈飛雷〉」


 0.01秒で雷刀を振り、雷を纏った斬撃がデビルへ飛んでいく。


 空中でバランスを崩しているため回避行動はできない。


「甘いなっ!」


 しかし、右拳に黒い炎のようなものを纏い、俺の斬撃を殴る。


 すると、ものすごい衝撃音と共に斬撃が無効化される。


「ダメージゼロかよ……」


「なかなか良い攻撃だ。だが、俺の体には届かなかったな」


「やはり〈飛雷〉を放つなら至近距離でないと効果なしか」


〈飛雷〉は遠距離攻撃という点では便利な攻撃手段だが、威力が落ちることと回避されることが弱点となる。


(このまま雷閃の状態を維持し続けるのは身体に負荷がかかるが、奴と対等で戦い続けるには使い続けるしかない)


 雷閃は全身の筋肉に負荷がかかりすぎるため、長時間発動すると、身体がダメになり、一歩も動けなくなる。


 だが、今解除すると、勝つことは難しいため、雷閃を解除することなく、短期決戦に持ち込むことにする。


(最初の一撃は俺のスピードについてこれなかったが、追撃にはしっかりついてこれた。多分、次は俺のスピードについてこれる。雷閃を使えるのはあと3分ってところだが、正直、短すぎる。あと3分で俺はデビルを倒せるのか?)


 有効な手段が思いつかず、弱気になってしまう。


 すると“ドカーン!”と大きな音とともに、俺とデビルの間に何かが落ちる。


 落下したものを見ると、レベル3が断末魔を上げながら消滅した。


「おい!【迅雷】!いつまでコイツの相手してんだよ!アタシの相手は片付けたぞ!」


 すると、ニーナさんから挑発のような喝を入れられる。


「両腕がない状態だからといって、相手はレベル3だぞ。それを簡単に片付けるなんて……」


(情けないな。女の子から喝を入れられるなんて。ホント、俺はいつまでデビルと遊んでるんだよ)


 そう思い、自分の頬を叩く。


「ニーナさん、ありがとうございます。アイツの相手は俺1人で十分です。ニーナさんは皆さんのサポートをお願いします」


「仕方ねぇな。その代わり、負けたら【迅雷】をぶっ殺すからな!」


 ニーナさんからの脅しに…


(え、あれって喝を入れてくれたんだよね?ツンデレだよね?俺の不甲斐なさにキレてるわけじゃないよね?)


 と、疑心暗鬼になりつつも、デビルと向かい合う。


「デビルよ」


「あ?」


「今から『世界最強の契約者』と呼ばれる実力を見せてやる」


「はっ!やってみろよ!」


 俺とデビルの第2ラウンドが始まった。

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