1章
第5話 オーストラリアの危機 1
俺はニュースを見て、すぐに父さんへ連絡する。
『父さん!キャンベラはどうなってるの!?』
『そうだな。現在のキャンベラを一言で言えば壊滅的だ』
聞きたくない言葉を言われ、言葉を失う。
『オーストラリアにいる契約者、116名全員が討伐に向かったが、統率の取れたデーモンの動きとレベル3のデーモン、それとデビルの猛攻を抑え込むことができず、10人もの契約者が戦闘不能とのことだ』
『なっ!』
(もうすでに10人の契約者が戦闘不能だと!?はやすぎる!日本時間の14時ごろゲートが開いたって話だから、ゲートが開いてから1時間しか経ってないぞ!?)
現在の時刻が15時ということで、1時間で10人の契約者を倒したことになる。
『他の国から応援は!?』
『もちろん、向かってるところだ。だが、オーストラリアという国は近隣の国から離れてるから、すぐに駆けつけることが難しい状況だ。他にも、自国を守るという観点から、契約者の派遣を戸惑っている国もある』
『じゃあ、超越者は!?誰かオーストラリアにいなかったのか!?』
『残念だが、オーストラリア付近に超越者はいない。超越者の中で今1番近くにいるのは渚だ。次点でインドに1人いる』
『じゃあ、俺が今すぐオーストラリアに……』
『それはダメだ』
『なんで!?』
『日本は契約者の数が25人と、人口の割に少ない。でも、この国は25人でデーモンの襲来から人々を守ることができている。その理由はこの国が小さいことと、超越者の渚が日本にいるからだ』
『つまり、父さんは俺が日本から離れると守りが手薄になるから離れるなと!?』
『そうだ。『世界最強の契約者』と呼ばれている渚を日本から出すわけにはいかない』
『くっ!』
(父さんの言い分は理解できる。でも…)
俺は視線テレビに移す。
今でもデーモンやデビルたちによる破壊行動と虐殺がテレビに映っている。
『た、たすけて……グハッ!』
『い、いや!死にたくないっ!』
そして、テレビ越しにさまざまな言葉が聞こえてくる。
その光景を目にした俺は、昔の悪夢がフラッシュバックする。
『渚、それに澪……はぁはぁ……ごめん……ね。お母さん、ここまでみたい……最後に2人の顔を見れて、よかっ……た』
『うわぁぁぁぁぁっっ!!!』
(そうだ。大切な人を失う悲しみは誰よりも理解している。こんな想いをする人がいない未来を作るため、俺は契約者として頑張ってるんだろ!なら、今は動かなきゃダメだ!)
そう決意して、俺は『父さん!』と大声で言う。
『俺は今日まで、母さんを失った時の悲しみを味わう人が1人でも減るように契約者として頑張ってきた。だから、俺は父さんから何と言われようが、オーストラリアに行く!1人でも多くの人を助けるために!』
俺が自分の想いを伝えると、長い沈黙が訪れる。
『はぁ。わかった。お前がそこまで言うなら、1人でも多くの人を助けるために、好きなところへ行ってこい』
『父さん!』
『ただし!絶対に無事で帰ってくるんだぞ』
『あぁ!』
そう返事をして俺は電話を切った。
そのため…
「何があっても渚を日本から出すなって言われてたんだけどなぁ。仕方ない。東京の本部にいる会長から怒られてくるかぁ」
との父さんの呟きは俺の耳に届かなかった。
俺は父さんとの電話を切って、ソファーから立ち上がる。
すると、隣にいた澪から服を掴まれる。
「お兄ちゃん。行っちゃうんだね……」
澪の顔には不安そうな顔が浮かんでいる。
「ごめん、澪。俺はオーストラリアに行く。助けを求めている人がいるから」
「うん。お兄ちゃんならそう言うと思った。1人でも多くの人を助けるって、いつも言ってるからね」
どうやら俺の意思が固いことは理解していたようだ。
(さすが俺の妹だ)
俺は“ポン”と優しく、澪の頭に手を置く。
「あっ……」
「大丈夫だ。お兄ちゃんは澪を置いて先に死ぬようなことはしない。だってお兄ちゃんは世界に7人しかいない超越者の1人なんだから。そう簡単に死んだりしないよ」
俺は安心させるように優しい笑顔で言う。
「そうだね。なら、私は笑顔でお兄ちゃんを見送るよ」
澪は不安そうな顔から一転させ、眩しい笑顔となる。
「絶対、帰ってきてね!」
「あぁ!行ってくる!」
俺は澪からエールをもらって家を飛び出す。
そして、妖精の力で羽を作り、空を飛ぶ。
(オーストラリアまでは飛行機で約7時間半かかるが、俺なら半分の時間で移動できる。だから3時間半くらいで到着する予定だが……オーストラリア、遠すぎっ!)
いかに超越者で、妖精の力で向かい風の影響をゼロにできるとはいえ、これよりも速く移動することは難しい。
ちなみに、飛行機でかかる時間の1/2で移動できる契約者は妖精の力を100%以上引き出せる超越者しかいない。
「ごめんなさい。私たち妖精族のせいで、ナギくんたちに迷惑をかけて……」
飛行中、普段は姿を見せないレスティアが俺の横に現れる。
そして、開口一番で謝り出す。
レスティアの声色から、本気で申し訳ないと思っていることが伝わってくる。
(レスティアたち妖精族はデーモンたちが襲来してくる理由を知ってるようだが、俺たちには教えてくれない。多分だが、理由を俺たちに告げると、今の信頼関係が崩れてしまう。もしくは妖精族が責められる内容なんだ。そういった危険性のある理由だから、言い出せないんだろう)
確証はないが、そんな気がする。
そのように分析し、俺は隣を飛んでいるレスティアのおでこにデコピンを喰らわす。
「あいたっ!」
手のひらサイズのレスティアが俺のデコピンを喰らい、涙目となる。
「レスティアは謝りすぎだ。妖精族が何を隠してるかは知らないが、俺にはレスティアが謝ってくる理由が分からない。だから、もう2度と訳のわからないことで謝ったりするなよ?俺たちはパートナーなんだから」
俺がそう言うと「ふふっ」と、笑顔を見せる。
「ありがとう、ナギくん。私、あなたのそういうところが好きよ。そんな感じで無自覚に女の子を口説くから、ナギくんはモテモテなのね」
「えっ!俺って女子からモテモテなの!?」
衝撃の事実を知り、聞き返す。
「冗談よ」
「待って。俺の純情で遊ばないで」
クスクスと楽しそうに笑うレスティアを睨みつつ、俺はオーストラリアへ向かった。
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