第 閑話 道家との対話

「それで? 話って?」


「俺の所属している委員会についてだ」


「あぁ、そう言えば解散するんだってね」


「話が早くて助かるよ」


「それで? その委員会が解体されたくないから手を貸してくれ、なんて言うのかな?」


「その通りだ。ホント、話が早くて助かるよ」


「申し訳無いけど、それは出来ないね」


「何故?」


「言わなくても分かるだろう? ボクは誰の味方でも無く、誰の敵でも無い。ボクはただ、問題を問題として世の中に知らしめるだけだ。だってそうだろう? 何処かに肩入れしてしまっては、それはあまりにも不公平なことだ。世の中で大切なのはバランスだよ。金、物、地位、その他諸々、バランスが崩れるから争いが生まれるんだ」


「それは大げさだ。お前の言うバランスは平等や公平なんかじゃなく、例外を排除した、ただの塊に過ぎない。個を判別できない個の集まりは群れとは言えないだろ。そんなサイコパス的な考えは人間に必要ない」


「けどあれば便利だ。サイコパスと呼ばれる人間は、良く言えば物事の本質を一般人よりも早く見つけ出せる人間だ。だから他より早くて正しく動ける」


「だが安全とは言えないだろ。安全と便利は殆どの場合、同じにはならない。俺達人間は群れで生活する生き物だ。そうであるべき生き物なんだ。群れで居るから安全で、群れから外れるから危険に晒されて死んでしまうんだ。俺やお前の様に」


「それは群れから見た時の話だろう?」


「ああ。確かに一人だと何かと便利だ。だが安全では無い事には変わりないし、正しいかどうかも分からないだろ?」


「そうだね、正しいかどうかは分からない。でもさ、便利な物は使い方を間違えなければ良いのであって、ボクにはその使い方もどんな危険があるのかも把握している。これでも安全と言えないのかい?」


「そうだ。安全とは言い換えれば危険が無いという事だ。対策が出来ていても潜在的な危険があるのなら、それは安全とは言えないだろう。俺たちが普段、使っているこのインターネットと言うツールだってそうだろ?」


「人類最大の発明品……。こんな物が生まれたから、SNSなんて物が普及したからボクの妹は―――」


「お前の妹、辛い思いをしたんだってな。そのインターネットで」


「何で知ってるんだ」


「知ってるよ。だって彼女を救ったのは俺だ」


「まさか……」


「お前、俺の知らないことは知ってるのに、家族の事は知らないんだな。今、彼女は自らを傷つけたインターネットをちゃんと使えている。ほら、彼女のSNSアカウントだ」


「この写真は何処で?」


「近くのファストフード店で、俺の妹と撮ってたよ。とても楽しそうだった。妹さんはしっかりと前に踏み出せている。お前はいつになったら、そこから動くんだ?」


「……重ちゃん、変わったね。人間らしくなったと言うか……。さっきの言葉も、ここまでの言葉も一年前の重ちゃんだったら絶対に言わないのに」


「まあ、色々とあったしな。人間、変わろうと思えば変われる。お前が、三年前の俺に魅せられてそうなってしまったように……。もうお前が憧れていた松瀬川 重信は居ない。そして今の俺は、過去の俺を許していない。いい加減、目を覚ましたらどうだ? 人間は独りで生きていけない。孤独と言うのは決してかっこいい事でも、美しくも無いんだ。お前は中学生のとき、教師の不倫を学校新聞に載せてその教師を辞職させたな。あれは人間として正しいことかもしれない。だが危険な事でもある。独りなら尚更な。あれは俺に憧れてやったんだろ? 当時、悪であった亀水を俺が裁いたから、それがかっこいいと思ったんだろ? 正義を唱えるのは別に良い。でも孤独と正義を一緒に考えるのは止めろ。お前には、俺と同じく妹が居るだろ? 最優先で護るべきものを見誤るな」


「重ちゃん……本当に変わったんだね。がっかりだよ……。話を戻すけど、ボクは重ちゃんを助けることは出来ない」


「明院寺……」


「君みたいに誰かの見方にはなれない。それがボクのやり方だからね。だから君の望むものを出すことは出来ない。でもボクは君の抱えている問題に対して少しばかり興味が湧いた。だから最近まで調査していた情報と合わせて新聞に載せよう」


「良いのか?」


「うん。ただし、情報をそのまま出すだけだ。君が有利になるかどうかは知らない」


「それで良い。この問題を、お前のやり方で問題として他の連中に伝えてくれ」


「それじゃあ交渉は決裂だね。互いが互いのやり方でやると言うことで。良いね?」


「ああ、それで良い」


「ふふっ……。君とのおしゃべり、楽しかったよ。じゃあボクは調べ物があるから、これで失礼するよ」


「明院寺!」


「何だい?」


「助かるよ」


「ふっ……。ご勝手に」



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