第29話 公爵令嬢、火力特化型魔術師になる
私はメイド達と別れた後、城へと戻る。装備を交換するためだ。持ち物程度なら、収納魔法を使って持って行って、外で変更しても良いが、着用品は外で着替えるのは恥ずかしい。
地下倉庫に行き、装備品の中で良さそうなものを探す。今回はソロ攻略のボス戦仕様のものだ。戦い方は大きく分けると遠距離から攻撃する魔術師タイプと近接戦をする戦士タイプの2つがある。両方とも訓練としてやるつもりだが、まずは魔術師タイプをやることにする。
MPには余裕があるので、基本的には攻撃力を増やす方向で選択する。オーソドックスにまずは、いにしえの魔女のローブ、ハットのセット。黒い三角帽子に、黒のローブといかにも魔法使いといった格好だ。これで、知力と魔力にそれぞれ+5される。次に賢者のブレスレット。これで知力と魔力に+2。最高値の110には少し及ばないが、まだアイテムがそろっていないので仕方がない。3つ目は魔晶石のスタッフ。先端に結晶石より貴重な、深紅の拳大の魔晶石が飾られたスタッフだ。先端から魔法を出すことができて、更にダメージに+25%のボーナスが付く。4つ目は深傷のブレスレット。これは1点でもダメージが入れば追加で100ダメージを与えるものだ。継続ダメージを出す魔法が格段に強くなる。5つ目は虹色真珠のネックレス。これは無属性以外の効果が10%上がる。ダメージだけでなく、例えば闇の属性で相手の視界を奪う魔法の
今ある装備ではこれが限界だろう。アイテムを持っているボスは、今のホムンクルス達では相手をするには危険なものもいるため、焦りは禁物だ。
その日はそれで休み、次の日に今度はエナ以外の物を連れてモンスター討伐に向かう。もちろん5人のメイド達も一緒だ。本来ならレベル的にギルフォード男爵やレヘンシア騎士爵も来てほしいのだが、忠誠度的にまだ彼らに手の内を明かすのはちょっと危険だ。逆言えば奴隷上がりの平民で、何年も私の世話をしてきたメイドの忠誠心は飛びぬけて高い。
それにメイド達は全員紋章無しである。紋章によるボーナスは無いが、将来性がある。紋章があるとレベル30以降が極端に上がらなくなる。ゲーム中のNPCもそうで、初期に仲間にしたNPCは、ほとんど最後の方は役立たずになる。ただし、紋章無しのNPCは、PCと同じ様にレベルアップする。最強軍団を作るには奴隷を解放する必要が有るだろう。もっとも一般人にはそんな事は関係ない話だ。
そんな事を思いつつ、私はとある洞窟の最奥に移動する。そこには粗末なドアが有り、中にはレベル10のオーガがいる。
「いやいや、いくら何でもこれは練習にならないでしょ。ダウンメロスと同じレベルよ。今のメイド達でも上手く戦えば1人で勝てるわよ……」
テッセラが呆れたように言う。
「も、もちろんこれは最初の練習よ。何事も段階が必要なのよ」
私がそう主張しても、ホムンクルス達はしらけた顔のままだ。もっと創造主に敬意を払いなさいよ、と思う。
ここで言い合いをしても仕方がないので、私は扉を開ける。そこには胡座をかいているオーガが真正面にいた。私達を見つけると、ニヤリと口元を緩め、立ち上がる。オーガの身長は3mぐらいだろうか。距離は10m程だろう。私はその間魔法に集中する。レベル差があるため落ち着いて集中できる。オーガが歩いてこちらに向かってきた。距離が5m程になったところで魔法を放つ
(万雷)
私は心の中で魔法の名前を唱える。ゲームと同じなら名前を出した方が、簡単にイメージ出来る。
魔法が発動すると、幾つもの魔法陣がオーガを取り囲み、そこから連続で雷が放たれる。それはオーガが倒れ、消し炭のようになっても暫く続いた。
「ちょ、ちょっとオーバーキルだったかしら……」
私が呟くと、テッセラがオーガに近づいて、消し炭になったオーガを棒でつつく。ポロポロとオーガの形が崩れ落ちていく。そして鈍く輝く魔石が零れ落ちると、衝撃で割れてしまう。
「オーバーキルにもほどがあるわ。素材も採れないなんて……」
経験点は5万点程入り、メイド達のレベルが11になる。
「マスターが決めるとらちがあかないから、もうわたしが決めるわ。ちょうど挑戦しようかどうか迷ってたモンスターが居るのよ。イスナーンとトゥリアのレベルも上がるわよ」
私は悪い予感がする。イスナーンとトゥリアのレベルを上げるには、少なくとも約40万点の経験値が要る。それは大体30レベルの敵だ。
「戦って欲しいのは、ギガントサイクロプスのオモウロスね。こいつが持ってる魔弾の射手のタリスマンは手に入れたいでしょ。経験値的にちょっとエナと代わるわ」
オモウロスはレベル45のネームドモンスターだ。テッセラに押し切られ仕方なくオモウロスと戦うことになる。祝福の指輪は全部イスナーンとトゥリアに持たせた。どれか1つの能力値が上がらないが、どうせこのままだと途中でカンストするんだし、問題無いだろう。
私はオモウロスのいる場所まで転移する。高い山肌にある洞窟の前だ。入ると直ぐにオモウロスの居る広い空間がある。
「ピンチになったら助けに入ってね」
私は中に入っていく。直線の広い洞窟の先にオモウロスがいた。大きい……身長は10mはあるだろう。一応メイド達に被害が及ばないように、前に出てオモウロスに近づく。オモウロスも私に気付いて向かってくる。早い。魔法を溜めている時間がない。
(ファイヤートルネード)
炎が渦巻きオモウロス全体を包む。HPが3分の1ほど減る。相手の視界が遮られてるうちに、私は回り込み、再度ファイヤートルネードを撃つ、またHPの3分の1が無くなる。
(いける)
そう思った私は、別の魔法を試してみようと思った。それが油断だった。オモウロスが持っていた巨大な棍棒が薙ぎ払われ、私は直撃を受けて壁に叩き付けられる。間合いを間違えた。こふっ、と息が吐き出され、集中が途切れる。メイド達の悲鳴が遠くに聞こえる。
気が付くと目の前に棍棒が迫っており、頭に振り下ろされ地面に叩き付けられる。痛い。何とか立ち上がろうとしたところを、今度は顎に棍棒を突き上げられ、天井に叩きつけられる。ぶつかった鍾乳石が崩れ落ちる。私はおちている途中で何とか浮遊魔法をかけ、落下の速度をずらす。私の目の前を横ぶりされたこん棒が過ぎていく。着地すると直ぐに距離を取り、ヘルハウンドの時に使った、光球を作り出す。オモウロスが連続攻撃に少し意識がそれる。
(コールライトニング)
私はオモウロスの頭上から、巨大な雷の柱を落とす。体のあちこちから煙を上げ、オモウロスは倒れた。
「はー。ようやく倒せた。酷くないあなた達。ピンチになったら助けてっていてたのに……」
私はホムンクルス達を睨む。ホムンクルス達は顔を見合わせる。
「え?いやだって、ピンチじゃなかったし……マスター、HPゲージを見てみたら」
エナがそう言うので、見てみると1割どころか5%も減っていない。道理で派手なやられ方の割には、痛くなかったはずだ。
「お嬢様。凄いです」
メイド達は尊敬の目を向けている。
「ま、まあね」
褒められて悪い気はしない。私達は魔弾の射手のタリスマンと経験値50万を得た。イスナーンとトゥリアのレベルが上がり、メイド達は15レベルまで上がったのであった。
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