第10話 公爵令嬢、解説者になる
次の日の朝もメイド達が朝食を持って来てから目が覚めた。疲労を調べるとフルより4分の1ほど減った状態だ。どうやら8時間睡眠で半分回復するらしい。念の為今日はゆっくり過ごす事にしよう。エナとも今後の役割分担について話し合いもしたい。私は朝食をとった後地下室へと行く。
「おはよう。ゆっくり休めたかしら?」
地下室に降りると、エナがそう挨拶をしてくる。エナは地下室にあつらえた簡易ベッド……ではなく、私の寝室に有るのと同じベッドに腰掛けていた。
「ボチボチといったところかしら。貴方は随分ゆっくり休めたみたいね」
「起こしに来るメイドなんて居ないしね。それにマスターみたいに変なステータスはないから、多少疲れてても問題ないわ。朝食は持ってきてくれたのかしら?」
「スープはさすがに無理だけど、パン、ジャム、ベーコン、フルーツは持ってきたわ。それで十分でしょ」
「さすがは私、じゃなくてマスター。じゃあ先に食べていい?」
「まあ、いいわよ」
なんとなく、創造主に対する敬意が足りないんじゃないかとは思ったが、性格はほぼ同じになるように設定したため、仕方が無い事なのだろう……本当にそうだろうか?前世の自分を振り返る。色々とやらかした記憶がよみがえる……うん、仕方がない、諦めよう。
エナは私が取り出した料理を食べ始める。上品とは言えない食べ方だが、メイド達からならともかく、私の感覚だと別に普通の食べ方だ。私みたいに2時間近くもかけることなく食事を終える。
「それにしても、こんな天蓋付きのベッドは出せるのに、柔らかいパンの一つも出せないなんて不思議ね」
「仕方ないのよ。そうしないと世界が成り立たなかったから」
食糧難の世界で、簡単に食料が出せたら世界観が狂ってしまう。なので、この世界では食料の類を魔法で出すのは非常に難易度が高い。しかも出せても保存食どまりだ。ご都合主義と言われればそれまでだが、世界法則には逆らえない。
逆に天蓋付きのベッドなんてものは、金を掛けることに意味があるので、魔法で作れても、それには需要が余りないので問題ない。
「じゃあ、今後について話し合いましょうか」
同じ知識、ほぼ同じ性格だったとしても、何でも同じ結論に至るわけではない。例え答えが一つの算数の問題ですら、ミス一つで間違えることがあるのだ。ましてや答えのない人生を共有していく影武者だ。こまめなすり合わせは必要だろう。
「そうね。私もマスターに聞いて置きたい事が幾つかあるもの」
エナも素直に賛同する。
「先ず、前提条件として私は反逆を考えてるわ。これはお母様やお父様、お兄様の敵というだけでなく、このまま義父の言いなりになって、飼い殺しになりたくないという意味もあるわ。これは分かるわね」
エナは少し考える。
「それは分かるんだけど、なぜ義父を今殺さないの?そりゃあ多少の混乱はあるだろうけど何とかなるんじゃない?マスターの能力値は高いんだし、私の能力値も十分高いわ」
「駄目よ。殺せるかどうかも怪しいわ。相手が正々堂々と戦うとは限らないのよ。それに義父には背後に王族が絡んでるわ。例え倒せたとしても、その後びくびくして生きるのはごめんよ。倒すのは圧倒的にこちらが優位になってからよ」
この世界の最高レベルは100であり、能力値の最高レベルも基本100である。他に技能レベルというものもあるが、それもすべて最高値の10である。能力値に関してはマジックアイテムなどで上昇するが、それでも110が限度だ。
ただ、レベル100になったからといって能力値が全て100になるわけではない。元となったゲームは1レベルから始まる。その時の能力は知力、体力、魔力、筋力、魅力、敏捷力、抵抗力が1でボーナスポイントが5だ。それから1レベルにつき2ポイントずつ、職業レベルは5レベルにつき1ポイント振り分けが出来る、つまり極振りしたとしても2つの能力値と技能レベルが最大になるだけ。平均的に分けたら一つの能力値は30を少し超えるぐらいにしかならない。然し私は今の状態でレベル100、能力値はすべて100である。本来ならもうこの状態でチートと言えるのだが……
「そういえば、マスターはヘルハウンドに苦戦したんだったわね。結果だけ見れば圧勝だけど」
ちなみにヘルハウンドのレベルは25、義父のレベルは40(異形の形態になった時のみ)、エナのレベルは50だ。自分の影武者なので、80レベルぐらいは欲しかったが、素材として利用したモンスターの2倍以上にはならなかった。なお、一般人は1レベル、訓練された兵士が2から3レベル、隊長クラスが5レベル、公爵家最強の騎士団長と筆頭魔術師が15レベルだ。強さの目安はレベルの倍率の2乗倍と考えて貰えばよいだろう。つまり騎士団長は一般兵士の50人分以上、私に至っては2000人分以上の強さがある。だが逆に、数をそろえられれば負ける可能性もある。作戦によってはもっと少ない人数でやられるだろう。というか、そんなに大勢で押し寄せられたら混乱してしまう未来しか思い浮かばない。現に楽勝できるはずのヘルハウンドに不意打ちをし、有利な位置で戦ってすら死ぬかと思ったのだ。
「そうね。貴方には恐怖がないから不思議に思うかもね」
恐怖という感情は、それが無いものに説明するのは難しい。
「今一つ理解はできないけど、一応納得しておくわ。それでまず最初に仲間を増やそうとしているわけね」
「そうよ。反逆は私の味方が、質、量共に義父の手駒を圧倒的に上回ってからよ。それまでは今の境遇に甘んじるわ。幸いに幽閉と言っても、そんなに不自由な暮らしじゃないしね」
「そりゃまあ、商品価値が落ちるからでしょう」
「不本意だけどそのとおりね。みすぼらしい身体じゃ、デビュタントしても王族の婚約者としてふさわしくないもの、その辺りは見栄もあるから、王族も嫌がるはずよ」
幾ら内々に決められていたとしても、外見がどうでも良い、と考えているわけではないに決まっている。私の今の姿は王族も知っているのだから、みすぼらしくなっていたら義父が責められるだろう。
「それじゃあ、私から提案があるだけど良いかしら?」
「いいわよ。どうぞ」
「影武者は私1人じゃ足りないわ。正確に言うと影武者じゃなくても良いんだけど、当面の間の駒が少なすぎるわ。同レベルの同志があと3人欲しいの」
ええぇ、っと私は心の中で悲鳴をあげた。
後書き
一応10話まで来ました。面白いと思ってなくても、我慢してここまで読んでいただいた方、ご期待に沿えず申し訳ありませんでした。そして面白いと思っていただいた方、これからも頑張っていきますので、応援をよろしくお願いします。
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