第二章 美香子ざまぁ(残酷描写あり、閲覧注意)

第18話 美香子ちゃんに告白しよう!(閲覧注意)

 美香子ちゃんが俺達の目の前に落ちてきた。

 地下八階から地下十階まで落ちてきたってことになる。

 ダンジョンのフロアの高さは場所にもよるが3メートルから5メートルほどだ。

 ってことは6~10メートルの高さ、わかりやすく言うと、ビルの四階のベランダから落ちたのと同じだ。

 ダンジョンの床は大型のモンスターが暴れ回っても傷ひとつつかないほどの硬い硬い石材が敷き詰められている。

 クッション性なんてゼロだ。

 そんな硬いダンジョンの床に、高いところから落ちてきた人間が叩きつけられるとどうなるのか?

 すごいぞ、なにがすごいって、まず音だ。


 パァァァァーーーーーーーーン!!


 という、耳をつんざくような音が響き渡った。

 ダンジョンの中だから余計に反響が大きくて、正直鼓膜が破れるかと思ったほどだ。

 幸い、美香子ちゃんは頭からではなく足から落ちたので、即死はしなかったようだ。

 だけどなんかこう、膝が曲がってはいけない方向に曲がっちゃってるし、腰も曲がってはいけない方向に曲がっているし、曲がるどころか骨が飛び出しちゃっているし……。


「うーん、なんか美香子ちゃん、床にへばりついて移動するタイプのモンスターっぽいよ」


 美香子ちゃんはどうしたことか、鼻からブビャッと血を吹き出させたっきり、なにも答えない。


「あらら、こらすぐ死んでまうで……もったいないからちょっとでも電源とっとこうや」


 ロリータファッションのご先祖さまがお尻に刺すコードを持ってきた。

 でも、コードの先のプラグを美香子ちゃんのお尻の穴に刺そうとして、


「あらー。刺す穴もつぶれてもうてどこに刺したらええのやら……」


 眉毛をハの字にして困ってる。

 ご先祖様のその困り顔、すごくかわいいんだよなー。

 わがご先祖様ながら大好き。

 大好きと言えば、だ。

 そうだ、俺は大事なことを思い出した。

 今日の朝、俺はこれを言えなきゃもう男をやめてやる、そう思って家を出てきたんだった。


「あ、あの、美香子ちゃん……」

「ふひーっひーっひーっぶしゅーっ」


 美香子ちゃんは呼吸するたびに鼻や口から血を吹き出している。

 噴水みたいでとてもかわいいな。


「美香子ちゃん、俺、俺、……美香子ちゃんのこと、好きなんだ」


 言えたっ!

 俺は言えたっ!

 人生で初めての告白を、言えたっ!

 今日の朝、これを絶対に言うって、決心したんだ。

 どんな思いで、この一言を言おうと思ったか。

 ドキドキして、ワクワクして、どんな返事が返ってくるか、胸が甘やかに締め付けられてさ。

 美香子ちゃんはきっと顔を赤らめて、上目遣いで俺を見て、こういうんだ……。


『うん。……いいよ?』


 あー、もう最高!

 いやー、そんな純粋な男子高校生の一途な思いを、魔法のメイスの一撃で覚ましてくれてありがとう、美香子ちゃん!


 俺に勘違いさせるためにわざとそれっぽいこと言ってたそうだね!

 ほんとは和彦と付き合ってたんだよね!

 ――もしかしたら美香子ちゃん、俺のこと好きなのかな? 

 ――俺も好きかも……?

 ――もしかしてもしかして付き合えちゃったりして……?

 なーんて思っちゃってドキドキしてたクソ間抜けな俺のことを、和彦と二人で笑ってたんだってね!?

 んでもってなんのためらいもなく俺の頭をメイスでぶん殴った上に、守りのピアス目当てに俺の耳たぶを無造作に切り取ってたね!


「美香子ちゃん、聞いてる?」

「ふひゅうー、ひゅー、くるし……ひー、たすけ……」


 聞いてないみたいだ、ほんと、人の心を踏みにじる小悪魔な女の子だなあ。

 とかやってたら、向こうの方でタブレットの画面越しにゴーレムを遠隔操作して和彦をいたぶってた桜子が、


「あーもーやってらんなーい! ゴーレムもう壊れちゃった! もろすぎーっ!」


 とコントローラーをパンパン叩いて、そしてそのコントローラーを振りかぶると……俺に向かって全力投球した。

 うわ、どういうことだよ!?

 俺はすんでのとこでそれをよけた。コントローラーは俺の頬をかすめて壁にぶち当たってバラバラになる。

 当たってたら怪我してたわ、まじ危なかった。


「あ、ごめんね、そこにいたとは気づかなかったから」

「気を付けてくれよ、桜子」

「はいはい気を付けますよ! あーあ、あーそーですか、あーそーですか、慎太郎はそういうグチャってる女が好みだったんだね、あーそー! どうせ私は体が固くて前屈運動もできませんよーだっ」


 うーん、今の美香子ちゃんのこの恰好は、体が柔らかいとかそういうアレじゃないと思うけどなー。


 そこにほのかちゃんが骨をカシャカシャ言わせながらやってきた。


「なにやっているの、二人とも! 美香子さんが死んじゃうよ! 私、このまま見殺しになんてできない! 助けてあげるからね!」


 ほのかさんが美香子ちゃんに対して回復魔法の詠唱を始める。

 すごいなあ。

 人間って、美しい。

 ほのかさんは、今は胸から上以外ほとんどが白骨化しているアンデッドだ。

 どうしてそうなったのかというと、美香子ちゃんが毒を調合し、それを和彦がほのかさんに飲ませた。

 そのせいで、ほのかさんはダンジョン探索の途中で身体が麻痺してモンスターに生きたまま食われてしまったのだ。


 生きたまま食われる。


 想像もしたくない。

 どれだけ怖かっただろうか、痛かっただろうか、悲しくてつらかっただろうか。

 そしてその結果、まだ高校生だというのに、体のほとんどの部分が骨となったアンデッドとなり果ててしまった。

 ご先祖様によると、ほのかさんと一緒にいたパーティメンバーは、損傷がひどすぎてアンデッドとしてすら復活させることができなかったそうだ。


 命も、肉体も、尊厳も、仲間も、全部失ったのだ。


 世の中にこれ以上ひどいこと、あるか?


 そんな目に合わせた美香子ちゃんを、ほのかさんは今、助けようとしているんだ。

 なんて美しい心の人間なんだ。

 俺はちょっと反省してしまった。

 いくら美香子ちゃんが憎いからといって、露悪的な行動や考え方をしちゃったな。


 わざとらしく告白なんてしちゃって……。


 この状況だと嫌がらせにすぎないのにな。

 

 そんなだめな俺とは違って、ほのかさんは素晴らしい人だ。


 やっぱり、人間は清く正しく美しく生きなければならない……。

 見習おう。

 ほのかさんは慈悲に溢れた表情で、瀕死の美香子ちゃんに回復魔法をかける。


小治癒ジオスー!」


 あれ、ほのかちゃん、でも微妙にMPケチってない?

 快癒マジーとか大治癒ジアルマーとかは使ってあげないんだ?


「うーん、もうちょい……喋れるくらいには回復させたいよね……小治癒ジオスー! ……もっと。中治癒ジアルー! あ! 治しすぎちゃった! えい!」


 ボキッ!


「ア゛ア゛ァァア゛ァアー! イダイーー!! イ゛ィダイー!」


 ……いやだからといって改めて足の骨を折らなくてもよくない?

 美香子ちゃん、血が混じった涙をビュービュー出しちゃってるよ?



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