家族との幸せ・家族の不幸

黒龍からの贈り物

── そう、幸せも、不幸も綴る前に家族の出会いの話しをしておこう。


 ***


 最初は私も一人物だった。技量を見られ国務につくまでは一人で探索や新地開拓を行う冒険者だった。

 特に上位ランクの開拓者であったため、新地への要請はおおく殆どがだれも訪れていない遺跡や洞窟に出向くことが多かった。


 私は数年前未開の洞窟に探索で一人向かった。古文書では大昔に大きな集落があったが火山活動による自然災害で全滅したといわれる曰くつきの土地だった。

 元集落に訪れると異様な雰囲気に包まれる。石造りの建物が多かったたので溶岩・火砕流による倒壊はなかったようで町はそのまま灰と岩石に埋もれ、完全に死んだ町になっている。

 そんな風景がずっと広がっている・・よほど大きな町だったのだろう・・。

 こんな風景がずっとづついているのだ・・。

 ・・ふと、建物の影から気配が感じる。・・残留思念的なものだろうか・・。

 「ケホ!ケホ! 灰が酷い・・。 あまり長居する場所ではないわね・・。 目的の洞窟に早くいかないと・・」

 今回の探索先である洞窟は町の上方にある噴火した火山の麓にある。

 ここの洞窟を軽く探索し、珍しい物がないか、魔物の強さはどのくらいかを調査する仕事。

 なにがでてくるかわからない分、それなりに強い者にしか要請はこないし、報酬もそれなりに高い。

 私は剣術も得意で長期戦にもすぐれ、かつ魔術による属性攻撃による攻撃もできたため一人でもこなせてきた。というか、一党を組むとかえって足をひっぱられ邪魔だと思っていた。

 なのでいままで一人でやってきたわけだ。しかし今となっては家族という一党がどれだけ心強いか・・今となっては、なにもいいわけはできないわけだが・・。

 家族で一番右腕的存在になってくれた彼女とは「ここ」で出会ったのだ。


 ***


 剣とランタンを手に持ち洞窟に入る。

 中は異様な熱気・・暑さがある。まだ火山活動は収まってないらしい。長時間潜ると熱気で体力が奪われそうだった。それだけでなく洞窟内も灰でまみれ呼吸もままならなくなりそうだった。

 (長時間潜るのは危険ね・・ しかし・・)

 気配がまったくない。

 魔物がいる気配が全くないのだ。上位ランクに頼む要請だっただけに、さぞかし強い魔物が出るものだろうと思ったのだが拍子抜けだ。これなら初心者冒険者でも攻略できるだろう。

 しかし、なぜ、上位ランク要請なのか・・・?その疑問はすぐにわかった。


 ***

 

 暑い熱気と灰まみれの空気の中深部近くまで進む。ふと、足下を照らしていたランタンが多数の骨を照らした・・。

 「・・!人間の骸骨・・。 この量だと数十人ってところかしら・・」

 頭蓋骨を手に取るとまるで泥で固められた砂かのように崩れ落ちた。かなりの高温で一気に加熱され、骨の組織が完全に破壊されているようだ。

 (・・火砕流で・・? でも、この状況は考えられないわね・・)

 骸骨にまみれた道を進むとすぐに開けた場所についた。

 「・・!」

 灰まみれの洞窟とは一気に風景が変わり、私は息をのんだ。

 巨大な水晶がいくつもそびえ立ち、かつ上部も水晶で覆われている。

 水晶のつらなる中を歩く・・そして奥に進むと、目の前に黒水晶の柱がそびえたっていた。

 「すごい・・綺麗な水晶・・。これだけでも情報を持ち帰れば・・かなりの価値に・・って・・あれ・・?」

 一つだけそそり立つ澄み切った黒水晶をよく見ると中に金髪の裸の女性が眠っているかのように閉じ込められているのだ。

 それだけではない・・白い大きな羽を背中に背負っている・・おとぎ話で聞いたことがある有翼人だ。

 (・・綺麗・・初めてみた・・)

 水晶に封じ込められた彼女は鞘に収められた細身の剣を大事そうに抱えている。

 あまりの彼女の美しさに見とれていると急に前方から急に熱風が吹き出した。

 あまりの熱さに顔を腕で覆う。・・黒い影・・町の廃墟で見たのと同じ気配だ。しかし影の大きさが全然ちがう・・ものすごく大きい・・そして凄い威圧感があった。

 「・・・ニンゲン カ・・・」

 黒い影からぬっと姿を現した。黒い鱗に包まれた龍・・黒龍だった。

 (うわ・・だから上位向けランクむけになってたのかーはめられた・・)

 とっさに、ランタンを投げ捨て剣を構える・・・。しかしとても自分の武器では龍の固い鱗を貫けそうにない。撤退を視野に入れじりじりと間合いを開ける。

 「ケンヲオサメヨ・・ニンゲン・・・ワシハタタカウキハナイ・・」

 (?攻撃意志がない?)

 「ソレヨリモ ワシカラ ネガイ ガ アル」

 私は龍に攻撃意志ががないと確認すると剣を納めた。

 「イクドカ ニンゲン ガ オトヅレタガ ナニガシラ ヨクニ オボレテイタ」

 「シカシ オマエ ハ ケガレタ ヨク ヲ カンジナイ ジュンスイニ タンキュウニ キタノダナ」

 ・・・欲がない・・。たしかに私はそうかもしれない。ただ単に新しい場所に行き、新しい体験をし、ただ短い人生を楽しみたいだけだったのかもしれない。

 「ワシニハ ジカン ガ ナイガ オマエ ニハ ジカン ガ アル」

 「コノムスメヲ オマエノ ジカンガ オワルマデ ミマモッテ ホシイ」

 (見守ってほしい・・?龍が・・?数百年は生きると言われているのに・・)

 「ワシノ ジュミョウハ マモナクデナ」

 (! 心を読まれている!!)

 「コノムスメハ トクイナカラダデウマレタタメ フコウナ ジカン オクッテタ ソレデモ エガオデ ワシノ ハナシアイテニ ナッテクレタ オソレズニ」

 「シカシ ムスメノ サイゴノトキガ チカヅイタ ムスメノ チカラヲ オソレタ ケガレタニンゲンガ ムスメノ ジカンヲ オワラセヨウト シタノダ」

 「ワシハ ムスメヲ スイショウニ フウインスルコトニヨッテ オワリヲ ムカエナイヨウニシタ」

 「ソシテ ズット ミマモッテキタノダ」

 「シカシ ワシニハ モウ ジカンガ ナイ」

 「オマエニ ムスメノ ノコリノ ジカンヲ アズケタイ」

 「キイテクレルカ?」

 ・・どうやら龍はまもなく寿命を迎える。

 そのまえにこの水晶に封じ込めたという有翼人の面倒を見て貰いたいといっていた。

 やっかいごとには巻き込まれたくないとはおもったが、龍の思いが切実に感じられたため、快く受けることにしたのだ。

 「わかったわ。私の寿命が先か彼女が先かわからないけど、私が死ぬまで面倒を見て上げる!」

 「スマナイ ニンゲン マカセル・・・」

 「ムスメハ トテモツライ オモイヲシタ・・ ソノキオクハ ケシテアル・・」

 黒龍は雄叫びを上げる。最期の力を振り絞って最期の術を発動させたのだ。少女の封じ込められた水晶が光り輝く・・。

 (・・? 見間違い・・?)

 一瞬少女の表情が笑顔に見えたのだ。

 「フウインヲ トイタ ソノシュンカン サイショニミタモノヲ シンジルヨウニ キロクヲ カキカエタ」

 「カッテナ ネガイデ スマナイ ムスメヲシアワセニ シテヤッテクレ・・・」

 「わかったわ!彼女を幸せに絶対にするから!」

 「タノム ニンゲン ムスメノ モッテイル ツルギ ハ ワシノ ウロコヲ ケズッテ ツクッタ ツルギダ・・ ムスメヲ スエナガク マモッテクレヨウ・・・サラバダ・・」

 ・・・その瞬間、黒龍の体は砂のように崩れ落ちなくなってしまった。

 (消えた・・)

 龍の終わりにあっけをとらられてたやいなや、彼女を封じ込めていた水晶が水のように一瞬に溶けた。少女が急に落下してくる。

 「うわ! っとと・・」

 すかさず歩みより、彼女を抱き押さえた。

 「・・軽い・・」

 彼女は凄くかるかった。例えれば綿のよう・・空を飛ぶために体が軽くなっているのだろう。

 ・・彼女がゆっくりと目を開ける・・。

 「・・あ・・」

 本当に澄み切った綺麗な緑の瞳をしていた。女の私がいってもおかしな話しではあるが惚れてしまいそう・・そんな美しい子であった。

 「・・あなたは・・・? 私・・は・・シィタ・・・ ・・あれ・・なにも・・思い出せない・・でも、あなたはとても大切な人のような気がします・・」

 「あ・・えと・・ 私は・・ グレイ・・ シィタの・・いや・・あなたの・・『姉さん』だよ」

 その瞬間、彼女の顔は満面な笑顔に変わり私に抱きついた。

 「グレイねぇさま!!」


 ***


 それ以来、彼女をつれて仕事であっちこっちを歩いてまわった。

 彼女にとって世界はなにもかも新鮮で綺麗に見えたそうだ。黒龍が記憶をまっさらにしたからなのであろう・・。

 いままで一人で行動してた私に、共に歩く者の存在の素晴らしさと尊さを教えてくれたのは彼女なのだ。

 そして、私達二人で核をつくり今の家族をつくりあげた。

 今も国務を終えて家に帰ると彼女は料理を作り、妹や娘たちと笑顔で迎えてくれる。

 「ただいま!」

 「おかえりなさい・・ねぇさま・・」

 今日も出会った時のような満面な笑顔だ。彼女をたくした黒龍の願いを私ははたせているのだろうか。

 綺麗な白いローブには似合わない細身の黒色の剣を腰に常につけている彼女を見ると、他の人からみれば不自然な姿ではある。

 しかし、その黒い剣をみたびに私にはあの龍の願いをいつも思い起こされる。

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