第4話

「そ、そんなこと言わずに...お願いだ...機嫌を直しておくれ...」


 マリウスはなおも食い下がる。


「ハァ...」


 ミランダはそんな情けないマリウスを見下ろしながら、大きなため息を一つ吐いた後こう続けた。


「ねぇ、殿下。一つ確認しておきたいんですけど、殿下は私と婚約を結ぶ上で父親から、国王陛下からどんな風に言われてましたか?」


「えっ!? あぁ、え~と確か...辺境伯家との関係を深めるため...だったかな...」


 マリウスは自信無さ気にそう言った。


「なんでそうする必要があったと思います?」


「そ、それは...」


 聞いてない...とはさすがに言えなかった。ミランダとの婚約にどれだけ興味がなかったのか丸分かりになってしまうからだ。


「分からないなら教えてあげます。私の家とそこに居るリリアナの辺境伯家がこの国の国防の要だからですよ。私の家は隣接する魔界の脅威と日々戦ってますし、リリアナの家は蛮族の侵入を日々防いでいます。お分かりですか? 私達が居なかったらこの国は魔界と蛮族両方に攻め込まれて、あっという間にこの世から消えてなくなってしまうんですよ?」


「...」


 ついにマリウスは黙り込んでしまった。ミランダは更に続ける。


「私とリリアナが貴族なら誰でも通うこの王立学園に通ってない理由も教えてあげます。そんな余裕がないからですよ。私もリリアナも最前線に立って毎日戦ってます。あなた方がキャッキャッウフフと青春を謳歌している間もずっとね。今日だって殿下の卒業を祝うためにわざわざ戦場から直行して来たんですよ? それなのになんですか? いくら意に沿わない婚約だからといって、ドレスもアクセサリーも花束すらも贈って来ない。パーティーなのに婚約者を迎えにも来ない。パートナーが居ない私はパーティーの間ずっと壁の花でしたよ? そんな相手をどうやって好きになれっていうんです? そもそも殿下は、私と会おうとすらしなかったじゃないですか?」


 ミランダに一気に捲し立てられたマリウスは、真っ青な顔色になって大量の冷や汗を掻き始めた。


 そんなマリウスにはもう興味がないとばかりに、ミランダは両手をブラブラさせながら更にこう続けた。トドメの一撃ともいえるような言葉を。


「あ~あ、王族にこんな扱いを受けるなんてショックだなぁ~! 傷付いたなぁ~! ウチの家、いっそのこと独立しちゃおうかなぁ~! こんな国に忠誠を誓う気なんかしないよねぇ~!」


 それを聞いたマリウスの顔色は青を通り越して白くなり始めたのだった。

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