第3話
「い、いや、あれはだな...その...無かったことにして欲しい...なんて...」
マリウスは媚びるような目でミランダを見詰めてそう呟いた。
「殿下、見苦しいですよ。男足るもの二言があってはなりません。それこそ恥ずべきことです。第一、殿下にはちゃんとしたお相手がいらっしゃっるみたいじゃありませんか?」
そう言ってミランダは、訳が分からないといった表情で未だマリウスの後ろに控えているサンドラを指差した。
「そ、そうですよ! 殿下は私のことを愛しているとおっしゃって下さったじゃありませんか!」
指差されたサンドラは、ハッと我に返るなりそう叫んだ。
「黙れ! このウソ吐きめ! 貴様、ずっと俺を騙していたんだな! 誰も貴様を虐めてなんかいないじゃないか! 全て貴様の自作自演のお芝居だったってことなんだな!」
さっきまでとは打って変わって、マリウスはサンドラを憎々し気に睨み付けてからそう糾弾し始めた。
「あ、あれは...ち、違うんです! わ、私の勘違いだったんですよ!」
「勘違いだと!?」
「そ、そうです! わ、私のことを虐めてたのはあの人だったんですよ!」
この後に及んでもまだ己の非を認めないどころか、更なる悪足掻きを重ねようと喚くサンドラの姿は、見苦しいのを通り越していっそのこと清々しいと思える程だった。
そしてそんなサンドラに指差し返されたミランダはといえば、
「いやいや、私にも不可能ですって。だって私もそこのリリアナ同様、この学園に通ってませんもん。なにテキトーなこと言ってくれちゃってんですか?」
そりゃそうだ。リリアナの時も思ったが、こんな美少女が学園に通学してたら噂にならない訳がない。
それこそ真っ先にマリウスの耳にも届いたことだろう。
「あぐ...そ、そんな...」
万策尽きたのか、ついにサンドラはその場に崩れ落ちた。というより、あまりにも穴だらけでお粗末な作戦だったと言わざるを得ないだろう。
まんまとマリウスを篭絡させたまでは良かったが、ツメが甘過ぎたということになる。
「このウソ吐き女を引っ立てろ!」
マリウスが近衛兵にそう指示を下す。
「イヤァッ! 離して離して~! マリウス様ぁ~! お願い~! 助けて~!」
両脇を近衛兵に固められたミランダは、引き摺られるようにして連れて行かれた。最後まで喚き散らしていたが、マリウスは一顧だにしなかった。それどころじゃなかったからだ。
「ミランダ嬢、本当に申し訳なかった...改めてお願いする...どうか俺の婚約者になってくれないだろうか?」
そう言ってマリウスは跪いた。
「だからイヤですって。あんな見え見えのハニートラップにコロッと引っ掛かる男なんてこっちから願い下げですよ」
ミランダはどこまでも辛辣だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます