クラスの美少女とあまりにも帰り道で遭遇するので真意を聞いてみた

本町かまくら

本編

 俺、初瀬調(はつせしらべ)にはとても贅沢な悩みがある。


「あ、は、初瀬くんだ! ぐ、偶然だね! 今日も会うなんて!」


「そ、そうだね、桜ケ丘さん」


 彼女の名前は桜ケ丘桜(さくらがおかさくら)。

 俺のクラスで大人気の清楚系美少女だ。


「や、やっぱり家が近いからかなぁ?」


「それにしてもすごい偶然だよね」


 そう、俺の悩みとは――桜ケ丘さんと毎日のように帰り道で遭遇することだ。

 

「えへへっ。す、すごいなぁ」


「だ、だねぇ」


 新しいクラスになってから早三か月。

 偶然を明らかに超えた遭遇率にさすがに疑問を抱く。


「(まさか桜ケ丘さんが意図的に待ち伏せしてる、とか……)」


 そうなると桜ケ丘さんが俺に好意を抱いているのが前提になるけど、それは考えづらい。


 何せ桜ケ丘さんは大人気の美少女。

 俺のようなパッとしない人を好きになるわけがない。


 それに桜ケ丘さんは男を避けることで有名だ。

 噂によると高校に入学するまでは周りが女の子だけの環境だったようで、免疫がないらしい。


「(……でも、会ったら必ず話しかけてくるんだよなぁ)」


 考えたくないけど、俺を男として見ていないのが有力だ。


「今日はバイトあるの?」


「バイトはないよ」


「じゃ、じゃあ家に帰るだけなんだね!」


「う、うん」


「方向同じだし、一緒に帰らない……?」


「い、いいけど」


「ほ、ほんと⁈ じゃあお言葉に甘えて……」


 俺は知っている。

 桜ケ丘さんの家の方向は俺の家の真反対にあることを。

 

 なのに桜ケ丘さんは俺と家が近いと嘘をつく。

 本当に謎だらけだ。


「……」


「……」


 そして、大体沈黙になる。

 ますます意味が分からない。

 

 その状態が三分ほど続くと、


「きょ、今日は天気がいいね!」


「そ、そうだね」


 天気の話をしてくる。

 しかもその後大体「……はぁ、私何言ってるんだろう」と反省したような顔になる。


 ……本当に桜ケ丘さんは不思議だ。


 駅から十分ほど歩くと、俺の家に到着した。


「じゃあまた明日」


「う、うん! その、ええと……また、明日」


「うん」


 そしてふふん、と満足そうな表情を浮かべて今来た道を引き返していくのだ。


「……ほんと、桜ケ丘さんって何者なんだ」


 桜ケ丘さんの謎はそれだけじゃない。


 学校にて。


 ノートを回収しようと桜ケ丘さんに話しかけると、


「は、初瀬くん……っ‼」


 俺を見るや否や一目散に逃げてしまうのだ。

 

「俺何かしたかな……」


 学校と帰り道の桜ケ丘さんはギャップがありすぎる。

 少し落ち込んだように肩を落としていると、いつも決まって桜ケ丘さんの友人の宮本さんが一言。


「気にしないで。桜なりの頑張りだから」


 と励まされるのだ。


 ……ますます分からない。

 

 ――というわけで、俺は今日玉砕覚悟で聞いてみることにした。


 いつもの帰り道、沈黙の時間。

 桜ケ丘さんが「そ、そういえば!」と言いかけたところで遮るように言う。



「なんで桜ケ丘さんは、俺とこんなに遭遇するんだ?」



 俺の一言で石のように固まってしまう桜ケ丘さん。

 やっぱり聞かなきゃよかったなと後悔していると、わなわなと唇震わせ、みるみるうちに桜ケ丘さんの顔が真っ赤になっていった。


「そ、それは、そ、そのぉ……」


 視線が定まらず、目をグルグルと回す。


「なんというか、そ、そのぉ……初瀬くんがすごく、え、ええっと……」


「俺がなんだ?」


「っ‼ あ、そ、それはね? 初瀬くんが……す、す、す……」


「す?」


「す……っ‼ すだからっ!!!!!!」


「……す、す?」


 す、の一文字で何か表すっけ。

 ぽかんとした表情を浮かべていると、ぼふんと顔から蒸気が出た桜ケ丘さんがダッシュで逃げていく。


「ごめんなさぁぁあああああああい!!!!!!!!!!」


 取り残された俺。


 ……ますます桜ケ丘さんが分からなくなった。



 後日。


 教室に来てみると、桜ケ丘さんが俺の下にやってきて一言。




「き、ですから!!!!!」




 それだけ言って、またしても走り去ってしまう桜ケ丘さん。 

 首を傾げていると宮本さんがいつものように俺の肩をぽんと叩いた。


「許してやってよ。これが桜の精いっぱいだから」


「は、はぁ」


 やっぱり分からない。

 

 桜ケ丘さんは不思議な人だ。















 人気のない階段の踊り場。

 

 ひんやりとした手で熱くなった頬を冷やしながら私はしゃがむ。


「……い、言えない。言えるわけがないよ」



 



 一つが二つになったのは、ずっと先のことだ。



                完

 


 

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