第14話

「もう一つ気になることがあるんです」

「何ですか?」


「いつの頃からかわからないんですが、街のどこかで知り合った女性たちと肉体関係を持ってお金を渡している行動をとることがあったんです」

「どこで、知り合ったかは思い出せますか?」

「初めは風俗かホステスなどの飲食店で会った人なのかと思ったのですが、私生活や会合などでそのような場所を使うなど一切手を付けたことがなかったのでそれは違うのかと思います」


「ハニートラップやスカウトマンに声をかけられたとかは?」

「全く思いつかないんです。気がついたら店で一緒に飲んでそのまま家に連れ込んだみたいで……」


「そうなると、それは尾花さんの無意識の不純的な行為とみなされる場合もあります」

「相手への傷もつけていますし、それに対して自傷行為にも近いことをしてきたということですよね?」


「一概には断定できかねませんが、無意識の行為が働くことは間違えればもう一人の尾花さんがいて本来の自分とは違う対照的な行動をする。そのような要因も起っていたこともあったのかもしれません。ただ現在はその神村さんという女性以外に関係を持っている方というのは認識はありますか?」

「一人もいないと思います。ここ半年くらいは誰も自宅に入れたことはありません」

「それなら大丈夫でしょう。ご本人が自覚していらっしゃるのなら過去の出来事は忘れてくと思われます」


「堂々と生きていることが一番なんですよね?」


「ええ。尾花さんはご自身を真正面から見れることができています。理想としては俯瞰的に物事を見れるようになっていけば尚宜しいかい思われます。焦らずに次回の診察まで様子を見ていきましょう」

「わかりました、ありがとうございます」


その後、クリニックを出てから東京駅まで歩いていき、構内にあるカフェで休息をとった。しばらくすると一通のメールが届き開いてみると箭内からだったので電話をかけてみたら昨日僕が退勤した後に会社に荷物が届いてまた矢代という名前の人物から花のアレンジメントの物が来ていると話していた。

僕はこれから会社に向かってもいいかと尋ねると承諾してくれたので急いで市ヶ谷に向かった。会社に着いてインターホンを押すと社員が出てきたので僕宛ての荷物の件を話すと、机の隣に置いてあった。


「なんか不気味ですよね。新潟からわざわざ送ってきたにしても随分お花の活きが良いですよね」

「そうだよね。香りも新鮮だな」

「ああ、そうか……。都内にいる誰かが匿名として尾花さん宛てに送り付けているかもしれませんね」

「都内?なんでだろう?」

「それは僕にもわからないですよ。だどしたら相手は女性かもしれませんね」

「女性?」

「前の年のバレンタインデーの時もだし、誕生日や尾花さんが上京してここの会社にきて一年経った頃のことにしても、花や何かしらの男性もののプレセントにしてもそれをあらかじめ分かっている人じゃないとこういう風に送ってなんか来ませんよね」

「都内か……今まで会った人で特定できる人……いや、すぐには思い出せないな」

「かえって僕もすみません。取り敢えずこれ持って帰って自宅に飾ってください」

「そうします。じゃあこれで失礼します」


僕は不安な気持ちがこみ上げてきて、その花を見るたびに送り主の人を連想させながら自宅へと帰っていった。さらに数日が経ったある日、四谷の小料理店へ行き和咲が作ってくれた昼食を摂りに来ていた。試しに彼女にも先日の新潟の矢代という人物の件を話して会社に届いた花の差出人の事を告げると、彼女は挙動不審に僕の顔を見つめ始めたのでどうしたのか尋ねてみた。


「私、その人知っています」

「一体、どういうこと?」

「それ送っているの、新潟ではなく都内からです」

「どうしてそれを知っているの?矢代っていう人と知り合いかい?」


「私です」

「え?」


「この三年近くあなた宛てに送ってきたものは全部……私が送っていました」

「それなら、どうして直接手渡ししたりしてくれなかったの?」

「ここの店に働き始めてから橘さんを通じて啓吾さんの事を伺いました。当初難病で記憶があまりないって聞いて、それを知ってからそれなら故郷の新潟宛てから送る形にすれば、どこかで記憶が戻るんじゃないかって考えてそうした行動をとっていました」


「どうして……そういう風に遠回しのようなことをとったの?」


「その頃元彼とまだ付き合っていた頃で他の違う男性とか誰かと会ったりしたら些細な事でも身体や顔を叩かれていたんです」

「そのはけ口に、僕に好意を抱いたとか?」

「お店に来ていただく以前に事務所に書類を渡しに行ったりしていたことがあったんです。その時に啓吾さんを見かけて他の社員さんにあの人は誰かと聞いてあなたの存在を知ったんです」


「じゃあ二年前から僕の事は知っていたんだね?それでも声をかけてくれてもよかったんじゃないか?」


「いつもと違う行動をとるとあいつが怒鳴る。そこから逃げたくてそうしようか迷っている時に橘さんからあなたが震災で家族を亡くされて病にもかかっても上京してきたことを改めて聞いて……僅かばかりでもいいから支えてあげたいって思いを抱くようになったんです」

「そう……まあ思ってくれるのはともかく、陰で隠れながら第三者へ贈り物を渡すというのは本来ならストーキングみたいな感じになるかもしれないよね」

「ずっと隠していてごめんなさい。啓吾さんの事ずっと好きでどう話しかけたらいいのかわからなくて……」

「和咲、こっちにおいで」

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