第12話
四月。雪解け水が田畑一面を輝かせて陽の差す光とともに上越の景色は春めいた色で彩られていた。僕と神村は新幹線で新潟に向かい駅に到着して改札口を抜けると見覚えのある人が三人こちらを見て手を降ってきた。
そこには叔父夫婦と息子の
「だいぶ復興も進んでいますね」
「ああ。地元の人たちが勢力をあげて他県の応援に来た人たちとともに回復させていっているんだよ」
「僕がいた仮設住宅はまだあるんですか?」
「確かもう撤去されたはずだ。櫂、あの佐々木さんって女性お前のところに連絡行ってないか?」
「去年までは来ていたんだけど今年に入ってからは何も来ないよ。啓吾、あの人と連絡取っていないの?」
「ここ一年は取れていない。俺も忙しかったからさ」
「……さあ着いた。神村さんもまず家に入ってください」
「はい」
叔父夫婦の家は震災で半壊になっていたが、あの後
「明日がここの葬儀会場になる。そのあと霊苑に行って納骨する流れになるんだ。忙しいけど手早く済ませた方があの二人の為にもなるしな」
「そうだね。おどおどしていると何しているのさ!って逆にせかされそうになるからね」
「ご両親とも仲が良かったんですね」
「そうだよ。似たもの夫婦ってところで近所でもみんな親しまれていたからね」
「今日はホテルに?」
「うん。今回、僕と神村さんは三日しか休暇もらえなかったから少しバタバタするかもしれないね」
「お義兄さんたちのためにわざわざ東京から来ていただきてありがとうね」
「いいえ。皆さんにちょうどご挨拶できると思ったので良い機会かなと思いまして同行させていただきました」
「啓吾、何か見ないうちに都会の男って感じがするな。色々手とか出してんだろ?」
「やめろよ。仕事が忙しくてそれどころじゃない。ねぇ?」
「私のいる小料理店でも閑散期になると顔を出してくださるので良い常連さんですよ」
「そうなのね、良かったじゃない啓吾。こんな素敵な人を連れてきてくれるなんて、叔母である私がこれから母親代わりになれるわよ」
「それは頼もしいです」
叔父夫婦の家に数時間ほど滞在した後僕と神村は宿泊先のホテルへ向かった。翌日葬儀会場へ向かい親族が数名集まったのちに葬儀が執り行われて、その後日本海側に面している霊苑へ向かい納骨をした後に墓石に向かって皆で合掌した。再び葬儀会場へ戻り会食が終わると叔父夫婦の家に行き、僕の病の進行状況を話をした。
「そうか、じゃあここ一年の間は記憶が行ったり来たりして震災以前の事も思い出せるようになっているんだな」
「まだ曖昧ですが残像というのかな?人の顔はわかっていても名前がなかなか出てこないことがあって……」
「それでもだいぶ元の記憶がよみがえってきているのならまだ東京にはいた方がよさそうだね」
「俺も何かの資料で読んだんだけど、持続性の健忘は慢性にならなければ回復は早くなる場合もあるみたいだし。啓吾なら今の調子でいれるのなら見込みはあると思うよ」
「ありがとう。担当医も少しずつだけど脳の損傷はそれほどないみたいだから自分のペースで治療を進めていく方が良いって言ってくれているんだ」
「そうそう。お二人とも、何か私達にお話があるって言っていたでしょ?どうしたのかなって?」
「ああ。この二年の間なんだけど、矢代って人から僕宛てにいくつか荷物が届くんだ。……これ新潟県内の住所。何か身に覚えってある?」
「いやあ……わからないな。お前知っているか?」
「俺も……いや、知らない。親戚に矢代っていないよね」
「そうだよな。やっぱり誰かの
「何か思い当たる人でもいないの?」
「全く知らないんだ。初めは父さんたちの知り合いかと思ったけど、誕生日とか教えていないからどこの誰だかわからなくてね」
「これメモさせて。……はい、ありがとう。俺らも何人かの人にあたってみる。もしわかったらすぐに連絡するよ」
「ああ。頼む。あともう一つ報告があるんだ」
「どうしたの?」
「僕と神村さん、正式に付き合うことにしたんだ」
「本当?あら良い事じゃない。ねえお父さん、お義兄さんたちも喜んでくれるわよ」
「紀保と慎、僕らの事許してくれるかな……?」
「大丈夫だよ。二人とも安心してお前の事見守ってくれているから、これから神村さんと二人で二人三脚で新しい道を切り開いていきなさい」
「ずっと気がかりでさ、誰を救いに生きていこうかって悩んでいた時に彼女と出会ったんだ。本当に感謝しているんです」
「神村さん、啓吾の事よろしくお願いします」
「私こそ、ふつつかな者ですか尾花さんと一緒に沢山楽しい事作っていきたいので、皆さんよろしくお願いします」
「ありがとうね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます