第18話 あの龍の騎士の複製品
痺れる……。身体が動かない。
龍呪の
俺は弱いままだ。何も出来なかった無力なあの頃と何も変わらない。
憎き大海龍を仕留めるために、何年も修業した。
いつか大海龍を倒して、家族の仇を打って、自分はもう弱くないと証明したかった。
俺たちみたいに、
でも、折れた剣を見れば分かる。
俺の日々は全部無駄だった。
なら、俺は今まで何のために今まで生きて来たんだ?
教えてくれ、ドラセナ。
子供の頃に憧れた、龍の力で世界を救う物語の主人公に、俺は成れなかった。
今の俺はあの主人公の真似をしただけの、
和陽でドラセナとリントブルムの姿を見た時、身体中の細胞という細胞が憎悪を感じた。
悔しい。辛い。嫌い。憎い。
折れた龍呪の
(殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ)
脳裏に沢山の声が聞こえる。一つ一つ異なった声だ。
何だこの声……。
視界が眩む。次に目に映ったのは地獄のように燃え広がる森の中。
バタバタと音が聞こえる。空を見れば夜空の中、星の代わりに
「おいジークフリート」
またもや脳髄に染みる重く低い声。
「誰だ!?」
「私たちはお前を知っている。お前も俺たちを知っているはずだが覚えているはずもない」
「誰だ!?それにここはどこだ!?」
今も無数の声が頭にズキズキと響き続けている。
「私は暴風龍ファフニール。お前の龍呪の
「暴風龍?」
「お前が使い続けている風の能力は元々私の能力だ。それはまいい。ここは龍呪の
「聞こえ続けてるこの声は何だ!?」
「その声は、お前が今まで殺してきた
「……」
「本来なら能力を使い捨てることで、魂も解放することが出来たかお前はそれを行わなかった。今までは私と剣本体で何とか魂を抑えていたが、剣が折れたことで
「そるとどうなるんだ?」
「お前は自分の憎しみと
再び、意識が遠のいていく。
「ジークフリート。お前は今まで殺した
(強く……なれる……なら……)
俺は俺を包み込んでいく赤黒い禍々しい炎に身を委ねた。
「……ちゃん!……」
聞き覚えがある声。
「お兄ちゃん!!」
クリーム……。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「やったか?」
「気を抜かないでね、リント」
「クリーム!」
私は神殿に隠れていたクリームを呼んだ。
「お兄ちゃん!」
クリームが神殿の入り口から出てきてジークの方へ駆け寄っていった。
「リント!」
ジークが持つ折れた剣から一瞬、魔力の反応があったのを私は見逃さなかった。
リントは飛び立つとクリームを加えて神殿の方まで飛んだ。
「リント君?」
クリームは動揺している。
「まだだ。ジーク、まだ力を残してる」
ジークの剣から発生した炎はジークの周囲を包み込んでいく。
赤、紫、黒が絶妙に混ざり合った混沌とした色の炎。
やがてその炎は収束していき、中からジークの姿が現れた。
折れたはずの剣は再生して炎を纏っている。
剣先から出る炎は両腕を伝い背中にまで燃え広がり、炎が
頭部にはこめかみの辺りから炎が後方に鋭く燃えて角のようになっている。
「龍呪の
「ドラセナ!どうする?」
クリームを神殿に避難させたリントが私の隣に降りてきた。
「あの神殿は別の結界が張ってある。それもかなり頑丈なやつが。剣折っても意味無かったか……まあやることは変わらない」
私は魔力を身体中に送り直し、四肢に帯電させた。
ジークはこちらに詰めてこず、剣を構えた。
剣先に集まる炎は燃え上がり、強大な大剣のような形状に変化した。
(第二ラウンド始まっていきなり大技!?)
「この炎は、今まで俺が殺した
これで終わりだ大海龍」
(マズイ……受けきれるか?私とリントの最大火力で相殺できるか出来ないかってとこ?)
(逃げるか?いや、この距離だと間に合わない)
「ドラゴン、やばいよあれ、俺たちで受けきれる?」」
「かなり無理しないときつそう……」
「俺とドラセナは何でも乗り切って来たからね。何とかなるよ」
「ここが正念場、アゲてくよ!!」
私は両手に全魔力を回し、超高出力、超高電圧の電気を帯電させる。
「沈め!大海龍!!」
ジークが燃え盛る煉獄の体験を振り下ろした。
「
「
振り下ろされた漆黒の刃に、紫色の電撃と水流が牙を剥く。
大気を駆ける稲妻はしだいに龍の顔へと変貌し、そこに母なる海の叱りの水流が伴う。
祭壇の上空で爆ぜる、神罰とも呼べる雷と水と炎の融合。その衝撃に付近の
祭壇を全て飲み込むほどの衝撃波、轟音、土埃。
ドラセナは地面に片膝をつき、片目を瞑りながらもなんとか前を見ていた。
前方から迫ってくる大量の魔力。
押し負けた。
(どうする。逃げれない。障害物も無い。もう
一瞬のすきに、様々な思考と選択肢がドラセナの脳内を混交すろ。だが、そのどれもが現状の打破に繋がらない。
(せめて、リントだけでも)
そう思った瞬間、ドラセナの片目の視界に影が現れた。
十年間の時を共に過ごし、空を飛び、一緒に寝て、沢山喧嘩して、沢山抱き着いたあの後ろ姿。
いつからか、私の身長を大きく越していた。一緒に寝るときは必ず私を包んでくれたあの翼。
「リント!!逃げて!!」
私は思わず両目を開けて叫ぶ。
「俺はドラセナを守るためにアトラに造られたんだ。だから退く訳にはいかないよ。それに……」
「それに、これは俺の気持ちだ。アトラがそう設計したからじゃない。元になった
「今は、胸を張ってそう言える」
リントはこちらに振り向いた。
「俺のこと、大きくなったねってよく言ってくれるけどさ。俺の翼じゃ全身包めないくらいに、ドラセナも大きくなったね……」
「ダメ!行かないで!」
迫りくる魔力の勢いに両膝と片手をついてしまう。
「じいちゃんとクリームにも出会えたんだし、俺が居なくても生きていけるよ」
違う!みんなと出会えてもリントにはこれからも隣にいて欲しいの!
「ドラセナ。もう大丈夫だよ」
「リント!!!」
視界が一気に白くなった。最後まで、リントの後ろ姿を見ていた。
時が流れるのをゆっくりと感じた。
砂埃が履けていく。視界がしだいにはっきりしていく。
目の前に、何か塊が見えた。
「……!!」
今まで私を守り続けた、リントの
右翼から身体の中心かけて激しく損壊し、配線や基盤がむき出しになっている。
左胸のあたりには、二つにひび割れた赤い球体が転げ落ちている。
……リントの核だ。
瞳には光が灯っていいない。
私は四つん這いになって地面を這って、尻尾を握る。
身体から魔力を絞り出し、リントに電気を送る。
お願い。お願い。いつもみたいに充電して……、また一緒に空を飛ぼう。
リントの
目の前にあるのは、かつてリントだったもの。
「今までずっと一緒に居たのに……ずるいよ……急に一人にするなんて……」
ドラセナの瞳から、涙がこぼれた。リントの
「があっ!!ああああ!!!」
咄嗟に視界を前方に向ける。
炎に包まれたジークが悶えている。
剣から燃え移る炎が全身を包み始めている。
ジークの炎は、今までジークが殺してきた
その黒い魂は、ジークの魂をも蝕んでいる。
ジークは燃え続ける炎の剣を、こちらに振りかざした。
だが、その炎はドラセナからはるか遠くの空中を切った。
魔力はもう残っていない。
絶望するドラセナの視界のジークの姿を遮るように、一冊の本がドラセナの
アトラがドラセナに託した、例の
光を放ちながら勝手にページがめくられていく。
今まで空白だった、四つ目の
十年前、アトラがリントブルムを造った際に、時間が足りなかったアトラは残りの部品をドラセナ自身に集めさせる形式をとった。
一つ目の部品 血熟のリンゴによる攻撃の強化
二つ目の部品
三つ目の部品 雷纏のローブによるドラセナの電気の節約
四つ目の部品を手に入れた際に開放される、リントブルムの能力。
アトラがドラセナに残したエゴ。
文字通り、ドラセナを守るための魔導機械。
リントブルムの機体は
両腕、両足、上半身も包み込み、翼の
鎧の隙間と表面を薄い水のベールが包み、翼に膜も水で形成されていく。
残った
額には水の王冠が形成され、槍と鎧は澄んだ水のベールに包まれて、紫色の電気が迸る。
これが、アトラが望んだ本来の
「
「力を貸して!一緒に戦うよ、リント!!」
私は地面を強く蹴った。
翼を使った事なんてない。でも、リントの鎧が教えてくれる。
対するジークも、炎の翼で飛翔する。
空中での攻防。水と炎、槍と剣。相対する互いの攻撃の衝撃波が龍谷に響き渡る。
空を舞う二体の龍の間を、自然の雷が裂いていく。
雨粒も、暴風も、全部今は関係ない。
雷と水を纏った槍が、黒い炎を相殺する。
魔力は残っていなかったけど、リントの充電を魔力代わりにして戦ってるんだ。
「ジーク!!あんたが今まで頑張ってきた努力は、こんな使い方でいいわけ!?」
槍で剣を抑えて、空中でジークに詰め寄る。
「だまれ!!俺は強くならないといけないんだ!!あの頃の自分と決別して、クリームを守るために!!」
「それのどこが!!間違ってるっていうんだ!!??」
「今自分がやってることが正しいって思ってるなら!!何であんたは今!!」
「泣いてるの!?」
炎を水で相殺し、電気をジークの背後に向けて放電した。
痺れて動きが止まったジークを掴み、祭壇に投げ飛ばる
ジークは地面に撃墜し、転がりながら吹き飛び神殿の壁に衝突した。
「……!!」
ジークは先ほど放った巨大な炎の大剣による一撃の放つため、剣を構えた。
またしても剣先に炎が凝縮され、みるみるうちに燃え盛って行く。
私は槍を天に掲げた。
すると落ちて来た自然の落雷が槍へと集まり、巨大な電気の槍へと形を変えた。
「終わりにしよう。ジーク」
「神罰下せし雷の
先ほどとは対極。振り下ろされた雷と、天へ向け放たれた炎が衝突し、爆ぜた魔力は祭壇だけでなく龍谷の一部を包み込んだ。
天は裂け、雨雲はなくなり太陽の光が射し始めた。
ジークの身体の炎は鎮火し、背中の翼や尾は亡くなり、剣は再び折れていた。
服も破けボロボロになった身体で、ジークは立っていた。
ドラセナは祭壇に降りて、ジークの元へ向かう。
「…………」
ジークは無言で、満身創痍の身体で、それでも折れた剣をドラセナに振りかざそうとした。
「クリームを守りたいって言ったけど、クリームのこと、ちゃんと見てた?」
「お兄ちゃん!!」
神殿からクリームが飛び出してきて、血まみれのジークの身体を背後から抱きしめた。
「もういいよ……。いつも頑張ってばっかりで……、ジークは十分強いよ……」
クリームが泣き叫ぶと、ジークは剣を地面に落とした。
「私は十分守られてる。ジークは、ジーク自身を大事にしてほしい。これ以上やったって、パパもママも戻ってくる訳じゃない。だから、もういいよ。私たちは、もう未来をみないと……」
クリームは
「大海龍が集落を襲って私が怪我をしたとき、ジークが私にかけてくれたローブだよ。もう着れないくらい、私たちも大きくなった」
ジークは振り向くと、クリームを抱きしめた。
「ごめんクリーム!俺!パパとママが死んだときに何も出来なかった自分が嫌いで!!ずっと強くなりたかった……!!ずっと大海龍に復讐したかったんだ!!でも……そのせいで、クリームのこと、ちゃんと見てなくてごめん!!!」
ジークは肩から崩れ落ちる。
「もうすぐ新作のローブが完成するんだ。かなりの自信作なんだけど、素材を取るのが大変なんだ。だから、ジークがその剣で私を助けて」
「うん……。クリームも……大きくなったね」
「うん……!!」
抱きしめ合う二人の少年少女を、龍谷の間から射す光が照らしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます