第17話 龍呪の剣≪バルムンク≫
三日後、リント用の
「ありがとうクリーム」
「三日もかかってしまって申し訳ない。リント君、着心地はどう?」
リントの身体に合わせて前脚、後ろ足、翼、尻尾を通す穴が開いている。
「めっちゃピッタリだ。これなら支障なく飛べそう」
「期待に沿えたみたいで良かった」
「これで準備は全部整ったね」
「これからクリームはどうするんだ?」
「私は一足先に龍谷に向かう。ジークと合流して
「私とリントはローブで透明化しつつ祭壇に向かう。クリームとは今日で一旦お別れだね」
「ジークを止めれたら、また一緒に温泉行こうねドラセナ」
「うん。またガールズトークしよう」
私はクリームと抱擁を交わした。
「リント君も、またね」
クリームはリントの頬を数回撫でた。
「うん。いつでも撫でに来ていいからな」
「それじゃあ、また数日後」
『またね』
私とリントはクリームを見送った。
「私とリントは明日の朝から祭壇に向かう。和陽の
「そっからは透明になって空から祭壇に向かうんだね」
「うん。明日の夕方くらいには到着すると思う」
「ジークを止めて、四つ目の
「いよいよか~」
「とりあえず今日はまだゆっくりと休む時間。源内さんにもちゃんとお礼を言わないと」
それから源内さんのお店の手伝いをして、夜ご飯は源内さんと一緒に食べた。
早めに床につき、翌朝はかなり早くに起きた。
源内さんも朝が早く、店にお礼を言いに行った。
「源内さん、約一週間、ありがとうございました」
私は源内さんに頭を下げて家の鍵を渡した。
「早かったのう、冒険がひと段落着いたらまた遊びに来ると良い。リントのメンテナンスはわしが引き受けよう」
「また任せたぜ!じいちゃん」
「無事に帰ってくるんじゃぞ」
「はい!」
私とリントは源内さんと握手を交わして別れを告げた。
「じいちゃん、良い人だったね」
「本当に。冒険が終わったらもう一度ちゃんとお礼を私にこよう」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
同刻 龍谷
「お兄ちゃん、ただいま」
「遅かったなクリーム」
「ドラセナとリントブルムに動きがあった。今日の夕方くらいにこの祭壇に来るらしい」
「そうか……」
「何としても大海龍の首を落とす。この剣に誓って……!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
和陽の
ティルナノーグの街並みもどこか懐かしく思える。
ティルナノーグの
眼前に広がる壮大な山脈……龍谷。
「リントの元になった大海龍が住んでいた土地。実質里帰りだね」
「俺の故郷はフルトクラーゲンの家だよ」
「じゃあ、この戦いを乗り越えて里帰りしないとね」
「そうだな」
「そんじゃ、任せたよ」
私は
リントの背中に跨ると、リントは空へ羽ばたいた。
「遠くの方に
「お願い。なんか、雲行きが怪しいね。進行方向の雲が暗い……雨が降り出すかも」
暫くすると、予想通り雨が降り始めた。強風と雷を伴う粒の大きな激しい雨だ。
「ごめんドラセナ。頑張ってるけど、風が強くて揺れちゃう」
「大丈夫。リントのペースで進んで。もうしばらくすれば祭壇が見えてくるはず」
透明化して飛んでいる私とリントのすぐ隣を
「実際の
「龍谷でも奥の方に向かってるからね。何年も自然で生き残っている個体のはずだから、普通の
「ドラセナ!!十二時の方向を見て!あそこだけ雨が弾かれてるし、明らかな人口建造物がある」
「地図の位置的にもあそこだ、
「向かうよ!?」
「うん!いきなり迎撃されるかもしれない。気を抜かずに行くよ!」
「了解!」
リントは態勢を傾けて祭壇へと降下した。
谷の下の方の道から何百段もあるだあろう長蛇の階段が続いている。階段を上った先には平らな空間が広がっており、床には何かの陣の模様がある。最奥には神殿のような建物があり、その頂上には生贄や供物を捧げたであろう石の台が見える。
「リント、階段の途中で降ろして」
「あいよ」
リントは私の指示に従って、あまりにも長い階段の途中で私を降ろした。
「迎撃はされなかった。クリームが抑えてくれてたのかも」
「この階段を上った先にジークが待ち構えてるはず。四つめの
私とリントは
「緊張してる?リント」
「そりゃね。ドラセナは緊張してないの?」
「緊張してるけど、ワクワクもしてる」
「根っからの冒険者だな……。まあ、緊張してるからって、負けるつもりは微塵もないよ」
「クリームの為にも、絶対に勝つよ」
「おう」
私とリントは階段の最上段を上がった。
障害物の無い、平らな地形。祭壇内は雨が降っていないということ、
左右対称に描かれた地面の文様。
同じく左右対称に造られた神殿が視界の正面に聳え立つ。
そして、神殿の入り口に立ちはだかる一人の人影。
「ジーク……」
「まさか自分から来るとはな。大海龍とその主」
ジークは剣を地面に突き刺し、その柄を両手で抑えて仁王立ちしている。
「こっちにも色々と事情があるんでね」
「てめえの泣きづらを拝みに来てやったぞ」
「戯言を」
「クリームから事情は全部聞いたよ。ジーク、あんたも色々と辛いことがあるんだろうけど、他人に迷惑かけるのは違うと思うな」
「お前らに俺の何が分かる!!クリームから少し話を聞いたくらいで知った口をきくな!」
「ジークの気持ちを全部分かったつもりないよ。でも、今日はそれを知りに来た」
「大海龍は俺の親と……何より俺の仇だ。リントブルム、お前の気配を感じるたびに右頬の傷が疼く。お前への復讐はこの傷と共に俺に刻まれてるんだ!」
「うっせえ!!人違いだね!!俺は
「お前……
「え、そうなのドラセナ?」
「アトラの本には何も書いてなかった。ジークが言ってることが本当か分からないけど、否定出来る根拠もない」
「ドラセナと言ったか?リントブルムを庇うならお前も容赦しない」
「リントは私の使い魔だし、そっちがその気なら全力で殺り合うまでよ」
私は両手両足の魔力を送り込み帯電させた。
「
「龍呪の
ジークは剣を地面から抜き、剣先に禍々しく赤黒いオーラを宿した。
リントはそれを見るや上空に飛び立ち戦闘態勢に入った。
ジークは飛び立ったリントに向けて剣を振りかざし、赤黒い魔力の光線を放った。
リントは旋回しなが攻撃を回避する。
私はジークとの距離を詰める。私を狙っている内は剣でリントを攻撃できない。
ジークの剣と私の拳が連撃を交える。
数日前、源内さんに頼んでおいたガントレットと雷纏のローブのお陰で、拳で剣と渡りあえる。
上空からリントが通常の
一人で無数の
実力は互角。平行線の攻防が繰り広げられる。
「くどいな」
ジークが後方に下がり距離を取ると、剣が纏っていたオーラの色が変わった。
憎悪の象徴のような赤黒いオーラから、澄んだ黄緑のオーラへと移り変わった。
ジークが変貌した剣を振る。それと共に強風がいきなり私とリントを襲った。
ジークに向けて放たれていたリントの
「ドラセナ!!」
被弾した私に気が散ったリントに目掛けてジークが飛翔する。
リントは空中で前転して、勢いをつけた尾で迫りくるジークを迎撃した。
私は態勢を直し、腰のポーチからモバイルバッテリーを取り出してジークに投擲した。
モバイルバッテリーは強風でどこかへ飛んでいったが、風向きが変わった隙にもう一度ジークとの距離を詰める。
ドラセナの上半身を斜めに裂くように振りかざされた龍呪の
ドラセナはその攻撃を膝と股関節の関節を抜き、穏やかな川の流れのようにするりと躱した。
両手を地面に着く。低めの体制から放たれる、電気を纏った脚の稲妻。それは、躰道の卍蹴り。
ジークはドラセナの脚を剣の側面で防御したが、伴う電気までは防御しきれなかった。
ジークの体躯を電撃が駆け巡る。痙攣するジークの身体。
言葉はいらない。
阿吽と無言の連携。
ドラセナはその場を即座に離れた。時を同じくして、リントは上空からジークに追撃を入れる。
天から放たれるのは、超高水圧の大気を貫く一筋の光。
糸のように繊細な細さに秘められた、
「
リントは数日前のドラセナとの会話を思い出す。
ジークを戦闘不能にするのが目的。命に別状が無いように力尽きさせるのも選択肢の一つ。
だが、ドラセナとリントの狙いはジーク本体ではなくジークが持つ龍呪の
武器破壊によりジークが戦闘不能になるのを狙う。
水糸も、龍呪の
攻撃を受けたジークの周囲を水蒸気と土煙が包み込んだ。
「どうだ?」
リントはドラセナの上空に退避する。
黄緑色の風の刃と化した衝撃波が、漂う煙幕を晴らし、中からジークが姿を現した。
「やっぱピンピンしてるか」
「あの風の能力、私とリントの攻撃がいなされて相性が悪い。一直線の攻撃だと風で向きを変えられるから、次は広範囲で攻めよう」
「了解」
ジークは剣先から無数の風の刃が放たれた。
身体能力が向上しているドラセナは、障害物がないこの
リントが上空から
同時にドラセナはもう一度モバイルバッテリーを投擲する。
ジークは水流を風でいなし、右足でモバイルバッテリーを蹴飛ばした。
水流が結界にぶつかり、轟音が轟く。
姿勢が崩れたジークに対してドラセナは帯電した四肢で再び連撃を叩きこんだ。
ジークの攻撃を躱し、再び攻勢にでる。
呼吸の暇を与えない、束の間の攻防。どちらも一切の引けを取らない暴風と稲妻の攪拌。
「ジーク、あんた昔に家族をなくしてるんでしょう?」
「それがどうした!?」
「私は両親の顔を思い出せないし、お世話になった大切な人を亡くした!ジーク、あんたは今、自分があの時強かったらって思って仕方がないんでしょう!?」
「クリームは居てったよ。ジークは十分強いって!!」
私は身体に溜めていた電気を一気に放電した。
「お前らみたいに!!恵まれてた奴らに何が分かる!!」
ジークは剣先から風を開放し、電気を大気中に受け流した。
ドーム状の結界の中に、紫色の稲妻が迸る。
「私は知った口をいけないけど、ジークは過去の自分とか因縁に囚われすぎてる。もっと身近なものを見てみなよ」
結界の中に、星の様に無数の水泡がぷかぷかと浮かんでいた。
ジークが放った風により大気を巡る電撃は、水泡を破裂させた。
破裂した水泡の中から、大量の洪水が溢れ出し結界内を満たしていく。
(まずい!!水の流れに飲まれて、剣が振るえない!!)
ドラセナはリントの背中により、洪水から逃れていた。
「さっきから私が何も考えずに、ただジャブとしてモバイルバッテリーを投げてたとでも!?」
ドラセナは洪水に対して電気を放電した。
モバイルバッテリーの中には、電気に変換が可能なドラセナの魔力が詰まっている。
言わば、モバイルバッテリーはドラセナの気分次第でいつでも放電可能な電気の地雷。
ドラセナの放電に反応した水中のモバイルバッテリーから放たれた大量の電撃が、ジークを飲み込んだ洪水の中を駆け巡った。
轟音とビリビリと空中を裂く電気の音が鳴り続ける。
感電したジークは、剣を握っているのが限界だった。
ティルナノーグの海底洞窟の結界と同様に、本来結界は外からの衝撃への耐久を高めるため、結界内からの衝撃に弱い。
加えて
内側から押し寄せる電撃と水流により結界の耐久は限界を迎えた。
ドーム状の結界が崩壊し、内側から水が溢れ出した。
その代わりに、依然として振り続ける雨と鳴りやまぬ雷の音が祭壇を包み込む。
ジークは剣を地面に突き刺すことで、辛うじて祭壇内に残っていた。
ジークの剣先から、先ほどの禍々しくどす黒いオーラがほんの少し発生した。
「これで終わり。ジーク」
リントの背中に立ち乗りしたドラセナは右手に電気を集中させた。
和陽で天裂を手にしたことで得た新技。
天裂の代わりに、己の手刀をベースに電気を纏わせる。
対するジークは残り僅かな自身の魔力を剣先に集中させて構える。
リントは急降下し、ドラセナを乗せたままジークへ正面から突撃した。
祭壇を貫く一筋の流星。
「手刀
一瞬現れた一筋の光は、ジークの龍呪の
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