第15話 クリームとジーク
「ずっとジークと二人で冒険して来た私には、頼れる人がいない。自分の立場を弁えてても、この判断を取ることしかできない。お返し出来るものも、お金や素材、アイテムくらいしかない。でも、このままだとジークは止められなくなる。リント君に攻撃したみたいに他人の使い魔に手を出すかもしれない。そんなこと、私も、私の両親も、私とジークを助けてくれた冒険者も、ジーク自身も望まない」
「改めてお願い。ドラセナとリント君で、ジークを止めて欲しい」
クリームは深々と頭を下げた。
「どうするドラセナ?俺はドラセナの使い魔だから、ドラセナの指示に従うぜ」
「……………………」
「そんなの、引き受けるに決まってるでしょ。顔を上げて、クリーム」
「これ以上暴走したジークに被害を出させないようにしないと。それに、私たちの冒険にも支障が出るしね」
「ドラセナ……」
「じゃあ俺も手伝うぜ。ジークだっけか?あの仮面野郎に一発噛みついてやろうと思ってたんだ」
「冒険者の世界じゃ大切な人を無くすなんて少ないことじゃないのにな。それなのに復讐だなんだいって自分を特別扱いして他人に迷惑かけやがって」
「リント、今の言葉は違う」
「冒険者の世界には辛い別れが沢山ある。私も両親を思い出せないし、アトラとも別れちゃった。今までちゃんと言葉にしてこなかったけど、アトラはもう死んでる。源内さんだって、大切な奥さんを無くしてる。自分をそんな環境に追いやったやつに復讐したい気持ちも、これ以上大切な人を失いたくないっていう気持ちもあって当然で、特別なんかじゃない。私とリントだって、あの日アトラの家にやって来て、アトラを追い詰めた奴らに復讐したくてたまらなくなったかもしれない。それでも、これ以上何も失わないように前を向いて二人で一緒に頑張って来た。それは、アトラの教えや色んなフルトクラーゲンのギルドの人のお陰があって、運が良かったから。源内さんだって奥さんを失ってから、人を守るために武器を作ってる。ジークだって大切な家族を失って、クリームを守れなくて、無力の自分が辛くて、それでもこれ以上何も失いたくないから現状になってるはず。ジークはクリームを守るために必死になって、弱かった過去の自分を乗り越えようと必死になってる。リントが私を守るために強くなろうとしてくれるのと同じこと。確かに私とリントは急にジークに襲われて迷惑を受けた」
「でも私を守ろうとしてくれるリントから、クリームを守ろうとするジークの行動を否定する言葉は、できるだけ聞きたくない。誰かを守る者が、人が人を守る気持ちを否定するのは違うと思うから。私とリントはジークに命を狙われてる。だからリントの気持ちもすごく分かる。でも忘れないで。私たちだって、ジークやクリームと同じ立場になりかねなかったことを。過去の辛い経験を乗り越えれた私たちは、まだ過去に苦しめられている人たちを助けないといけない。そうやって、みんなで前を向いていくの」
「リントの気持ちも凄く分かるよ。さっき、使い魔だから私の判断に合わせるって言ってくれたけど、本当は嫌だったでしょ。クリームからの頼みは私たちの立場からすると無理やりな点が沢山ある。命を狙ってきた人に助けてって言われてるんだから。でもリントがクリームの頼みを聞きたくないなら、私からお願い。一緒にジークを助けに行こう」
私だって、私とリントを襲ったジークが許せない。だけど、それに囚われたらジークと変わらない。
でも。それでも。私は前を向いていないと。
「うん……ごめん。クリームも、ごめん。ジークとクリームだって辛い過去があるのに、二人の気持ちを考えられなくて」
「そんな……私こそ、二人に無理なお願いをしてるのだから、本当に申し訳ない」
「私とリントはリントの強化に必要な4つの
「ちなみになんだけどさ、クリームってローブを創る能力なんでしょ?じゃあ、『
「雷纏のローブ……?確か西の主要都市 ルフェ付近の森にあるやつだね。持ってるよ」
「じゃあさ、ジークを止めるっていう依頼の報酬としてそのローブを私にくれない?」
「え……もちろん良いけど……」
「ドラセナ、そのローブ欲しかったの?」
「雷纏のローブ。私たちが次に探す予定だった三つ目のパーツだよ」
「え?」
「さっきクリームの
「全然いいよ。むしろ話を聞いて貰えてありがたい」
「話をきいてからは損得なしにクリームとジークの気持ちを汲み取ってるつもり。そこは信用してほしい」
「うん」
「めっちゃあっさり三つ目の
「このローブはリントの強化の為の装備だけど、リントは着ない」
「というと?」
「クリーム、このローブの能力を説明してくれない?」
「うん。雷纏のローブは着用者の魔力の消費効率を良くする効果がある。ローブの中に雷属性の魔力が込められていて、雷属性の魔力や電気などの大気中への漏出を抑える効果がある」
「つまりどういうこと?」
「私の魔力効率がめっちゃ良くなるの。今までは私の魔力を電気に変換した際に、大気中に漏れる魔力が沢山あった。リントの充電をするときも電気が少し漏れてた。言わば沢山の電気を無駄にしてたの。だから魔力切れを恐れて、四肢にしか電気を溜めないようにしてた。でもこのローブを着ると魔力がもれにくくなるから、今まで無駄にしていた魔力も電気に変えることができる。節電みたいなもんだね」
「じゃあ前よりも魔力切れを恐れる必要がなくなるのか」
「そうだね。使える魔力が増えた分を攻撃や防御に回すのもアリ。魔力の変換効率とか良くなるから、リントの充電を早く出来るようにもなるし、供給する電気の質もよくなる」
「おお~」
「本来なら東の主要都市 森界妖精都市 ルフェ で取れる植物を材料とした素材をもとに造られる。だから和陽の次はルフェに行く予定だったんだけどその必要がなくなった」
「私はローブを創る能力があるけど、ローブを創る参考に色んな種類のローブを集めてるの。役に立てて良かった」
「一つ目と二つ目はリントの
「ジークと戦う前に強化出来て良かったな。残すは四つ目の
「その四つ目の
「私が……?」
「四つ目の部品がどんなものか、アトラの本には書かれてない。書いてあるのは場所だけ」
「で、どこなの?」
「場所はレムリア大陸北東部 龍谷の中にある
私はアトラの本と地図を照らし合わせた。
「うん。昔の人々が
「
「そうだけど……」
『じー』
「えっ?私?」
「クリームがさっき使ってた透明になれるスケベローブ使えばいいじゃんか」
「あれの名前は
「山々を歩きで行ったらでしょ。リントに乗って行けばちょちょいのちょいよ」
「透明なら
「その条件下なら大丈夫だと思うけど……」
『けど?』
「
『え?』
「祭壇は祈りを捧げる儀式を行うための場所だったから、結界が張られていて祭壇内は安全。私も何回か行ったことがある。もちろん透明になった上でジークに守られながらだけど」
「何でジークはそのケツ祭壇にいんの?」
「ジークの
「龍谷を拠点にするとか正気じゃない」
「私が作った竜特攻のローブを着ているから、ある程度は竜を楽に倒せる。でも、ジークが強いのは間違いない」
「私とリントも強くなったからね。負ける気はさらさら無い」
「更生させて毎朝寝起き顔に水かけドッキリしてやらあ」
「それはなかなかに残酷な……」
「まあ殺さない程度に削るよ。向こうは私たちを殺す勢いだから注意しないとね。でも、戦闘不可の状態にしたところで、メンタル的に変われないと話がまとまんないよね」
「そこは、私に任せて。私が絶対にジークを説得させる」
「大丈夫?本当に出来る?」
「……うん。もうこれ以上ジークに無理をして欲しくないし、迷惑もかけられない」
「分かった。ジークを戦闘不能の状態には私とリントで持っていく。そこからはクリームがお願い」
「うん!」
「四つ目の
「祭壇にジークが居るなら探せそうにないし……」
「ジークも
「まあ四つ目の部品がどんなものか分からない以上は、最初から期待するのも良くないか。現状使える戦力を存分に使ってジークと戦おう」
「リント君が着る用の
「分かった。私たちも回復したいし準備をしておきたいからね」
「ところでなんだけど……」
「どした?」
「リント君っ機械なの?さっきから
「え、知らずに話聞いてたの?」
「うん。だからところどころ何のことだろうって思ってた」
「ごめんごめん。何にもなく会話が進むから知ってるもんだと思ったけど、そりゃ知る余地も無いか。リントは
「そうなんだ……」
「色々話したからちょっと整理しよう。まず、現状の目的はジークを止めること。それに並行して四つ目の
「だいたいそんなところだね」
「んで、その数日間クリームがジークの元を離れたら何か思われるんじゃないか?」
「そこは大丈夫。ジークには透明化で情報収集をしてくるって言ってある。その間、ジークは龍谷に居るって言ってた」
「おっけい。でも早く準備するのに越したことは無い。そして……」
「今から私たちドラセナ、リントブルム、クリームヒルトは、一つの目標の為に冒険する仲間。みんなで頑張るよ」
『うん!!』
「となればやることは一つ、同じ目的を持つ者は同じ釜のご飯を食べるべき」
私は囲炉裏に火をつけて
「ドラセナがお腹空いてるだけじゃ……」
「だって、朝帰って来てから何にも食べてないんだよ。そりゃお腹も空くでしょ」
「実は私も朝から何も食べてない……」
「よ~しじゃあいっぱい食べるぞ」
「あんな重い話してたのに信じられない」
「そんなこと気にしてたら肉の味が分かんなくなるぞ」
「じゃあ気にしない!」
それから私たちは一つの鍋を囲んだ。
「はあ~お腹いっぱい」
「ドラセナ俺お腹いっぱい……充電して……」
「はいはい後でね」
「ねえドラセナ、この住宅街の外れに温泉があるの知ってる?」
「え!そうなの?行きたい!」
「私も行こうと思ってたんだ。一緒に行こう」
「やったー疲れが取れるぞ」
「俺は?」
「十歳の男の子を女湯に入れるのはな……
「去年まで一緒だったくせに」
「え!?そうなの?」
「リントの年が二桁になったら別々にするつもりだったんだけど、
「兄弟みたいだね」
「クリームだってジークと一緒にお風呂入ってた時期あるでしょ?それと同じ」
「あんまり思い出したくないな……」
「まあ俺はじいちゃんのとこにでも行ってるよ。せっかく一人で動けるようになったんだし」
「りょーかい」
「二人は楽しんできてね」
『はーい』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます