小さなアタシ

宇田川 キャリー

第1話

 アタシは猫である。ステキな名前がちゃんとあるわ。

自分で言うのもなんだけど、サバ柄に白の入った艶のある毛並みに、ピンク色の可愛らしい鼻、同じくピンクの愛らしい肉球、ピンと伸びた洒落たひげ、オーロラを思わせるような輝くグリーンの大きな瞳。気品溢れるレディよ。

 アタシをここに連れてきたのは、この家の女の子。シェルターで産まれて間もないアタシと目が合ったの。アタシのようにチャーミングで品のある彼女に、何か感じるものがあったわ。そして抱き締められた時、親友になれる気がしたの。

彼女の名前はルー。多分。みんなにそう呼ばれているから。

 この家にはルーのママとお姉さんと弟がいた。パパがいないのはアタシと一緒ね。それにアタシにも今はバラバラになっちゃったけど兄弟がいたわ。親近感ね。お姉さんは外国に留学していて、たまにしか会えないの。それでもやさしくて素敵な女の子よ。

弟もアタシをかわいがってくれるけど、寝相が悪いから一緒に寝るのは遠慮してる。

だからアタシはいつもルーのベッドの上が1番のお気に入り。

 そうそう、先輩の猫さん達もいるわ。黒いふわふわのカラとタキシード柄のレオ。どちらも紳士で快く迎えてくれたの。今では仲良し兄妹よ。


 ルーはよく一緒にベッドに入って映画を観せてくれる。世の中について教えてくれるの。

死んだ人間が生き返って襲いに来る。人間て野蛮ね。

はたまた、派手で不思議な人たちが、歌ったり踊ったりして歓迎してくれる館があったりするけど、それはちょっと不気味よね。

だからアタシは外に出ないように学んだわ。

 それからルーはよくレコードを聴かせてくれる。機嫌のいい時は一緒に歌ったりしてる。でもアタシはとても耳がいいから騒音でしかないの。だけど楽しそうなルーの顔を見てるのは好き。


 よく遊びに来るルーの友達が何人かいる。その中でもクリっとした目でサラっとした髪の毛の男の子がアタシのお気に入りよ。彼は落ち着いたトーンでとてもやさしいし声でアタシに話しかけてくれる。それになにより、彼はきっとルーに恋心を抱いているわ。細身でルーよりも少し背が低いけど、何があるかわからない外の世界できっとルーを守ってくれるはず。


 ルーは16歳を過ぎたころから、夜の外出が増え始めた。アタシと一緒で夜行性なのね。

かっこいい女性パンクバンドを見つけて、ライブハウスに遊びに行っているそう。それがなんだかわからないけど、女性達の代弁者のように権利を主張したり、人間の女性にはとても大事なことを歌ってるらしい。ルーは目を輝かせて語ってくれて、曲を聴かせてくれる。やっぱりアタシには騒音でしかないけど、同じレディとして応援するわ。


 ある日、猫の第6感がピンときたの。

ルーは恋をしているわ。残念ながらよく遊びに来るあのかわいらしい男の子ではない。どんな人かしら。あのかっこいい女性達のお仲間かしら。

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