彼女は何をして何を残した?
「……ふむ」
日曜日、朝から色々と考えさせられることが多い。
「……………」
「すぅ……すぅ……」
目を開ければ当然のように涼香が俺を出迎えた。
彼女は非常に安心しきった様子で俺に抱き着く形で眠っており、時々頬を擦り付けるようにしてくるのも可愛らしく……なんというか、本当に庇護欲を誘う女の子だなと改めて思う。
「……よいしょっと」
ただ、抜け出せないほどではなかった。
何とか体を動かして涼香から離れ、俺はトイレに行くために部屋を出た。
「……はぁ」
最近、こうしてトイレで気分を落ち着かせることが増えた気がする。
誰の部屋に居ても基本的に傍に誰かが居る気がして……まあ落ち着かないとか嫌な気分とかそういうのではない……むしろ二人が傍に居てくれることに心地が良いって感じるからなぁ。
「……………」
何度も思うことだけど、俺ってまだ彼女たちと本格的に知り合って二週間も経ってないのである。
それなのにこれは……かなり上出来と言えるのではないか?
新しい家族としてギクシャクせずにこんなにも仲良くなれたこと……我ながら自分のことを褒めたい気分だ。
「それにしてはちょっと距離が近すぎる気もするけど……」
……いや、認めるしかない。
距離が近いだとか、兄妹が居たことないから距離感が分からないとか……そんな言葉を並べて誤魔化したところで仕方ない。
明らかに涼香も由愛も距離の詰め方が異常だろう――特に由愛に関してはあんなことまでされたんだぞ?
『お兄ちゃん♪』
あの子は……彼女が出来た時の予行練習だと言って俺に胸を触らせたりした。
あのふんわりとした胸の感触は今でも簡単に思い出せるくらいに記憶に刻まれており、朝から少しだけ妙な気分になったのを恥じる。
「……よし」
トイレから出た後、俺は素直に自分の部屋に戻るか涼香の部屋に戻るかを悩む。
……しばらく悩んだ後、俺は涼香の部屋ではなく自分の部屋に戻ることにした……のだが、まさかの展開が俺を待っていた。
「……え?」
俺のベッド……何故だか膨らんでいる。
枕が中に入っているにしては大きすぎるし、そもそも微妙に動いてるし……俺はまさかと思ってゆっくりと掛け布団を捲る。
「……由愛?」
そう……俺のベッドで由愛が寝ていた。
彼女はすぅすぅと規則正しい寝息を立てており、その寝顔は姉である涼香にそっくりでついつい笑みが零れてしまうほどだが、それ以上に香りが凄まじい。
「この香り……まただ」
二人から時々感じ取れる甘い香り……それが掛け布団を捲った瞬間に鼻孔をくすぐってきてついドキッとする……ドキッとする?
俺はこの匂いにドキッとしているのか……。
いや、確かに心臓の鼓動が激しくなっているのを感じる……っ……マズいなこれちょっと脳がピリピリ痺れてくる。
「はれ……おにいひゃん?」
「っ!?」
ジッと見ていたら由愛が目を開けた。
寝惚け眼のまま俺を見つめていたものの、涼香と違ってすぐに意識は覚醒したようでいつもの彼女になっていく。
「おはようお兄ちゃん♪」
「おう……おはよう」
ニコッと微笑んだ由愛はとても可愛いし、パジャマのボタンがいつかのように上から二つほど外れていて谷間が僅かだが見えている。
変に意識して気付かれるよりも敢えて平常心を装うようにしていると、由愛も特に何も気にした様子はなさそうだった。
「どうしてここに?」
「えっと……寝惚けちゃったかも?」
「……ふ~ん?」
寝ぼけて俺の部屋に? そのまま寝ちまったのか?
昨日は俺が彼女の部屋に連れてって……それからトイレにでも目が覚めてそのまま寝ちゃったのかな……?
それはそれで可愛いなと思ったが、由愛にもそんなおっちょこちょいな部分があるんだなと少し意外だ。
「っ……ごめんお兄ちゃん。これ、シーツとか干しちゃうね」
「え?」
「すっごい汗掻いちゃったの……本当にごめんなさい!」
「お、おう……」
凄い勢いでシーツを剥がし、そのまま部屋を爆速で出て行った。
別に言われたら俺が自分でやるし……そんなに汗を掻くほど暑かったとも思えないし……まあそこは男と女の感覚の違いなのかもしれない。
「……それにしても――」
本当にこの香りは何なんだ?
俺はその秘密を解き明かすために不思議な密林の奥地へ足を踏み入れ……ってそんなことはどうでも良いんだよ。
俺は自分のことを変態なのかもしれないなと悲しく思いながら、掛け布団の匂いを嗅いでしまう。
「……………」
やっぱりとてつもなく甘く、けれども少し違う感覚が俺の中に芽生えた。
それはどっちかというと落ち着くような香り……さっきまでどきどきしていたのにこの香りに体と頭が慣れたような感覚があった。
姉妹だからこそ涼香も由愛も香りが似ている……ということなのかな?
「……分かんね」
考えることは多かったものの、俺は朝食の準備のためにリビングへと降りた。
どうやら今日の涼香はお寝坊さんらしかったので、ほとんどの準備を俺が終わらせたのだが……途中で戻ってきた由愛が手伝ってくれたものの、卵焼きを担当した彼女が凄まじい味付けをしてしまい、それを食べたことで俺は涼香が言っていた言葉の意味を明確に知った。
「なあ由愛」
「なに?」
「そんなに汗掻いたのか? 別にそこまで暑くなかったけど……」
「……私は暑かったよ? 汗も掻いちゃったし……それ以外でも……ううん、なんでもない。とにかく洗って干しておくから」
それでもなお、ジッと見つめていると由愛が耳元で囁いた。
「そんなに気になるの?」
「……………」
彼女の雰囲気に圧倒されるかのように、俺はそれ以降この話題について口にすることはなかった。
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