男嫌いと有名な姉妹を助けた結果、一緒に暮らすことになり気付けば重く愛されるも甘々な件

みょん

衝撃的な出会い

 人を助けることに理由なんてない……いや、そもそも俺は行動に移せるかどうか分からなかった。

 そんな経験がなかったから……そんな事態に陥ることがなかったから。

 だがしかし、今日は俺に神は試練を与えたらしかった。


「っ……マズい!」


 俺が向かう先に居るのは二人の女の子――彼女たちの頭上、遥か上から鉄骨が落下していた。

 走馬灯……というものを見たことはないが、それでもあまりにもゆっくり落ちているように見えるのは不思議な感覚だった。


「危ない二人とも!!」

「え?」

「なに?」


 そもそも、俺が気付けたのも偶然だった。

 学校で有名な美しい姉妹の二人と街中ですれ違った際、他の通行人が口にした言葉が原因だった。


『あれ……大丈夫なの?』

『風吹いてるし……グラグラしてない?』

『建設会社か警察に言った方が良くないか?』


 SNSなんかでよく鉄骨かなんかが落下する動画があるだろうが……俺の目の前にあった光景がまさにそれだった。

 ちょうど二人の真上でグラグラしていた鉄骨が風に煽られ落下している……それを見たから俺は今、こうして大きな声を出して二人の元に向かっている。


「うおおおおおおおおっ!!」


 こちらを振り向いた女子二人もすぐに気付いたらしい。

 上から降ってくる鉄骨を呆然と見据えたままその場から動かないのは、単純に脳の処理が追い付いていないからだろう。


(間に合え……間に合え!)


 あの落下している鉄骨が二人に落ちることはないかもしれない……それでも、もしかしたらが嫌だから俺は走るんだ。

 家に帰ってから食べようと思っていたたこ焼きがバラバラになっても、それこそ食べられなくなっても構わない――俺はここだと思ったところで、一気に踏み込むように力を入れた。


「きゃっ!?」

「っ……!?」


 出来る限りの力で跳躍し、二人を抱きしめるような体勢になった。

 そのままクルっと体を入れ替えるように俺自身を下側にし、固いコンクリートの上に俺は背中から落ちた。


「ぐっ……」


 痛い……ずるっと皮膚が捲れたかもしれないと思わせる不快な痛みが走る。

 というか俺ってこんな奇跡的な動きが出来たんだなと自分自身に驚きつつも、絶対に二人に怪我がないように俺はとにかく耐えた。

 ガシャーン、そんな轟音が辺りに響き渡った。


「だ、大丈夫か!?」

「怪我はないか!?」

「警察と救急車を呼べ!」

「坊主、嬢ちゃんたちも生きてるか!?」


 多くの通行人が倒れている俺たちを見下ろし、どうにかしなければと話している。

 これを実際に目で見ているということは……俺たちは大丈夫だったということ、視線だけ音がした方に向けると――ちょうど二人が立っていた場所に鉄骨が落下したことが分かった。


「……ははっ、良かったぜマジで」


 二人を助けるために、この体が動いて良かったと俺は心から思った。


▽▼


 その後、すぐに警察などがここに訪れた。

 早とちりで救急車なんかも来てしまったけれど、明確に怪我人と言える人間が居なかっただけに申し訳なかったが……隊員の人たちは怪我がなくて良かったと朗らかに笑っていた。


「とはいえ……」


 俺が視線を向けた先に居るのは助けた件の二人だ。

 後になって恐怖が押し寄せたのか互いに身を寄せ合って慰め合っている二人……決して言葉には出せないが、美少女二人が寄り添う姿は目の保養だ……うんうん悪くないねぇ。


「あれを見れるなら助けた甲斐があったってもんだ」


 もちろん相手が誰であっても動いたことだけは確かだ。

 ……けれど、これも運命なのか分からないが俺はあの二人を知っている――二人とも同じ学園に通う生徒であり、男嫌いとしてちょっとだけ有名だ。


「……助けるために抱きしめたとはいえ、キモいとか言われたら立ち直れなさそう」


 流石にそこまで非常識ではないと思うけど……つうか、もう帰っていいかな?

 そんな風に考えていた時だった――件の二人が俺の元に歩いてきた。


「すぐにお礼を言えなくてごめんなさい。宍道君のおかげで助かりました」

「……ありがとうございます先輩」

「い、いやぁ……大丈夫だって」


 二人に頭を下げられ、俺はちょっと照れるように一歩退いた。

 まず最初に喋った彼女は倉谷くらたに涼香。

 長い黒髪が印象的な女の子だ――彼女は俺と同じクラスに所属する女子で直接の絡みは一切ない。

 そしてもう一人の子は涼香さんの妹で倉谷由愛ゆめ

 俺と涼香さんより一つ下で明るく目立つ髪と目付きの鋭さが特徴のギャルっぽい子だ――彼女とは学年も違うので当然のように姉以上に繋がりはない。


(まさか……よりにもよってこの二人を助けることになるなんてなぁ)


 よりにもよって……そんな言葉を使った理由はやはり男嫌いという噂を知っているからに他ならない。

 何度も告白されることに嫌気が差したとか、それによって嫉妬されることに疲れたとか……過去にストーカーされたとか真偽不明の内容まである。


「それよりも……」


 俺はついジッと二人を見つめてみた。

 涼香さんはともかく、由愛さんを見る時も基本的に学校でしかなかった……なので目の前の私服姿の彼女たちは新鮮だった――カジュアルな服装が似合うなぁと思いつつも、どこも怪我がないことを確認したつもりだったのだが、由愛さんがスッと身を引いたので俺はマズったと反省した。


「っと、ごめん。本当にどこか怪我がないか不安だったんだ。決して不快な思いをさせるつもりはなかった」


 そう言って頭を下げると身を隠した由愛さんがすぐに申し訳なさそうな顔をしたのが、どこか気まぐれな猫のような印象を俺に与えてくれてつい笑みが零れる。

 由愛さんから涼香さんに視線を移し、俺はこう言葉を続けた。


「別にかっこつけるつもりとかないからそのまま受け取ってほしいんだ。マジで二人に怪我がなくて良かったよ……それだけが本当に良かった――無事で居てくれて本当の本当に良かった!」


 そこまで言って俺は二人に背を向けた。


「それじゃあ二人とも、何か楽しいことでもして今日のことは忘れようぜ!」

「あ、ちょっと――」

「これから用事があるんだ! アディオス!」


 運命の悪戯が用意してくれた邂逅だけど……別に恩を着せようとか思ってない。

 そもそも俺って単純な男だし、そういう悪知恵を考えたところで何も上手くは行かないだろうし……というか、単純に絡みが一切なくても嫌われたくないし。


「……ふぅ」


 姉妹の前から走り去った後、俺はジュースを片手に休憩していた。

 彼女たちに伝えたのは嘘ではなく、俺にはこれから本当に用事があった――父さんから絶対に時間を空けておいてくれと言われていた大切な用事が。


『湊、父さんな。再婚しようと思うんだ』


 母さんを亡くしてから十年は経つか……ここに来て父さんが再婚を決意した。

 息子としては父さんの選択を尊重したいのもあったし、嬉しそうにしている父さんを見るととてもじゃないが冗談でも止めてくれなんて言えない。


「さてと、あんなことがあったけどそろそろ行くか」


 これからの用事は相手方との顔合わせになる。

 父さんの話だと俺と歳の近い娘さんが居るとかで、家族になる可能性があるわけだが……仲良く出来るかちょっと不安である。


「うん?」


 考え事をしていると父さんからメッセージが届いた。

 今どこに居るんだとのことで、これから向かうと返事をして俺はまた歩き出す。


「っと、ここだな」


 着いたのはお洒落なカフェ。

 ここは父さんの知り合いが経営しているお店なのだが、俺もよく休日に友達と飯を食いに来たりすることが結構ある。

 その度にサービスしてもらって気が引けるのだが……美味しいから仕方ないね。

 そして、俺はついに父さんの再婚相手と顔を合わせることに。


「……え?」

「あ……」

「……………」


 運命の悪戯……それは本当にあるのかもしれない。

 だって……だって父さんと向き合う三人の女性の内二人が、さっき俺が助けた涼香さんと由愛さんだったのだから。




【あとがき】


別作品ですが、特別賞を受賞しました!

これからも書いていけるモチベになりましたとても幸せです。

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