3
1年後、7歳になってすぐ・・・。
土曜日、空手道場に行こうとしていたら、じいちゃんから桃子と理子と出掛けるように言われた。
不満を言いながら桃子についていったら・・・
いた・・・。
いた・・・。
めちゃくちゃ男らしくて格好良い男が、いた・・・。
「渡!!すっげーーーーー!!!!」
芝生がどこまでも広がる公園で、渡がバク転をしていく。
それを興奮した気持ちで見ていると・・・
綺麗に着地した渡が俺のことを満足そうな顔で笑いながら見てきた。
「すげーだろ!!光一!!」
「すげー!!マジですげー!!
じいちゃんの空手道場で空手も習ってたんだろ!?強い!?」
「来いよ、相手になってみろよ。」
渡がそう言って、俺と同じクラスの自分の息子は木の下で本を読ませたまま俺と取っ組み合いの喧嘩をしていく。
これが・・・
「じいちゃんより強い!!!」
「松居先生も歳だからな!!
昔は鬼神と言われてた人だぞ!?」
「鬼ハゲだろ!!」
「お前、松居先生にハゲって言うなよ!?」
俺の攻撃を綺麗に受けてかわしながら渡に言われ、俺は大笑いをしていく。
「とっくの昔から言ってるに決まってるだろ!!」
「・・・話に聞いた通り、獰猛な珍獣だな!!
お前、母親が死んだ時に鮫を持ったらしいぞ!!
それも、金色の鮫!!」
そんな訳の分からないことを言ってきて、俺は跳び蹴りを渡にした。
*
渡が運転する車の助手席から、俺はチラッと後ろに座った岩渕を見る。
「あいつ、いいのかよ?
コンビニのお握り5つ目だぞ?」
お握りの米をこぼしまくりながら、一心不乱に食べていく岩渕のことを渡に聞くと、渡は普通に頷いた。
「頭を相当使ってるだろうからな、頭が腹減ってるんだろ。」
「・・・にしても、お握りもマトモに食えねーのかよ。」
「クラスで大丈夫かな、豊・・・。」
「知らね、気にしたこともなかった。」
同じクラスなのは分かるけど、岩渕のことを気にしたこともなかったのでそう答えると、渡が困ったように笑う。
「声がな・・・聞こえないらしくて。」
「・・・耳悪いのか。」
「いや・・・そうでもないけどな・・・。
常に何かに集中してるから、誰の声も豊には届かない。」
そんなことを渡が困ったように笑うので、俺は岩渕のことをもう1度見てみる。
そしたら、今度はノートに鉛筆で文字を書きまくっている。
こぼしまくった米はそのままで・・・。
その姿を見て、俺は口を開いた。
「岩渕、きったねーな。
米つぶ、片付けてからにしろよ。」
そんな俺の言葉に、岩渕がパッと顔を上げた。
顔を上げて、俺の方を見てきた。
それから、こぼれまくった米つぶを見下ろし・・・
「お父さん、ティッシュ・・・。」
と、小さな声で呟いた。
それを聞き、俺は目に入ったティッシュの箱を岩渕に投げつけた。
運動神経の悪そうな奴だからキャッチ出来ないと思っていたけど、岩渕は片手でキャッチをした。
それに驚きながら渡を見ると、渡は目が飛び出そうになるくらい目を見開いて、バッグミラーというやつから岩渕を見ていた。
*
「お前の姉ちゃん、可愛いじゃん。」
夜ご飯を岩渕家で全員で食べる。
寿司とピザがドーンッと並んだダイニングテーブルの上、一心不乱で食べ続ける岩渕の耳に小声で話し掛ける。
小声だったけど岩渕が俺の方を見た。
「お姉ちゃん・・・?」
岩渕がそう呟き、真理の方を少し見た。
「顔なら・・・鮫島君の、お姉さんと・・・妹の方が、可愛い顔じゃない・・・?」
「どこがだよ、お前目まで不自由なのかよ。」
俺がそう言うと、岩渕が小さく笑った。
「鮫島君って・・・面白いよね・・・。」
「何がだよ?」
「いつも・・・教室でも、面白いから・・・。」
「そんな変なことしてねーだろ。」
「でも・・・面白いから、聞こえる・・・。」
そんな訳の分からないことを言いながら、岩渕がまた一心不乱に飯を食べ始めた。
「自分で拭けよ、きったねーな。」
俺がティッシュの箱を渡すと、岩渕は無言だったけどそのティッシュを受け取った。
渡の視線を感じて見てみると、渡はアホみたいに目も口も大きく開けて俺と岩渕のことを見ている。
「せめて口閉じろ、口。
親子で何してるんだよ。」
俺がそう言うと、真理も俺の方をチラッと見てきたのが分かる。
そんな真理に俺は口を開いた。
「部屋、めちゃくちゃ過ぎるだろ!!
片付けろよ、お前が!!
4年なんだろ!?」
俺がそう言うと、真理はオドオドとしながら渡の方を見た。
「俺がやらなくていいって言ってるからな、土日に俺がまとめてやるって。
明日俺がやるからいいんだよ。」
「甘やかすなよ、片親しかいないなら子どもにも協力させろよ!!」
ばあちゃんは俺達に絶対に協力させない。
「お母さんが死んだうえに子どもらしいことが出来ないのは良くない」
そんなことを言って、穏やかだったばあちゃんは鬼の形相になって1人で家のことや俺達のことを面倒見ている。
そんなばあちゃんに何を言っても聞かないので、渡だけにでもそう言う。
そう、叫ぶ。
渡は困った顔で笑っていただけだった。
でも、真理は俺のことを真っ直ぐと見詰めてきた。
渡の娘らしく可愛い真理の顔を見ながら、俺はまた口を開いた。
「料理くらいしろよ、4年だろ。」
桃子よりも断然可愛い真理を見詰めながら、そう言った。
返事も頷くこともしなかったけど、それでも真理はやっぱり俺のことを真っ直ぐと見詰めていた。
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