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「的場さん・・・!!
そればっかりダメだって!!」
「いいじゃないですか!!
私はこれが好きなんです!!」
派遣さんが焦った様子で私を静止しようとしてくる。
静止させる動きをかわしながら、私はやめない。
やめない・・・。
やめられない・・・。
「的場さん!!
カルビばっかり食べ過ぎだから!!」
夕方の面接で一旦終わり、約束通り焼き肉に連れてきて貰った。
「俺だってカルビ食べたいから!!」
「食べればいいじゃないですか!」
「他の肉どうするつもり!?」
「私はカルビと大盛りご飯だけしか頼まなかったのに、そちらが他の肉を頼んだんですよね?」
「それはそうだけど!!
まさかカルビだけしか食べないとは思わないって!!」
「それはそちらが勝手にそう思ってただけですよね?」
そう答えてから、良い感じに焼けたカルビを・・・
取ろうとした瞬間、派遣さんのトングがサッと私のカルビを取っていった。
取られた・・・。
取られた・・・。
取られてしまった・・・。
「私のカルビが~!!!」
「一緒に食べようよ!一緒に!!
もっとカルビ頼むから!!」
派遣さんがそう言ったので、テーブルにあったベルで店員さんを呼ぼうと手を伸ばした。
手を伸ばした瞬間・・・
派遣さんの手も伸びてきたのを把握した。
それでも私は手を引っ込めず・・・
派遣さんと同時に、ベルの押す部分に触れた。
ベルをどちらが押したのか分からないくらい同時だった。
そして・・・
ベルの上、そこで派遣さんの指先と少し触れ合っている自分の指先を見て・・・
サッと手を引っ込めた。
引っ込めた手を正座していた膝の上に戻す。
こういうのは苦手だった。
私はとにかく、こういうのが苦手だった。
「・・・2人でこの金額ってヤバイね。
しかもお酒も飲んでないのに。」
お会計の所で派遣さんが驚きながらカードを出している。
それにお辞儀をしてから笑った。
「ご馳走さまで~す!!」
「最初からカルビ1本で攻めればよかった。」
「今さらそんなことを言っても後の祭りですからね!」
私がそう言うと、派遣さんが面白そうに笑った。
「そうだよね、後の祭りだよね。
攻めるならガンガン攻めないとね。」
そんなことを言ったかと思ったら・・・
お会計の所で貰っていた飴玉を1つ、私に差し出してきた。
反射的に受け取ろうと右手の手の平を出すと・・・
私の手の平に飴玉を乗せてきて・・・
そして、そのまま・・・
私の指先に優しく触れ・・・
飴玉を入れたまま、私の手を握り拳にしてきた・・・。
そんな私の握り拳を派遣さんが上からギュッと握る・・・。
苦手だった・・・。
私はこういう風なことをされるのがとにかく苦手で・・・。
嫌だった・・・。
嫌だった・・・。
入ってしまうから・・・。
そして取られてしまうから・・・。
恋なんて、したくない。
私は恋なんてしたくない。
恋なんてしたくないのに・・・
甘いはずの小さな飴玉を握り締めたその拳は・・・
少し長い時間、この人に握られたままだった・・・。
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