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「矢田さ~ん!飲んでくださいよ~!」
日曜日、20時に面接が終わった。
そして派遣さんを連れて来たのは近くにある居酒屋。
そこで派遣さん・・・矢田さんという名字の派遣さんが女の子達に囲まれている。
「俺は飲みません。
また夜に面接あるので。」
派遣さんが・・・矢田さんが少しも笑わず女の子達にそう言った。
「あれ?的場さん、今日は20時で面接終わりって言ってなかった?」
「そうだね~、うちの会社は終わり!!」
「俺は派遣なので。
ここの会社だけではありません。」
矢田さんはニコリともせず取り分けられた料理を平らげていく。
それには流石に苦笑いで。
同期の女の子達から、矢田さんとの飲みの席を設けるよう何度も言われていた。
昨日矢田さんとあんなことがあり、私は慌てて女の子達に声を掛けた。
そういうのは出来ないから。
私は恋とかそういうのはしたくもないから。
私はそういうつもりはないと早々に分かって貰うため、この飲みの席を設けた。
でも・・・
「的場さん、面接後の打ち合わせ。
食べながらしようと思ったけど無理なので、出ますよ。」
ここまで露骨に機嫌が悪くなられると、女の子達にも申し訳ない気持ちになる。
と、思ったけど・・・
「矢田さん、彼女いるんですか?」
「いません。」
「え~!!それは意外!!
こんなに格好良いのに!!」
女の子達も負けず「あと10分!」と粘り、女の子達の粘り勝ちとなった。
「毎日働き過ぎとか?
うちの会社に派遣されてきてから夜中まで面接してますよね?」
「そうですね。
でも派遣元の会社ではそれが普通なので。」
「ブラックですね~!!!」
女の子達が驚きの声を上げると、矢田さんは少しだけ笑った。
「俺は黒が1番好きな色なので。」
矢田さんの少しだけ笑った顔を女の子達が凝視している。
人事部の部屋や面接中、私にもよく笑う矢田さんだけど、他の人達には一切笑わない。
だから女の子達にとっては矢田さんの笑顔が相当珍しかったはずで。
「矢田さんって、何で派遣なんですか?」
1人の女の子が聞いた言葉に他の女の子達が大きく頷いた。
矢田さんは表情を一切変えず、テーブルの端で正座をしている私の方を見てきた。
「俺も派遣なんて嫌でした。
でも・・・結果的に派遣で良かったです。」
そんなことを言った矢田さんがスッと立ち上がった。
「10分。的場さん、行きますよ。」
そう言って、女の子達にお辞儀をしてから居酒屋の座敷を先に出ていってしまった。
「矢田さん・・・これから、面接後の打ち合わせなのでは・・・?」
矢田さんの胸の所、そこを握り拳にした両手でグッと押す・・・。
それに一切動くことのない矢田さんの身体を感じ、何だか泣きたくなった・・・。
居酒屋を出てからすぐ、私の腕をいきなり掴んだかと思ったら・・・
メイン通りではなく細い通りの所に引いていかれ、少し怒った顔で私にグッと近付いてきた。
「俺、“ご飯行きませんか?”って言われたから来たんだけど。」
「・・・“2人で”とは、言ってませんけどね。」
そう言って微笑むと、矢田さんが凄く凄く・・・めちゃくちゃ怒った様子になった。
それにはビックリして・・・。
この人は動きに変化のない人で。
絶対に動きに見せない人で。
それなのに、こんなに全身から“怒り”の動きを見せている。
それにビックリしながらこの人を見上げると・・・
私を、見下ろしている・・・。
燃えるような闘志の瞳ではなく・・・
苦しいくらいの、恋している瞳で・・・。
そんな・・・
そんな・・・
私の苦手な瞳で私を見詰めてくる・・・。
そんな苦手な瞳から視線を逸らす。
そしたら・・・私の小さな握り拳が目に入ってきた。
小さな小さな、握り拳が・・・。
その握り拳でもう1度この人の胸を押す・・・。
やっぱり、ビクともしなかった・・・。
それにまた泣きそうになり、微笑みながら下を向いた。
「ごめんなさい、私こういうの苦手なので。
恋愛とか苦手で。
なので、やめてもらいたいです。」
「俺も苦手だから。」
こんなに格好良くてモテそうな人がそんなことを言ってきた。
そんなことを言ってきたかと思ったら・・・
思ったら・・・
握り拳にしていた両手を・・・
上からギュッと握ってきた・・・。
そして・・・
そして・・・
「俺、的場さんのこと好きなんだけど。」
そう、言った・・・。
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