第37話
どうにかして魔力砲を封じないと、って……。
まって、私解決策見つけたかもしれない。
皇帝に常に魔力供給をしているのは、マイヤが作り上げた魔石だ。
その魔石から供給される魔力はどこから来ているかというと、ベルティナの町周辺だ。
ベルティナの町周辺の水を魔力へと変換している。
マイヤ曰く、水を魔力にする過程が難しいのであって、空気中の魔力を集めるのは案外簡単らしい。値段は張るけれど、誰でもその魔石は手に入れられる。
そう、誰でも手に入れられるのだ。
そして、私は既にそれを持っている。
魔道具市で購入した魔石付きのブレスレット。
魔力砲は魔力を高密度に圧縮する魔法。
……これ、ブレスレットで吸収できるんじゃね?
『マイヤ、策がある。今から魔力砲を受けてみるけど多分大丈夫だから気にしないで』
『分かりました。お気をつけて』
念話でそう告げる。
もしかしたら私が魔力砲を受ける様子を見て、間に割り込んでしまうかもしれない。
そう考えたからだ。
足へ掛けている身体強化魔法を強め、ぎゅっと地面を深く踏み込む。
地面がへこんでしまうのではないかと言うほどに蹴り、一気に皇帝向けて飛んでいく。
それを見た皇帝は、「何度やっても同じことだ」と言わんばかりのどや顔でこちらに魔力砲を飛ばしてきた。
ブレスレットを着けている右手を顔の正面にかざし、その魔力砲の中に一気に突っ込んでいく。
来ると思っていた衝撃はやって来ず、代わりに着けていたブレスレットの魔石が光り出した。
魔力砲の魔力を吸い上げ、先ほどまでの衝撃が嘘のように辺りに立ちこめるのはまたくらくどんよりとした空気だけ。
空気がその場にとどまり、一切動いていないのではないかと言うほどの静寂。
窓から僅かに差し込む光。荒れた室内。
時間がゆっくりと進むように感じる静かな静かな時間。
「馬鹿な……」
そんな静寂を打ち破ったのは、口を大きく開いて唖然とする皇帝であった。
ここで、私的死ぬまでに言ってみたい言葉ランキングを思い出した。
「残念。魔力砲を封じた今、あなたに勝ち目はありませんね」
「なんだと?」
どうやら大成功。
私は少し気持ちよくなった。
それに、私の挑発は良い感じに皇帝を怒らせたらしい。
皇帝の方から魔力の流れを感じる。
おそらく魔石から皇帝へと多くの魔力が流れているのだろう。
何か強烈な魔法が来る。
マイヤも同じくソレを察したらしく、後ろへと一歩後ずさりする様子が目の端に映り込んだ。
でも大丈夫だ。
先ほどまで私が苦戦していた理由は非常に簡単。
私の魔力が魔石に吸収されてしまうからだ。
いや、吸収されると思っていたからだ。
先ほど魔力砲を吸収してみて分かった。おそらく私の魔力はあの魔石では吸収できない。
私は初めから魔法を不自由なく使えたのだ。
私はここで魔法を使ったところで、一切魔石に吸収されない。
私だけではない。なんなら、魔物化していないすべての生物は魔法を使えるだろう。
元々、あの魔石はベルティナの町周辺の水を吸収し、魔石に変換するというものであり、魔力を直接吸収するわけではない。
実際、この帝都周辺には魔力が満ちあふれていた。
その満ちあふれている魔力が魔石に吸収されていない時点で察するべきだったのだ。
私のミスだ。
では、なぜマイヤが魔法を使えなかったのか。
それは、魔石に魔方陣を刻み込んだのがマイヤであったからだ。
刻み込むときにマイヤの魔力は魔石に記憶されていて、水から変換された魔力はマイヤの魔力の波長に近い形に変換される。
魔物化したラクダから吸収した魔力にどことなくマイヤ味を感じたのはそれが理由だろう。
魔力は波長が近いもの同士で集まろうとする。魔石に含まれる膨大な魔力。その膨大な魔力を含む魔石に近い城内では、マイヤの魔力は体内から出た瞬間にすべて吸収されてしまう。
吸収されてしまうと言うよりかは、魔石の中に大量に眠る魔力とくっ付こうとしてしまう。
だから上手く魔法が発動されなかったのだ。
私はマイヤの魔力とは波長が異なっている。
それも、200年という生まれの差があるわけだから、この世界に生きる他の人より多少ではあるが、さらに遠いはずだ。
だから一切魔力は吸収されない。そう判断している。
さて、皇帝に集まる膨大な魔力に話を戻そう。
感じる魔力量からして、まあ楽に帝都くらいなら吹き飛ばせると思う。
マイヤは額から汗を垂らし、すぐに逃げないとと焦りを浮かべている。
「ギンさん! 逃げましょう!!」
たが、私は一切の焦りを持っていない。
まあ、多少の不安はあるけど、それよりも好奇心の方が勝っている。
「大丈夫だよ」
魔法を凝縮して無力化してみよう。
皇帝が手のひらをこちらに向ける。
そして、魔石から移された大量の魔力をじわじわと腕の方へ流していき、その流れていった魔力たちは、巨大な火球を生成しようとしている。
見るに、着弾すれば爆発するタイプの魔法だと思う。
火魔法と言うより、爆発魔法のような感じだ。
「これでおしまいだ。お前らも、俺も」
そう叫ぶ皇帝。
マイヤは死を覚悟しているような、目で皇帝を見つめ、手足が震えている。
さすがの私も汗ばむレベルの強大な魔力。
私は別に戦闘慣れしているわけではないのだ。なんならマイヤより慣れていないと思う。
気を抜けば体が震え、地面へと下ってしまいそうだ。
やはり私の中にはまだ日本人としての人格が残っているのだと思う。
でも、私は1つの大国に認められた冒険者として頑張る。
「食らえッ!」
その言葉とともに放たれたのは、直径が1メートルほどの火球。
ただ、その火球に含まれる魔力の量は尋常ではなく、地面に着弾し次第大爆発を起こすだろう。
大丈夫。
両手を大きく広げ、何かを押し込むようにその手を合わせていく。
私の脳内のイメージは、目の前の火球に含まれる魔力を極限まで圧縮すること。
極限まで圧縮し、その圧力をゆっくりと弱めていくようにして吸収する。
私に吸収できるだろうか。ブレスレットに触れてしまえばその時点で爆発を起こしてしまう可能性がある。
ブレスレットでの吸収は出来ない。
火球に含まれる魔力量と、私の体内に押し込める魔力量どちらが上かの勝負だろう。
もし火球が勝っていた場合、私は魔力爆発を起こし、余った火球は着弾して爆発を起こすだろう。
帝都を吹き飛ばすほどの威力はないだろうが、この部屋くらいは吹き飛ばせる。
私、皇帝、そしてマイヤの3人は少なくとも死ぬ。
「頼むッ!!」
ぎゅっと目を瞑り、必死に火球を圧縮していく。
先ほどまではこちらに向かって勢いよく飛んできていた火球であったが、徐々に失速して縮みながらゆっくりとこちらへ飛んできている。
火球の衝撃で震える室内。
地鳴りのような音が狭い謁見室内に反響する。
数秒後、そんな部屋の中にカランッと軽い音、何かガラスのようなものが落ちる音が聞こえた。
何かと思いきゅっと閉じていた目を開くと、先ほどまで火球があった所の下に、何やら赤い宝石のようなものが落ちていた。
「……魔石?」
どうやら魔力を圧縮し、圧縮した結果、直径10センチほどの魔石が生成されたらしい。
魔石ってこうやって出来るんだ。と思いながらも、なんとか止められたことに一安心する。
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