第32話
「ということは、今回のこれはマイヤが起こしたことってこと?」
「はい。そうです」
涙ながらに語るマイヤに、正直言葉を失った。
何かしらで関わっているとは思っていたけれど、まさか元凶がマイヤだとは思っても見なかったのだ。
「えっと、マイヤの力で解決は不可能ってことだよね?」
「そうです。私ではもう、どうしようもありません」
これもし私が来なくて、万が一にも1人で帝国に向かうことになっていたらどうしていたのだろう。
そう思った。
正直、魔力を抜き取ればなんとかなるかと思う。そう思っていたけれど、魔道具の力で無理矢理魔人化されている人間から魔力を抜き取っても、その魔道具から魔力が抵抗されるだけで、何の解決にもならない。
そんな気がしている。
「……となると、魔道具を壊すしかないってことか。マイヤ、魔道具はどこにあるか分かる?」
「はい。おそらく皇帝の玉座の裏だと思います。私の魔力が含まれているので、魔人化や魔力化している生物、加えて魔道具の場所は分かります」
「わかった。道案内頼むね」
そういうと、マイヤは驚いたような表情を見せた。
おそらく何か罵声の一つでも浴びせられるとでも思っていたのだろう。
そんなマイヤの頭をぽんとなでる。
「気負うことはない。行くよ」
「……はい!」
「それにしても、マイヤも行動力あるね~」
「はい。すみません……」
「いや、別に攻めてるわけじゃないんだよ。私も国くらい敵に回したことあるから」
「えぇ!? そうなんですか!?」
「うん」
「へぇ……。なんか端から見ればやばい奴らですね。私たち」
「まぁ、実際やばい奴らじゃない?」
「ふふっ、それもそうですね」
明らかに狂人のする会話をしながら砂漠を進んでいく。
帝都まではあと少し。晴れている砂漠のなかに、大きなどす黒い雲が張っているところがある。
その下に帝都は存在している。
どうやらベルティナの町周辺から奪い取った水を魔力に変換し、その変換した魔力で、使わなかった分を再び水に戻し、帝都周辺へと放出しているらしい。
いや、ベルティナの町に戻してやれよと思ったが、これを口に出すとマイヤが傷つくので止めておく。
これほどまでの魔方陣を作るのは相当大変だっただろうな、と心の底から思う。
正直、魔方陣を作る道に進めば相当高みまでいけると思う。これが終わったらその道を進めてみるのもアリかもしれない。
「ギンさん」
「うっす」
そう言いながら再び前方に居る魔物の魔力を吸収する。
魔人は皇帝の下にいて、魔道具の力で魔物化しているわけだが、魔物は漏れ出た魔力に反応して勝手に魔物化しているだけ。
だから私の魔力吸収が有効だ。
やはり帝都に近づくごとに魔物の数は増えている。
魔力に反応して、魔物以外の動物もこちらに近づいてきている可能性がある。
その近づいてきた動物が魔物化している。これでは生態系にも大きな影響が出ているかもしれない。
なぜか突然動物がよく分からない方向に移動を始めてしまった。そのせいで、普段動物を狩って生活をしている人の食料が減っている。
そんなことが発生しているかもしれない。
マイヤはなかなかのやらかしをしてくれたようだ。
でも、それを私は攻められない。
自身の体を売ったんだよ? 私は200年以上前、行為を迫られた時に恐怖のあまり逃げ出してしまった。
それほどの恐怖を乗り越えてなんとかお金を貯め、今この状況を作ったわけだ。
並の精神では耐えられないし、これほどまでに復讐の念は強かったって言うことだ。
「マイヤ、やっぱりまだお父さんのことを恨んでる?」
「はい。もちろんです」
「……お父さんって魔物化してないんだよね?」
「え? はい。してませんけど」
「じゃあ、これ終わったら殺す?」
「……う~ん」
殺すか殺さないか。私は結構即答で殺すと答えるかと思ったんだけど、どうやら悩ましいらしい。
簡単に殺せる。何なら今ここからでも殺せる。
「殺さなくて良いです。今、世界からすれば父より私の方が悪人ですから。それに、今父を殺せばセレニア王国に住む民が皆苦しむことになる。
やっぱりそれは避けたいなって」
「……そっか。良い判断だよ」
「こりゃひどいね……」
私たちは帝都に到着した。
空を分厚い雲で覆われているため、帝都は昼間だというのに相当暗い。
どんよりとした町。魔力の濃度が濃く、それでいてじめっとしている。
非常に不快だ。
民は他の国と同じように仕事をしている。
ただ、その表情は非常に暗い。何かにおびえているような。そんな感じだ。
「どうする? ここからでも城を撃って城ごと魔道具壊しても良いけど」
「やめておきましょう。解決した後に普通の生活に戻れなくなってしまったら悲しいです」
「それもそうだね。……しかも城は外部から攻撃が出来ないみたいだし」
「それはどういうことですか?」
「今ちょっと軽く魔力を城に向けて飛ばしてみたんだけど、全部吸収されちゃったんだよ。魔法攻撃が効かない。城の中にどうにかして入らないとダメみたいだ」
「なるほど。突撃しますか?」
「リスクが高い。住民に話でも聞いてみよう」
そう思い町中を歩くが、誰一人として話しかけられるような状況ではない。
時折すれ違う魔物化した騎士たち。魔人の騎士におびえている。
ここでいきなり攻撃を仕掛けるわけにも行かず、すれ違っても無視して歩く。
大通りの居心地が悪く、マイヤの情報を元に騎士がいない裏道へと入った。
すると、その裏道に一人の老人が座っていて、私たちを手招きで呼んでいた。
「君たちはよそから来たのか?」
「はい。そうです」
「なら早く逃げなさい。ここに居てはいけない」
「どうしたんですか。この町は今どうなっているんですか」
そういうと、より一層声を小さくして、ささやくように話し始めた。
皇帝が魔人になっている。
それは帝都では皆が知っている認識だ。
通常魔物化した生物は自我を失う。ただ、皇帝は自我を失わなかった。
私は口には出さなかったが、これはマイヤの魔道具の影響だろうということが分かった。
魔物化して強大な力を得た皇帝は、騎士を次々に魔物化し、強大な騎士団を形成。それにより一種の圧政を引くようになった。
民を強大な力で管理し、逆らったものを次々に殺す。
そういった独裁政治を引いている。
皇帝が魔物化した頃から、帝都は今もある分厚い雲に覆われ、雨が降るようになった。
これにより、今まで入手困難であり、生活に欠かせない水の入手が簡単になった。
その影響で、民の生活水準は上がり、国は豊かになった。
……そう思われていたが実情は違う。
皇帝は税を上げ、民を奴隷のように扱いだしたのだ。
確かに国は潤った。ただ、民の生活はさらに悪化していたのだ。
でも逆らえない。逆らえば自分はおろか、家族や近しいものまで殺されてしまう。
心を無にして働くしかない。そんな生活が数年続いている。
「改めて言う。今すぐここから離れなさい」
「ギンさん!」
「分かってる」
おじいさんが話している間、ゆっくりと近づく反応があった。
それに気がついたマイヤは声を張り上げた。
どうやら私たちは魔人化した騎士たちに囲まれてしまったようだ。
しかしもう遅い。なんとかおじいさんを守りたい。
きっとこうなることを理解して私たちに話をしてくれていたはずだ。なんとか、なんとか……。
「こりゃもうだめだ。でもいい。わしは老人で、どうせすぐ死ぬ運命にあるんじゃ。早く行きなさい」
「……でも」
「はよいけ! 早く!」
「……っ。失礼します」
心苦しい。戦えば勝てるかもしれない。でもただでさえマイヤがいる。
マイヤも戦えるとは言え、囲まれた状態で無事で居られるほどの実力はおそらく持っていない。
そこにおじいさんが加わってしまえば……。
私たちは最大限の感謝と敬意を示しながらその場を後にした。
去り際チラッと見えた。見えてしまった。
心臓を貫かれ、モノとなり地面に伏せるおじいさんの姿が。
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