3
お得用パックの花火を二人で消費し切るには、二時間近くがかかった。
いつの間にか夜はとっぷりと暮れ、気温も急激に下る。それでも二人は律儀に花火に火をつけていた。
寒い。その事実は禁句のように口には出されず、どうでもいい内容の話をぽつぽつと交わした。
代返がきかない授業についての文句や、今抱えているレポート課題の内容、楽に単位がもらえるオープン科目についての情報交換。
そして、花火を消費しきると、二人はろうそくに手をかざして指先を温めた。冷え切った指先に、じんわりとぬくもりが通う。火って偉大だな、などと倫太郎と俊は言い合ってちょっと笑った。
そうこうしていると、まるで二人の指先が温まるまで待っていたかのようなタイミングで、背後から声がかけられた。
「倫。」
感情の色が乗せられないくらい、ごく短い呼びかけ。
倫太郎と俊は、同時に背後を振り向いた。
そこには、怖いくらいの無表情で越前が立っていた。
俊はなぜだかとっさに、自分の背中でろうそくを隠していた。
けれどその動作が逆に越前の目を引いてしまったらしく、彼の色の薄い瞳が、水色のろうそくの上に止まった。
「……倫。」
呼びかけはさっきと同じ。けれど、明らかに今回の呼びかけには驚きと悲しみの色が含まれていた。
ろうそくは、もう8の目盛りのところまで溶けている。
倫太郎は、越前の呼びかけには応えなかった。
ただ、花火のゴミを拾い上げてリュックに押し込み、俊の腕を掴んだ。
「行こう。」
俊は躊躇った。だって、越前はあんなにも絶望的な顔をしてろうそくを見つめている。
「倫太郎。いいのか。」
越前には聞こえないように小声で問えば、倫太郎は越前にも余裕で聞こえてしまう声のボリュームで返してきた。
「いいんだ。もう終わりなんだから。」
終わり。
なにも始まってさえいない俊は、それ以上の言葉を見つけられず、しかしその場から動くこともできず、越前と倫太郎を見比べていた。
「俊。」
苛立ったように、倫太郎が俊の手首をぐいと引いた。
いつもへらへらと笑っている倫太郎にしては、それはひどく珍しい表情と動作だった。
俊は倫太郎と越前を見比べ、どうしていいのか分からないまま、倫太郎に引っ張られて歩きだした。
越前が追ってきて、倫太郎を無理にでも引き止めるかもしれないのに。
俊はそう予想したのだが、越前は水色のろうそくを見つめたまま、視線ですら二人を追いかけようとはしなかった。
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