真冬の花火

秋から冬へ移り変わる中で俊が把握した事実によると、どうやら倫太郎の手帳に書かれた俊の出番は、月に一度か二度のようだった。

 その度に俊は、階段前で呼びとめられ、講義をさぼり、倫太郎を抱いた。

 変わらない日常。そう思い込もうとした。ただのルーティーン。慣れてしまえばどうってことはない。

 ただ俊の喉に引っかかっていたのは、常に越前のことだった。

 越前とは寝ているのか。

 それを問うだけで、下腹のじりじりするような痛みは多分消えた。

 それでも問いかけられないのはなけなしのプライドだった。

 倫太郎は、俊のプライドになんて気が付いていないような顔をしていた。けれど、そのプライドを突き崩してきたのも倫太郎の方だった。

 「俊。」

 階段の下で声をかけられた俊は、戸惑って倫太郎を見返した。

 いつも倫太郎が俊を呼び止めるのは、火曜日の3限前の昼休みと決まっていた。それが今日は、金曜日だったし時間ももう5限が終わった後の小休憩だった。

 いつの間にか秋も終わり、冬も半ばを過ぎていた。窓の外はもう真っ暗だ。

 だから俊は、どう反応していいのか分からないで倫太郎の目を見ているしかなかった。

 倫太郎の隣には、越前が立っていた。当たり前みたいに。

 その越前なんて存在していないかのような態度で、倫太郎は背負っていたリュックサックを前に担ぎ直し、中から花火のお特用パックを取り出した。

 「花火しようぜ。」

 いつか、金魚すくいに誘われた日と同じ匂いがした。だからだろう、俊は自動機能みたいに頷き、傍らの祐一を振り返った。

 「ごめん、今日は飯行けないわ。」

 5限終わりにはいつも学食で俊と飯を食っている祐一は、何か言いたげに俊を見た。

 倫太郎に纏わる悪い噂話を祐一が俊に聞かせたことは、結局これまで一度もなかった。

 「行こう。」

 倫太郎が、いつものように無邪気に俊の手を引いた。すれ違う男の中の幾人かは、その手をちらりと横目で確認していた。

 その視線に俊が感じたのは、優越感ではなかった。あの中の誰かも、セックス以外の遊戯に、例えば金魚すくいや花火に、誘われているのかもしれない。

 そう思っただけで。

 「いいよ。」

 俊はそう答えて、倫太郎について行った。

 そうするしかなかったのだ。感情なんて追いつかない。ただ、倫太郎の誘いをいつも俊は断れない。



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