第8話
「コーデリアさん? 大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫。ありがと」
潜って来た門を振り返って、しばし立ち止まったのを心配されてしまった。思考を切り替え、少し先を行くラースディアンとロジュスと並ぶ。
「とりあえず、宿で話すか?」
「そうね。それがいいと思う」
体を休めて夜を越すだけの中継地点なので、できることは少ない。道の真ん中で集まって立ち話をしていたら、町で同じことをするよりも目立つ。
迷惑度合いは往来の人の数的に、宿場町の方が低そうではあるが。
空室のあった宿を取って、一部屋に集まる。
最後に入ったラースディアンがきっちりと扉を閉めて、それぞれと等間隔に座った。
「入念だな」
「あまり人に聞かれたい話ではありませんからね。常識を疑われる話になると思いますし」
軽口を否定しなかったラースディアンに、ロジュスは重ための溜め息をついた。
「ロジュス。禍刻の主がフレイネルを攻撃したとき。これまでと違ってはっきりと神力を使っていたわ」
「はい。しかもとても純度の高い」
当初から禍刻の主のマナに違和感を持っていたラースディアンは、確信した強さで断言をする。
「神力だと思われないように偽装してたのよね。だからマナも、禍刻紋の気配もおかしかった」
神力とも魔力ともいえない、不思議な気配だと感じていた。
(きっと、わたしたちよりずっと純粋に神力しか扱えない禍刻の主には、そこまでの偽装が限界だった)
そしてコーデリアとの実力が大きく開いていたため、正体が掴めなかった。そういうことではないだろうか。
「今日は大層焦ったのでしょうね。自身の力を偽装する余裕さえなかったわけですから」
「それだけ、わたしたちを急いで助けに来たのよね。ついでに言うと、現れ方も都合がよすぎるわ。まるでずっと見ていたかのように」
仮説の答えはコーデリアの中にはある。
少しは確証を得られるような動揺が見えないかとロジュスの表情を注視したが、意外にもラースディアンが無反応だった。
ロジュスにも、これといった変化は見られない。代わりに軽く肩を竦められた。
「それはおかしくはないんじゃないか? 自分で印をつけた相手の状況ぐらい、何となくでも把握してるんだろ」
「その可能性はあるけど……」
あまりに平然と言い切られて、コーデリアの方が揺らいでしまう。
「相手の状況が分かってないと、生贄として成長したかどうかだって分からないだろ」
「うん、まあ……」
禍刻紋は肌の上に浮かび上がっているだけではない。コーデリアのマナと深く結びつけられている感覚がある。
言われた通りに、禍刻紋を通じて体の状態を把握されてもおかしくない、と思うぐらいには。
「色々と謎であることは多いですが、今回の件ではっきりしたことが一つあります」
「禍刻の主は魔物じゃない。むしろ神々に属する存在よね?」
「……みたいだな」
ラースディアンとコーデリアが確信を持っていえば、ロジュスも否定はしなかった。
「だとするなら、よ? 色々辻褄が合わないことが出てくるわよね? 禍刻の主の目的って何。禍刻の主がレフェルトカパス神に属する存在なら、どうして現れた年に魔物が活性化するの」
「人間を選んで、己と戦わせようとする意図も謎です。歴史書を信じるのなら、戦って――禍刻の主はおそらく、退いている」
だから同じ姿の禍刻の主が幾度も登場するのではないだろうか。
(実際には、討伐なんかしていない。するような相手でもない。歴代の英雄もそうと知っていた……?)
それでも彼らは黙って、討伐を成し遂げて平和を護ったことにした。
全員が全員、保身のために口裏を合わせたわけではないだろう。
(きっと、必要があった)
今のコーデリアには見えてこない真実ゆえに。
「もっとわたしが力を付けて『生贄』に相応しくなったら、答えを与えてくれるのかしら」
「かもな」
同意をするだけで、自らの考えは口にしない。ロジュスの態度にコーデリアは不満を覚えた。
「ロジュスはどう思ってるの」
なので、直球で聞いてみる。しかし。
「その辺を考えるのは俺の仕事じゃないからなー」
さらりと投げやりとさえ言われかねない言い分を返されてしまう。
(どうなのかしら)
仕事ではないというよりも、知っているからあえて答えを与えないようにしている。
そう感じるのは、果たしてコーデリアの気のせいなのか。
「あと、わたしを庇ってくれたときのことだけど」
「ああ、頭突きくれたやつな」
「その前!」
真剣な話をしようとしているときに茶化してはぐらかそうとされると、余計に苛立ちを感じる。やや強い語調で修正をした。
「貴方と禍刻の主のマナ、そっくりだったわ」
そしてロジュスは確信していたはずだ。
自分の神力が禍刻の主の放つマナにとって、反発を受けるものではないということを。
「物真似は得意だな」
「そういう問題じゃないと思う!」
「いや、そういう問題だって。なあ、ラス」
水を向けられたラースディアンは、納得はいっていなさそうに眉は寄せつつ、しかしうなずいた。
「そうですね。似ていました。しかし、違うものではありました」
「そう、かな……」
ラースディアンまでもが『違う』と判断するなら、自分の思い込みかもしれない。
広域の探索はコーデリアの方が得意だが、精密な判別はラースディアンの方が優れている。
自信があったはずなのに、あっさりと薄れていくのをコーデリアは感じた。
「禍刻の主の件はもちろん気になりますが、分かった事実以上の答えは出ないでしょう」
「……そうね」
何しろ問うべき当事者がこの場にいない。
「俺としては、フレイネルの待ち構え方の方が気になるけどな」
(ロジュスは話を逸らしたいだけじゃないの?)
――と、ものすごく突っ込みたかったが飲み込んだ。
話を蒸し返したところで、堂々巡りになるだけ。それにフレイネルの存在が気になるのは、コーデリアも同じだった。
「やっぱり、わたしたちを待ち構えていたのよね?」
「そうとしか見えませんでしたね」
しかも本まで持参して読む余裕っぷりだ。確信を持ってあの場にいたのは間違いない。
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