2009年 - A Hazy Shade of Winter
“ストライカー”が移籍に伴って引っ越して遠距離恋愛を続けていたアタシ達、毎週末のように彼のところに行っていた。
あまり順調とはいえなかった。アタシは彼の浮気を疑っていたし、彼もアタシと“V”の関係を疑っていた。でもお互い確証もなく決定的な何かがあったわけではなかったので付き合いは続いていた。
彼を嫌いになったわけではなかったし、会えるのはうれしかった。
彼もうれしそうだった。たまには彼が来た。そんな生活が半年くらい続いていた。
その週末も雪が舞っていた。
新幹線から降りたアタシはキャリーバッグを抱えてタクシーに乗り彼の借りているマンションに着き、キャリーバッグをガタガタと鳴らしながら彼の住む一室の前に来た。
チャイムを鳴らすと想定外の光景が ── いや、想定内だった。
肩より少し短いミルクティ色の髪で、ふんわり系のメイク、大学生時代にはミスコンでいい線までいったけどアナウンサーにはなれなかったふうな、20代前半の女の子が出てきた。
彼女は口を開けたまま目を見開いて何も言わなかった。。
アタシが誰なのかはわかったようで、アタシの存在を知ったうえで彼とそういう関係に至ったわけだ。
奥から異変を察した彼もでてきたが何も言えず、シラケたアタシの目を見てバツが悪そうな顔をした。
ごめんというようなその顔はかわいかったが、
「アタシ、戻るね」
と、言ってクルリと体を反転させて来た道を戻ろうとして玄関の扉を閉めた。マンションのエレベーターを待っていると、慌てたように彼が出てきて「待って」と、言ってアタシの少し後ろに立った。
「待ってって……3人で食事でもするの?」
アタシは冷たく返答した。
「だよな……ごめん……」
「とりあえずアタシが行くよ。駅前のホテルに泊まる」
「後でそっち行くよ」
申し訳なさそうな彼のしんみりした声に絆されることなく、アタシは冷静に会話をして駅近くのホテルに向かって雪道を戻った。
雪が積もってキャリーバッグの車輪が回らない。重たい気持ちを引きずるように重たいバッグを引きずった。らちがあかなくなって抱えてザクザクと雪を踏みしめて歩みを進めた。
数分後、あとを追って彼がホテルまで来たが話さなかった。
1回目は知ってはいたけど見逃した。
2回目は*シミュレーションばりに大騒ぎして謝罪とシャネルのバッグを勝ち取った。
今回は見事な*オウンゴール。
彼は何度も謝っていたし、遊びなのもわかる。
嫌いになったわけじゃない。でももう続ける気はなかった。
それで“ストライカー”とは終わった。
♪ Simon & Garfunkel - A Hazy Shade of Winter
https://youtu.be/dVA-1iJxRQI
◆◆◆
▶シミュレーション - 相手選手のファウルによる転倒を装って、審判を欺く行為のこと
▶オウンゴール - 自分の能動的な行動によって自陣のゴールに誤って失点してしまうこと
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