第7話 成長と確証

ダンジョンにて―――



コアと4体の魔物がいるこの部屋は迷宮の最奥、いわば玉座の間だ。

ダンジョンコアと一体化した今、コアに何か不測の事態が起きれば、ダンジョンの崩壊に繋がりかねない。

冒険者ギルドにこのダンジョンの存在を以上、コアは有事に備え常にこの部屋に座し、ダンジョンの管理に勤しんでいた。



「冒険者が、増えてきたね」

「はっ、本日は2組……いずれも3人です」


コアは、自身の前で4体の魔物の報告を受けていた。

一歩前に出て、膝をつき平伏したまま言葉を紡ぐのは『豚人間オーク』……から成長した『豚戦士オーク・ウォリアー』。もともと人間よりも逞しい身体だったが、さらに鍛えられ、全身から力をみなぎらせていた。

他の魔物もそれぞれ『男爵級悪魔バロン』『女夢魔サキュバス』『骸骨魔術師スケルトン・メイジ』に成長している。

魔物は魔力を吸収し、それを基に身体の構造そのものを変えていく性質がある。

それ故、戦いに身を投じていたり、長い時を過ごした魔物程強大な存在となるのだ。



「被害はどれほどだい」

「こちらは『骸骨スケルトン』を壁に立たせましたので、多少の負傷はありましたが死者は出ていません。

 冒険者側は4人が死亡、2人は『闇妖精インプ』の『魅了チャーム』により捕縛しております」

「念のため聞き取りして、終わったら殺しておいて、あとで『骸骨スケルトン』にする」

「はっ」


豚戦士オーク・ウォリアー』の発言に次いで、『女夢魔サキュバス』が答える。

闇妖精インプ』から成長した彼女は、黒に近い深緑の長い髪をもつ、陰鬱な雰囲気を纏った美女の姿をしている。背から生える大きな翼と、頭部の長い角が揺れていた。



「多分だけど、冒険者ギルドが派遣した人間たちじゃあない。

 耳が良いだけの、抜け駆けでやってきた類だと思う。

 冒険者ギルドがやってきたにしては人数も少ないし、早すぎるからね。

 冒険者たちが本腰を入れてやって来る前に、こちらも出来るだけ成長しておく必要がある。次は『豚人間オーク』と『小悪魔グレムリン』たちを軸にして戦ってほしい、経験を積ませたい」

「必ずや武勲をたてて見せましょう」

「拝命いたします」


豚戦士オーク・ウォリアー』と『男爵級悪魔バロン』が頭を下げる。



「ごめんね、本当は俺……が、常に、その都度、細かく指示を飛ばせればよいんだけど。

 ダンジョン内を知覚できるとはいっても全体を把握しきれるわけじゃあないし、今後人間が増えてきたら、とてもじゃないけど対処しきれないと思う。

 だから、君たちを主軸としてダンジョンの防衛を行っていくつもりだから」

「「「はっ!」」」


再度平伏し、部屋から退室する4体の魔物を見ながら、コアは思案する。

魔物は戦いと時間を通して成長していくが、ダンジョンコアである自身には、『魔物召喚能力サモンスキル』がある。

魔力さえ蓄えれば『豚戦士オーク・ウォリアー』を呼ぶこともできる。

それだけ見れば『豚人間オーク』を育てて、『豚戦士オーク・ウォリアー』に成長させるよりも手間がかからない。


しかし、戦いの場を踏んだ『豚戦士オーク・ウォリアー』と呼びだしたばかりの『豚戦士オーク・ウォリアー』では、前者の方が遥かに強いのだ。

戦闘経験だけでなく、純粋な身体能力も差が出ている。

また何よりも、維持魔力ランニングコストがかからない。

魔物たちは、食事を摂る代わりに魔力を吸収して身体を維持する(食事が摂れない、というわけではないが)。それは強大な魔物ほど大きくなる。

つまり『豚人間オーク』より『豚戦士オーク・ウォリアー』のほうがより多くの魔力を消費するのだ。

そのため、いくらコアに『魔物召喚能力サモンスキル』があるとはいえ、無限に魔物を呼び出し配備することはできない。


しかし、『豚人間オーク』が成長して『豚戦士オーク・ウォリアー』へ育った場合、必要な維持魔力は少なくて済む。確証はないが、おそらく身体を作り替えていく過程でより効率的な魔力の運用ができるのだろう。


……このことは、コアと一体化した『迷宮核ダンジョンコア』ですらあまり把握していなかった。

迷宮核ダンジョンコア』達は……つまり、魔物を育てる、ということをしていなかったのだ。

本来であれば手間もかかる上、無理もない話……だが、コアは初めて試みようとしている。



「私は……やるぞ」


コアは目を瞑る。

実現すれば、他のダンジョンをはるかに凌ぐ戦力を作ることができる。

地の果てまで行進する、魔物たちの軍勢を。

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