第3話 権能と魔物

『ダンジョンコアたる我らの権能は3つ。


 ダンジョンの形成

 

 魔物の召喚

 

 そして、宝物の生成。


 これらはすべて魔力を基に行う。

 魔力は生物の内より湧き上がるものだが、余剰分が体外に放出されている。

 我らダンジョンコアはこの身に、その大気を漂う魔力を吸収する力を有する』


ジョンはダンジョンコアに、魔力についての指導を受けていた。

目を閉じて周囲に気を配れば、不可視の力の波のようなものに気が付く。

それが自身の身体に流れ込んでくると、言いようのない力が自身の中で渦巻く感覚に見舞われる。

ジョンは、その流れを誘う様に手を突き出して力をこめる。

すると、ズズズ、と鈍い音を立てて、洞窟の入口がジョン達のいる部屋より

ダンジョンが伸長したのだ……ジョンのいる部屋が、より奥地へと進むように。



『汝のその身ならば、何をせずとも、魔力を溜めることはできる。

 だが、それには膨大な時間が必要になる』


ふとジョンが目を向けると、ダンジョンに迷い込んだらしい小動物の姿があった。

それは鼻を鳴らして周囲をゆっくり歩いていたが……運悪く、ジョンが試しに設置していた罠を踏み抜く。

ズダダダダッ!と音を立てて床から槍が突き出し、小動物は即死した。

すると、その死体からずるりと、不可視の力……魔力が溢れ出したのを感じる。

意識してそれを手繰り寄せると、ジョンの身体に流れ込んできた。

それは周囲に漂っている魔力よりも、遥かに多い。



『生物が死んだとき、魔力は一気に放出される。

 自然に抜き出る余剰分のそれとは比較にならない量だ。

 それが人間ともなれば、より多くの魔力を入手することができる。

 そのために、我らはダンジョンを造るのだ。

 迷いの道をつくり、魔物を配置し、罠をしかけ、宝物により誘い出す。

 人間をより、効率的に殺すために』


集まった魔力の量を確認しながら、ジョンは左腕を掲げる。

単なる村人であるジョンは、魔法を使ったことはおろか、見たことすらなかった。

しかしダンジョンコアと一体となったためか、どうすれば良いのかは自ずと理解できていた。

まるで、子守歌を思い出すように、魔法の詠唱を口ずさむ。



「……仄暗い暗渠に住む獣よ、我が主人だ『魔物召喚ライク・ア・ハウンド・リード・アス』」


ジョンの身体の中でずるりと魔力が流れる。

それは左腕の先端まで移動し、そこから粘性のある液体のように解き放たれた。

地面に落ちたそれは真っ黒な泥のようにも見えたが、ボコボコと泡をたてて、4つの姿を形どる。


1つは、『豚人間オーク』。緑色の肌を持ち筋骨逞しい肉体を持っている魔物。

1つは、『小悪魔グレムリン』。ギョロリとした目玉に小柄で毛むくじゃらの魔物。

1つは、『悪妖精インプ』。胎児のような姿に蝙蝠の翼と長い尾の生えた魔物。

1つは、『骸骨スケルトン』。人間の骸骨をそのまま立たせたような存在。


骸骨スケルトン』を見て、ジョンはくすりと笑った。

魔力を抽出した小動物の影響を受けたのか、『骸骨スケルトン』の頭部だけは動物のそれになっていたのだ。



ザッ・・・・・・


4体の魔物はジョンの姿を認めると、一糸乱れぬ動きでその場で膝をつき首を垂れる。

彼らは知っているのだ。

彼らが目にしているのは単なる村人ではない。

それは召喚の魔法で呼ばれた以上、服従を余儀なくされるということよりも。

あるいは、魔力の源を操る以上、その気になれば彼らを「いなかったこと」にできる権能を有するということよりも。


その人の身の内に、底知れない憎悪を抱えていることに。

もはやジョンが怪物であることに、敬服していた。



「……俺に力を貸してくれ。どうか、頼む」


4体の魔物は、さらに深く頭を下げる。

それは王の拝命を受ける、騎士の姿に似ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る