6://その中身は

 黒い金属製の大きな筐体の中央に、霜がついているのか中身が見えない青白いカバーが備わっている。

 側面から伸びるチューブの束は、船の壁面につながっていたり床に放置されていたりとさまざまである。


「これは……コンテナ船内で開けるしかなさそうかな。シロ、この船の電源とかエアロック、生きてそう?」

『システムチェック……電源はすでに故障しており、非常用発電機が中央のデバイスに接続されているのみです。ただし、当機からの電力供給が可能であり、またエアロック機構も十全に使用可能です』

「じゃあ、ちょっと行ってくるね。っと……私用のパイロットスーツは……」

『アイテムボックスから船外活動用セットを取り出します』


 そのメッセージとともに、灯里の膝の上にスーツやヘルメットなどの一式が現れる。

 便利なものだ、と思いつつコックピットの中で学生服を脱ぎ、下着の上からパイロットスーツを着る。見た目自体は身体のラインにフィットする全身スーツといった風貌だが、船外活動にも対応したハイテクスーツである。

 そこにヘルメットを被り、首元のスイッチを操作してロック。電源が入り、バイザー部に生体情報などが表示される。

 ゲームでの知識が生きているのは助かるが、現実と化してしまった今、本当にこれで大丈夫なのか多少心配な気持ちにはなる。


「まあ、行くしかないよね……。シロ、ハッチを段階的に解除して。何か問題があったら中止して」

『了解しました。ハッチ、段階的に解放します』


 プシュッと音がしながら、五層からなるエアロックが解除される。完全にハッチが解放されても灯里の呼吸は大丈夫そうなので、パイロットスーツは問題なく機能しているようだ。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 そう呟いて、無重力空間を漂いつつコンテナ船の内部へ。

 スーツの各部には空気式の姿勢制御機構が備わっており、無重力空間内の移動はVoVプレイヤーならば誰もが練習したものである。


 あっという間にコンテナ船の貨物室に到達し、シロに指示をしてエアロックを閉じてもらう。

 数分も経たず、貨物室内部は通常気圧の空間になったのだった。

 それを確認して、多少視界が曇るバイザーを上げて、謎の装置のコンソールを眺める。

 付属のタッチパネルは死んでいるのか、いくらタップしても反応はない。だが、その付近に物理的なスイッチがいくつかついており、こういった事態も想定した作りらしいことがわかる。


「開けるのは……このレバーかな、たぶん。よい……しょっ!」


 側面に生えている赤色のレバー。そこに書かれた注意書きは未知の文字で書かれており解読できない。

 ただ、ひとまずはそこが開閉レバーだと信じてそこを両手で握り、重いレバーを全力で引っ張る。

 凍りついたように重いレバーだったが、しばらく唸っていると少しずつ動き始め、ガコンという音と共にレバーが動ききる。

 それと同時に、青白いカバーからいくつかの機械音が響き、最後にプシューッという音と共にカバーが上方に開き始めた。


「よかった、正解……っと。 中身、生きてるといいけど……」


 冷気と共に白い気体が流れ出て、ついにその内部が明らかになる。

 そこには――銀色の幼女が収まっていた。

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