4://襲撃


「――っ!」


 警告音が鳴るより一瞬先に、灯里はその襲来に気付いた。

 右側面から謎の圧力を感じ、咄嗟に前方へのクイックブーストを敢行。

 これまでの人生で感じたことのないレベルのGが身体を襲い、激しい嘔吐感が襲う。

 しかしその回避のおかげで、熱源が背後を掠めていったのが背面モニターで確認できた。

 それはレールガン系統の砲弾らしく、かすかな放電音を残しながら彼方へと飛び去っていった。


「発射元の存在を限りなく隠蔽した超遠距離射撃……! でも、これで方角はわかった……やってやろうじゃん!」


 灯里は即断即決し、シロを回頭させて、ブースターを起動。

 再び灯里を激しいGが襲う。


「し、シロ……G軽減機能ってなかったっけ!?」

『現在、G軽減機能はマスターの指示によりオフになっています。起動しますか?』

「ああそうか、リアルな方がいいからって切ってたんだっけ私のバカ、効果最大で起動して!」

『了解。軽減度92%で起動します』


 その瞬間、フッと身体にかかるGがほとんどなくなる。

 どういった機構なのか灯里は全く知らないが、VoV世界の機体(宇宙船を含む)はコックピットにかかるGを軽減する機能が備わっている。ただし軽減したGは機体内部で相殺する必要があるとかで、軽減すればするほど機体のエネルギー消費が微量ながら上昇するという細かい設定がある。


「やっぱり生身はキツイってことか……、っ、また来る……!」


 近付かれて余裕がなくなったのか、進行方向から数発続けてレールガンが飛来。その後続には、数十発の小型ミサイルが弾幕を形成している。おそらく一発の威力はさほどでもないが、シロのペラペラ装甲には十分に脅威である。

 灯里はクイックブーストを左右にかけてレールガン群を回避。続くミサイルも、強めのクイックブーストを噴かし大きくドリフト気味に機体を転換し、感知範囲を大幅に回避することに成功!


「その手のは慣れすぎてるの! ――ターゲット見っけ、これで――!」


 その爆発的な速力は一瞬で彼我の距離を詰め切った。

 一瞬だけ見えた相手の機体は、ずんぐりとした図体に大型のレールガンを背中に装備した典型的な狙撃スタイルであった。

 そう認識するのと同時に、シロの振り抜いた大太刀、シラヌイが敵機を真っ二つに両断していた。


『ザザッ…………そんな、冗談だろ…………ザザザッ』


 敵機から無差別近距離通信が聞こえてきて、機体は爆発したのであった。


 その様子を見ながら、灯里は自身が震えているのを感じていた。

 機体を掠める弾丸、強烈すぎるG、敵機を両断する感覚、爆発する機体から伝わる振動、そのどれもがあまりにもリアルすぎるのだ。

 ふと頬に何かを感じて、灯里は手で拭う。

 それは自身がいつのまにか流していた涙であった。


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